サイバーセキュリティ事業を主力として、複数の領域でビジネスを展開するココン。同社は10月5日、YJキャピタルや住友電気工業などを引受先とした第三者割当増資により、約28億円を調達したことを明らかにした。創業以来の第三者割当増資による調達額は累計で41億円になるという。
ココンでは調達した資金を基にコネクテッドカーや産業制御システム、電力インフラなどの領域におけるセキュリティ診断技術の研究開発やプロダクト整備を進める計画。また引き続き、サイバーセキュリティを含むテクノロジーやデザインなど、同社のケイパビリティに関連したM&Aも推進していく。
M&Aで事業拡大、近年はセキュリティ領域が成長
ココンは早い段階から積極的にM&Aに取り組みながら事業を拡大してきたという意味で、珍しいタイプのスタートアップと言えるかもしれない。
2013年2月にPanda Graphicsという社名で創業。ゲームイラストに焦点を当てたクラウドソーシング事業からスタートした。翌年には資金調達を経て3DCGモーション制作を手掛けるモックス、UX設計・UIデザイン事業を手掛けるオハコとそれぞれ資本業務提携を結びグループ会社化。2015年5月には当時Groodが展開していた音声クラウドソーシングサービス「Voip!」を譲受している。
現在のココンへと商号を変えたのは2015年7月のこと。同年8月にはセキュリティ診断を行うイエラエセキュリティを、翌年7月にはセキュリティなどの情報技術における研究開発支援に取り組むレピダムを完全子会社化。2017年12月には動作拡大型スーツを開発するスケルトニクスにも出資をした。
これまでに実施したM&Aは5社。特にサイバーセキュリティ領域は同社にとって軸となるような事業に成長していて、倉富氏も「いろいろな偶然もあってM&Aの機会をいただき、結果的にはそれが会社を大きく伸ばすことにも繋がった」と話す。
セキュリティ事業ではWebアプリやモバイルアプリ、IoTデバイスなどにおけるセキュリティ診断やペネトレーションテストサービス(実際のハッカーによる攻撃を想定した擬似攻撃を通じて脆弱性を発見するテスト)を展開。ここ1年ほどで、車や制御系システムなど新たな領域における仕事も増えてきているという。
「Webやモバイルだけでなく、あらゆるものがネットに繋がる時代。そのような社会ではどのようなものが新たにセキュリティの脅威にさらされるか、未来を見据えた際に今後対策が必要になってくる分野へ先んじて事業を広げてきた」(倉富氏)
たとえば今回の調達先でもある住友電工は、車の電源や情報を伝送するワイヤーハーネスを始めとした自動車製品の開発に力を入れてきた企業だ。同社とは車のセキュリティ対策に関してシナジーが見込めるだろう。
これに限らず昨年11月には保険領域でSOMPOホールディングスと提携をしたりなど、さまざまな業界で大手企業との取り組みも加速させている。
セキュリティ事業の研究開発とM&Aを推進へ
そんなココンは28億円という資金をどこに投資していくのか。冒頭でも少し触れた通り、大きくは「セキュリティ事業の拡大に向けた研究開発やプロダクトアウト」と「その他の領域も含めた組織強化のためのM&A」の2つになるようだ。
セキュリティ事業についてはここまで紹介してきたような分野を中心に、診断技術の向上に資する環境整備や人工知能を活用した診断技術の研究開発などにも取り組む。
特に技術面ではロシア最大級のハッキングコンテストで準優勝、ラスベガスで開催された車載通信ネットワークに関するハッキングコンテストでは優勝するなど、海外のコンテストでも日本人中心のチームで戦えるようになってきているという。
「とはいえ、グローバルで世の中のためになる事業を作るという意味では、影響力も極めて段階的。現時点ではスタートラインにも立てていないような状況だ。これから中長期で研究開発を進め、グローバルで勝てるような技術的なバックグラウンドを持った、影響力のあるセキュリティカンパニーを目指していきたい」(倉富氏)
目下の軸はセキュリティに置きつつも、他の領域も含めてM&Aを推進するスタンスも崩さない方針。サイバーセキュリティや暗号技術、人工知能などのテクノロジーと、UI/UX設計などのデザインやブランディングといったココンの持つケイパビリティに関連するM&Aを実施し、“ひとつのチームとして”顧客や社会の課題解決に繋がる事業を展開していくという。
「自社ならではの独自性とは何かを考えていく中で、シナジーがある会社に入り込んで、一緒に汗をかきながら成長してきた。今後もテクノロジーに詳しいというのをひとつの軸に独自なポジションを築いていきたい。また国内初で大きくなっている会社を見ると、M&Aに向き合いながら成長している会社が多い。M&Aに関するノウハウを早期に蓄積しておくことも、将来を見据えた時に重要なことだと考えている」(倉富氏)