倫理条項を初めて資金提供協定に盛り込んだ米国の女性起業家

Keep your head high and give them hell(あわてずに、彼らを痛い目にあわせてやれ)

私の祖母であるOpal Thompson(オーパル・トンプソン)は、屈強な生粋のテキサスっ娘らしく、私にそう書いてよこした。今この言葉は、みんなに見えるように私の前腕に彫ってある。祖母の強烈な存在感と貴重な助言の思い出は、起業家になるまでの私を導く正しい道であり、この業界で懐疑的な人たちと面と向かって渡り合うときに私の背中を後押しして強気にさせてくれるものだった。「いいかい、男たちよりも一生懸命に賢く働いて仕事をやっつけるんだ」と祖母は私に言ってくれた。泥臭く聞こえるかも知れないが、それが今の私を育ててくれた。

去年の10月、恐れを知らない共同創設者Carolyn Rodz(キャロリン・ロズ)と私は、最高に誇りに思う発表を行い「彼らをやっつけて」やった。スモールビジネスの成長を支援する私たちのプラットフォームであるAlice(アリス)はシリーズA投資を決めた。それだけでもニュース価値のある大きな前進だったのだが、その見出しが実によかった。私たちは、資金提供協定に倫理条項を盛り込んだのだ。人種、性別、性的指向に関わる差別が発生したときには法的な対処を求めるというものだ。

Aliceのための資金調達でピッチを行ったとき、キャロリンと私は、そもそも私たちがスモールビジネスの経営者のためにAliceを始めた基本に立ち返った。私たちのプラットフォームは、このコミュニティーに参加する10万人を超える企業経営者たち、とりわけ、女性、退役軍人、有色人種、LGBTQ+コミュニティーの起業家たちの成長の壁を打ち破るために存在している。

私たちの仕事は、ヒントや成功事例の提供であったり、ここでなければ出会えなかったであろう投資機会の紹介であったりするが、いずれにせよスモールビジネスの経営者が仕事を「やっつける」ための手助けをすることだ。私たちには、スモールビジネスの経営者がそのベンチャーの成長に役立てられる確かで包括的なリソースになるという重大な責務がある。私たちは常に、顧客である企業経営者に新しいアプローチを試し、あらゆる側面をビッグに発展させるよう促している。それには、彼らの成長の妨げになる問題への挑戦も含まれる。

私たちの進路を長い間塞いできた問題に、物言わぬ硬直化した差別的で略奪的な有力投資家の姿勢がある。2年前の#MeToo運動によって潮流が変化し、いわゆる「ワインスティーン」条項が見られるようになったが、そのほとんどは、投資を受けた会社幹部への明らかなセクハラの訴えから投資家を守るものだ。

これは、ビジネスのあらゆる階層に説明責任を浸透させる上で正しい方向への重要な一歩ではある。しかし、こんな疑問が残る。

投資家が#MeToo運動の標的である場合はどうなのか?

名声に傷を付けられ、その行為が自身のビジネスに損害を与えてしまう場合に、取締役会のメンバーからベンチャー投資家に至るまで、意志決定を行う主要な人物を守るための法的な影響力が欠如していたことで、Aliceは辛い思いをしてきた。そこで、私たちが苦労して築いてきたAliceの名声を守るため、そして世界中から毎日私たちに助けを求めてくる企業経営者を守るために、キャロリンと私は、私たちの投資家たちとともに、模範を示し、態度を明らかにすることにした。私たちは「ワインスティーン」条項を反転させ、#MeToo案件、つまり人種差別や性に関連する差別が発生したとき、取締役会のいかなるメンバーも投票によって除名できる企業統治メカニズムを使う権限をAliceの取締役会に与えた。簡単に言えば、Aliceとその投資家は、私たちの起業家コミュニティーに不利益をもたらす態度をとる人間には、躊躇なく出口を指し示すことができるというものだ。

この規定を加えることは、私たちの会社を成長させるビジョンには不可欠だった。それは、インターネット上のビジネス・コミュニティーでインクルーシブであるという私たちの中核的な価値観に通じるものだ。また、ベンチャー投資家を探すユーザーには、まだ投資が決定する以前の段階でも、良識ある法的保護とされるべき規定を盛り込む権利があることを知ってもらいたい。私たちはこの条項を誰もが利用できるよう、そして私たちのように弁護料を払わずに済むよう、ここに公開している。

この情報を、必要とするあらゆる人の手にしっかり届けることは、ビジネスを行うすべての人が公正に扱われるようにするという私たちの使命のひとつでもある。私たちと同じように、他の企業の創設者にも資金提供契約へ倫理条項を盛り込ませることには、私たちがそうしたのと同じだけの価値がある。私たちはこれを大きな流れにしなければならない。

私たちの倫理条項は、大きなビジネスコミュニティーと、私たち全員の資金調達方法の改善に努力する私たちにとっても、大変に重要だ。スモールビジネスは、米国全体の就業者の95%近くを雇用し、米国人の半数以上の職業を支えている。

だが、女性、有色人種、LGBTQ+の人たちによる起業が日常化し、「ニューマジョリティー」へと変わろうとしているスモールビジネスの世界に対して、ベンチャー投資家の多様化は遅々として進まない。現在、ベンチャー投資会社で判断を下す人は、いまだに89パーセントが男性で占められおり、女性経営者の企業に彼らが投資する割合は、全体の2パーセントに過ぎない。ラテン系女性がベンチャー投資を受けられる比率は0.5パーセント以下であり、その他のマイノリティー起業家のコミュニティーではさらに低くなる。

これまでに、キャロリン(自身がラテン系)と私は、私たちを排除し続けてきたビジネス界に、自分たちの存在を知らしめる必要があることを学んだ。#MeTooの考え方が産業界でさらに広く受け入れられるようになれば、私たちはAliceを利用する企業や起業家を守り、この社会での影響力を永続化できるようになる。

2020年、私たちはAliceを次なる章に進め、新しい市場への拡大を目指すが、同時に私たちのユニークな起業の話を広めて他のスモールビジネスを勇気づけ、私たちと同じ道が歩めるよう力を貸したい。

ベンチャー投資家のみなさんに告ぐ。ニューマジョリティーの起業家たちがすでにここで身構えている。私たちの倫理条項はスモールビジネスの成功への道の始まりに過ぎない。

祖母のオーパルも誇りに感じてくれるはずだ。

【編集部注】著者のElizabeth Gore(エリザベス・ゴア)は、AI技術に支えられた無料のマルチチャンネルプラットフォームのAliceの共同創設者で社長。資金、ネットワーク、サービスを提供し企業経営者を支援する。

画像クレジット: jaouad.K  / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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