動画コンテンツはスマホ1つでいつでもどこでも楽しめるようになり、近年急速に普及している。YouTubeなどの動画サイトや各種SNSで目にしない日はないのではないだろうか。そしてほとんどの動画コンテンツでは楽曲がBGMとして使われている。
現状、動画クリエイターはストックBGM素材サービスから楽曲を探し、動画に合うかを1曲ずつ確認していかなければならない。「動画に合う楽曲を探すのはとても時間が掛かり大変」との声が多いという。
2020年2月に設立したスタートアップのSOUNDRAW(サウンドロー)は従来の「楽曲に合わせて動画を完成させる」といった手順を根本から変える。同社が提供する動画クリエイター向けAI作曲サービスSOUNDRAWは、独自開発したAI技術やアルゴリズムによって楽曲を自動生成し、その楽曲をユーザーが編集して商用利用もできるようにした。
動画クリエイターは動画に合わせて楽曲を「選ぶ」のではなく、SOUNDRAW上で「テーマ」や「ジャンル」などを選ぶことで、曲を作れるようになるのだ。SOUNDRAWの楠太吾代表は「これまで作曲家という特殊能力を持つ人しかできなかった『作曲』を、誰もができるように一般化していきます」と語る。
動画クリエイターなどからの反応も上々だ。2020年6月にベータ版、9月に製品版をリリースし、2021年4月時点ですでにアカウント登録者数は2万人を超えているという。
数多の楽曲から思い通りに編集も可能
SOUNDRAWの使い方はシンプルだ。ライフスタイルやビジネスなどの「テーマ」、ヒップホップやアコースティックなどの「ジャンル」といったカテゴリーを選ぶだけで、15個の楽曲が自動生成される。
ユーザーは選んだ楽曲の長さや構成、テンポ、音程などを動画に合うようにカスタムできる。演奏楽器も変更できる上、メロディやドラムといった特定の音を抜くことも可能だ。楠氏は「どんな構成でも、動画に合わせて自由に編集できます」という。
楽曲をダウンロードしたら企業PR動画やCM動画、YouTubeに投稿する動画、ゲームなどに、ロイヤリティフリーで使うことができる。著作権はSOUNDRAWに帰属しており、使用ライセンスをユーザーに付与しているかたちだ。このため楽曲の転売などは禁止している。
SOUNDRAWの会員登録は無料で、月間プランは月額税込1990円、年間プランは年額税込1万9900円。両プランともにAIによる作曲回数無制限、楽曲のダウンロード無制限となる。無料会員は作曲回数無制限と楽曲をキープする機能が使える。SOUNDRAWは今のところPCのみで利用可能だ。
また、SOUNDRAWでは動画編集ソフトAdobeのPremiere Pro、After Effectsのプラグインも開発し、有料会員に無料で提供している。SOUNDRAWはブラウザ版でも使えるが、プラグイン版はより効率よく作業できるようになる。なお、ブラウザ版はSafariでも使えるが、Chromeでの利用を推奨している。
楠氏は「プラグイン版は動画と楽曲を同時に編集できる点が大きなメリットです。楽曲をダウンロードすれば、動画編集ソフト内にインポートされます。そのデータを動画のタイムライン上にもっていくだけで、簡単に音楽と映像を合わせることもできます」と説明した。
楽曲データ量産AI
AI作曲によって自動生成される楽曲の組み合わせは理論上、数億もの数に上るという。「数えるのは途中でやめました」と楠氏は笑顔で話すが、開発に至るまでの2年間はテストをしては壊してを繰り返すなど苦労を重ねてきた。初めは鍵盤をランダムに叩いているだけといったフレーズが生まれてきたという。
楠氏はインプットするデータの質には特にこだわって独自開発を進めた。SOUNDRAWには作曲家が2人おり、インプット用のデータを実際に制作して貯めてきたでは「Melody」「Backing」「Bass」「Drum」と、楽曲を4つの要素に分解し、それぞれAIで生成したフレーズを組み合わせて楽曲を生み出す。
どのような基準で楽曲を作り上げているのか気になるが「あまり詳しくは言えません。ただ、いわゆるヒットソングを学習させているわけではありません」と楠氏はいう。楠氏はSOUNDRAWにおける質の高い楽曲には、独自に作り上げた学習モデルなどが大きく関わっているとの説明にとどめた。
楽曲数の追加と海外進出を
SOUNDRAWは数億に上る楽曲の組み合わせを有しているものの、楠氏は「人間の耳で聴くと『どこか似ているな』といったものはどうしても出てきます」と話した。SOUNDRAWは2021年3月1日に3500万円の資金調達を実施し、累計調達額は1億円を超えた。今後は資金調達を元に楽曲数の追加などに力を入れる考えだ。
楠氏は「楽器1つとっても、ピアノならオルガンやエレクトリックといった音色・フレーズの幅などを増やしていくことで、将来的には『聞いたことがある』という状況を回避できるはずです。今は外部人材も加えてチームを作って取り組んでいる最中です」と語った。
また、SOUNDRAWは海外市場への進出も視野に入れている。「これまでは国内を中心にアプローチしていましたが、音楽は非言語であり、デジタルで提供できるため、国境を越えやすい。SOUNDRAWが持つカスタム性やクオリティが高いAI作曲ツールは、海外でもまだ多くはありません。SOUNDRAWは世界で戦うレベルに達していると思っています」と楠氏は意気込む。
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カテゴリー:人工知能・AI
タグ:SOUNDRAW、音楽、日本、動画編集
画像クレジット:SOUNDRAW