「うんこが漏れない世界を」と紹介された排泄予知ウェアラブルデバイスD Freeの開発と販売を行うトリプル・ダブリュー・ジャパン(Tripe W)は、約5億円の資金を新たに調達した。まず台湾Foxconn(鴻海)系列の投資会社”2020″(Director & GPは元ソニーCTOの木村敬治氏)をリードインベスターとして約4億円の第三者割当増資を実施した。”2020″に加えiSGSインベストメントワークス、大和企業投資、みずほキャピタル、SBIインベストメントが運営する投資事業有限責任組合、それにリヴァンプの6社が投資する。同時にみずほ銀行と日本政策金融公庫から最大1億円の借入を行う。調達した資金は排泄予知デバイスD Freeの開発とマーケティング活動に充てる。
同社は2015年4月にニッセイ・キャピタルから7700万円を調達し、2016年2月にハックベンチャーズと国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から1.2億円を調達している(関連記事)。今回、Foxconn系列の”2020″からの投資を受けたことは、将来的には製造面、サポート面での鴻海精密工業グループとの協力体制の構築を期待している含みもある。アジア各国に展開する段階になれば、Foxconn(鴻海)は強い味方になるだろう。
合わせてチームも強化する。ヤマハ、シリコンバレーのスタートアップMiselu Inc.でハードウェアエンジニアとしての経歴を持つ九頭龍雄一郎氏が取締役CTOに就任する。社外役員として、金沢崇氏(ハックベンチャーズ株式会社代表取締役:現任)が社外取締役に、黒田耕 司氏(コクヨマーケティング株式会社常勤監査役:現任)が社外監査役に就任。またアドバンテスト、日本テキサス・インスツルメンツ、ヤマハ、デンソーでのハードウェアエンジニアの経歴を持つ川田章弘氏がエグゼクティブ技術者として就任する。
排尿予知にフォーカス、介護施設での組織的トライアルを続ける
今回の資金調達の意図についてTripe W代表取締役の中西敦氏に話を聞いた。取材には日本支社長の小林正典氏も同席した。
D Freeの反響は大きく「問い合わせは20カ国から受けている」と中西氏は話す。個人として使いたい人もいえれば、障害を持つ家族を介護する立場の人もいる。介護施設や医療機関も関心を寄せている。個人向け(B2C)展開も視野には入れているが、たった今注力しているのは介護施設を対象としたB2B展開だ。具体的には2015年12月に「ケアセンター習志野」で実施したトライアル(プレスリリース) を受け、複数の介護施設でのトライアルを進めつつ、ビジネス構築を進めている。「まず国内介護施設向けビジネスをきちんと築き上げる。今回の資金調達の主な目的がそれだ」と小林氏は付け加える。
D Freeの現行バージョンは「排尿の予知」にフォーカスしたものだ。D Freeは人の体に常時装着し、超音波センサーにより「膀胱の膨らみ」のような人体内部の変化を調べ、排泄の予兆を検出する。当初コンセプトの排便予知の機能も研究を続けていて、2017年後半の量産化を目指している。このD Freeがうまく機能するためには「どのように体に取り付けるか」のノウハウの蓄積や、個人差を補正するためのデータの蓄積がモノを言う。そのためには、介護施設での組織的なトライアルが最適としている。
一方の介護施設側は、排泄予知デバイスの完成が待ち遠しい立場にある。おむつが必要な要介護者がいる場合、介護スタッフは3〜6時間に1回は巡回をし、またトイレに行く場合もスタッフが張り付きになる。排泄予知の精度が高まれば、より効果的な人員配置が可能となる。D Freeは携帯電話のように、ハードウェアの料金と、サービス利用料を合わせた料金体系を想定している。介護スタッフの効率的な人員配置ができれば、「もと」が取れる計算なのだ。
将来の話をすると、D Freeとは常時着用のウェアラブル超音波エコー測定器であり、測定結果をクラウド&機械学習で解析する仕組みだ。データ解析による知見の蓄積が十分に進むなら、腫瘍や結石などの早期発見や内臓脂肪の管理など、排泄予知以外の健康管理に活用できる可能性があるとのことだ。
人材獲得も積極的に行っていく。センサー、ハードウェア周りの技術者も必要だし、「センサーで取得した人体内部に関するデータをApache Sparkの機械学習で解析する」といった、いまどきのソフトウェアエンジニア向けの仕事もある。
排泄予知というコンセプト、それにウェアラブル超音波センサーデバイスというアイデア。今までの合計で約7億円の資金。そして新たなチームメンバー。各国から寄せられる期待の声。こうした材料を手にした彼らがどこまで行けるのか。介護分野での効率化が達成できれば社会的なインパクトは大きい。彼らの今後に期待したい。