書評―会議でスマートに見せる100の方法(サラ・クーパー)

2016-12-08-100-tricks

しばらく前にTechCrunch Japanで『会議、ブレーンストーミングで頭が良さげに見せる9つのトリック』という記事を翻訳した。さいわい多くの読者に面白がっていただいたようだ。この記事はサラ・クーパーという元Yahoo US、元Googleのユーモア・ブロガーの単行本からの抜粋だった。最近この原著が翻訳されて早川書房から『会議でスマートに見せる100の方法』 というタイトルで刊行された。予想に違わず全編おかしい。

この本は「重要人物であるかどうかは重要人物であるように見えるかどうかにかかかっている」という原理(?)を実地に応用する方法の集大成だ。たとえば最後のページには「それについては明日連絡して」と言え、というアドバイスが載っている。「どうせ会社の金で飲んでいるのだから明日まで覚えているはずはないが…その瞬間はまるで重要人物のように見える」。

会議では「座長のすぐ隣に座れ」というアドバイスがあった。これはおかしいだけでなく、現実的にもたいへん役立つ。著者によると、「座長の隣に座ると自分が重要そうに見える」というのだが、それだけだけでなく、メンバー全員を見渡していちいち動きが観察できる。誰が賛成しているか反対しているかも見当がつくし、英語の会議の場合は座長の発言を聞き漏らさずにすむ。聞き取れないときは小声で聞き返すこともできる。ともあれ、どこを開いても笑えるのでぜひご一読をお勧めしたい。

ただしこの本に出てくるのは、「お人好し」や「無能な奴」にしても、Google社内のレベルの話なので、いきなり日本の会社組織に適用しようとすると無理があるかもしれない。「現在からローンチまでを表す線を引き、マイルストーンで区切る」というトリックが出てくるが、日本の組織の場合「ローンチ」と「マイルストーン」の説明のほうに手間がかかってしまう場合がありそうだ。文化的な問題もある。「ディナーで避けるべき話題」に「ベーコン」とあるのは印象が庶民的すぎるということの他にベーコンは豚製品の代表。豚肉はシリコンバレーの大きな部分を占めるユダヤ教徒、ヒンドゥー教徒、イスラム教徒いずれにも禁忌だ。もっともこの点、つまり宗教別の食事についてわれわれはもっと敏感であるべきなのだろう。

愉快な挿絵はいずれも著者本人。サラ・クーパーはデザイナーで以前Googleドキュメントのデザイン責任者を務めたことがあるという。サイトを訪問して登録すると月2回最新記事の通知をメールで知らせてもらえるそうだ。

(早川書房の担当編集者、窪木竜也氏から献本いただいた)

滑川海彦@Facebook Google+

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。