4月に米国カリフォルニア大学バークレー校で開催されたTechCrunchのロボットイベントで、Boston DynamicsのヘッドであるMarc Raibert(マーク・ライバート)氏が、現実社会を想定した場面で同社の「Spot」というロボットが動く映像を披露した。救急隊員や警察官などの「ファーストレスポンダー」として対応する場面や建設現場など、同社をフォローする人や自動化一般に精通している人にはおなじみの映像だ。
ところがマサチューセッツ州警察の演習の中でロボットがドアを開ける映像はまったく異なる印象を与える。テロリストと対峙したり人質を救出する状況で、人間の警官の危険を減らすためにロボットがどう役に立つかを示した短い映像だ。
この映像が公開されてから数カ月、住民の自由に関わる市民団体の間でいくつかの疑問が提起された。アメリカ自由人権協会(ACLU)マサチューセッツ支部による公共記録の開示請求はその1つ。請求は、州警察がFacebookに投稿した今年7月のイベントの様子について「州警察がロボットの使用をどのように検討しているか追加の情報を請求する」という内容だ。
ACLUマサチューセッツ支部の「自由のためのテクノロジー」プログラムのディレクターを務めるKade Crockford(ケイド・クロックフォード)氏はTechCrunchへの声明で開示請求について補足した。
このロボットシステムが現在マサチューセッツ州でどのように、どこに配備されているか我々は詳細を知らない。テクノロジーの進歩に社会的、政治的、法的システムの対応が追いつかないことはよくある。政府機関は早急に透明性を確保し、新しいテクノロジーの検証と配備の計画についてオープンにすべきだ。人工知能の時代に市民の自由、公民権、人種的正義を守るため州全体にわたる規制も必要だ。マサチューセッツ州は、安全対策が技術革新に遅れを取らないよう、やるべき事が多数ある。ACLUは地方や州レベルの職員と協力し、法律が技術に遅れないようにする解決策を見つけ実行していく。
どんな新しいテクノロジーにも言えることだが、こういった質問を多く尋ねることが重要だ。Boston Dynamicsの映像には、大きくて恐ろしいロボットに対する不信感と、法執行機関に対する(おそらく当然の)不信感を同時に増幅する負の相乗効果がある。そんな映像を見れば誰でもディストピアのウサギの穴を簡単に降りて行ける。
Boston DynamicsはTechCrunchに、マサチューセッツ州警察がロボットを配備する方法について同社から明かすことはできないが、事業開発担当副社長であるMichael Perry(マイケル・ペリー)氏が、貸し出すロボットの使用方法に関するガイドラインを設けたと説明した。
「現在、当社は契約を結ぶパートナーを選べる規模にある。パートナーを選ぶ際に、ロボットの配備と使用の方法に関して当社と同じビジョンを持っているか確認する」とペリー氏は述べた。「例えば、人を傷つけたり脅迫したりするような使い方はしないことやロボットができることとできないことについて現実的な見方ができることだ」
ペリー氏は、Boston Dynamicsの想定はロボットが法執行機関ではなくファーストレスポンダーの役割を担うことだと説明した。世の中の懸念の多くは前者に関するものだ。ロボットによる爆弾敷設や危険物の取り扱いではなく、警察行為の可能性が懸念材料になっている。特にACLUは「電子メールを含む文書で、ロボットの兵器化に関する議論や参照を含むもの」の開示を請求した。
ペリー氏は、ACLUの懸念は妥当だが、Spotは人間のファーストレスポンダーが使っている既存のテクノロジーから大きく逸脱するものではないと説明した。 「新しいテクノロジーが採用される時には、複数の利害関係者がテーブルにつく必要がある」と同氏は述べた。「ACLUが具体的に提起した問題は、ロボットだけでなく、すでに展開されている新しいテクノロジーにも当てはまる。 当社がテーブルに持ち込むものが、すでに存在するものと大きく違うのかどうかはわからない」。
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(翻訳:Mizoguchi)