シード期特化の独立系VCのSkyland Venturesが今日、2号ファンド(Skyland Ventures2号投資事業有限責任組合)を設立したことを発表した。ファンド設立自体は2015年末のことで、総額は12億円規模となる見込み。シード期のスタートアップ企業への1500万円前後の投資を中心に、約30社への投資を予定している。すでに数社に対して投資自体は開始しているそうだ。
1号からはトラベルブックやトランスリミットなどが成長中
Skyland Venturesは2012年8月設立。5億円規模の1号ファンドを3年半ほど運用している。今のところポートフォリオ企業からのエグジット実績はない。1号ファンドから投資した20数社のうち、トラベルブックやカウモ、トランスリミットなどで月商1000万〜数千万円を超えて成長中だ。ホテル予約のトラベルブックでは予約取扱額が月6000万円であるのに対して、この市場は楽天やじゃらんのように流通額が年間6000億円程度と、まだ成長余地が大きいという。とはいうものの、IPOや大型M&Aという「ホームラン」は、1号ファンドからは、まだ出てきていない。
2号ファンドについて、Skyland Venturesのマネージングパートナー 木下慶彦氏は、「12億円を5倍の60億円にするぐらいを目指している」という。もう少し具体的イメージで言うと「時価総額1000億円の会社の6%を持ってるか、100億円の6%が10社」ということだ。Skylandは創業期のスタートアップに投資する際、1つの標準的な金額感として、評価額1億円として1500万円の投資をすることが多い。つまりVCの株式持ち分比率を15%程度とすることが多い。これが追加資金調達ラウンドで希薄化して最終的に6%ほどになる。
もう少しVCとしての投資モデルの話を聞こう。
ファンド規模12億円ということは、ここから運営経費をのぞいた投資余力、純粋な投資できるキャッシュは10億円程度になる。1社あたり1500万円というと大きい気もするかもしれないが、ファンド規模からすれば1.5%にすぎない。成長の兆しがあれば1社当たり3000万円程度を投資することになるが、それでもポートフォリオ全体として30社程度に「はれる」ことになると木下氏は言う。3000万円といえば、1人1カ月50万円として3人でやっても10カ月、それにマーケティング費用で1500万円は使える計算だ。若い起業家が短期集中でプロダクトを作って送り出すのに十分な時間。1号、2号のファンドを通して2018年までに合計50社程度に投資することになる見込みだそうだ。
VCにもいろんなタイプがあるが、木下氏は「ノーハンズオン」を標榜する。「(起業家から)メッセが来れば翌日にでも会いに行く」が、定例ミーティングは意味がないからやらない。シード期のスタートアップだと、単に出資者にKPIの進捗を報告するために起業家が毎月1回とか2回、準備のために1日とか2日かけるのは無駄だという考えからだ。
ちなみに15%という持ち株比率は重要だそう。ある程度のシェアを持たないと「社長と意思決定のコミュニケーションがやりづらくなる」し、逆に20〜30%とVC側のシェアが多くなってくると「VCと相性が悪い場合に困る。VCが社長であるかのように振る舞ってしまうことがある」というのがVCとしての木下氏の見立てだ。この辺は資本政策について勉強中の起業家予備軍には参考になる話かもしれない。
シード特化の国内独立系VCとして今後も「3号、4号とずっと12億円くらいのシード投資ファンドを続けたい」(木下氏)という。12億円といえばファンドとしては小規模。運用報酬はファンド規模に比例するため小規模ファンドは大きなリターンが生まれないと運営自体が難しい。しかし一方で、ファンド規模を大きくすると市況に左右されやすくなるし、ファンド規模に応じてファンドへの出資者(LP)や投資先が変わることになる。「それは事業でいえば株主が変わることに相当する」という考えから、同規模のファンドを続けていくことを選択。「LPとも良好な関係を作っていくことを重視したい」のだそうだ。2号ファンドの出資者はDeNA、East Ventures、ユナイテッド、ベクトル、セプテーニ・ホールディングス、アドウェイズのほか個人投資家がいる。
木下氏自身まだ30歳とVCとしては比較的若く、シードやプレシード特化で継続的に20〜30歳という若い起業家やその予備軍と会い続けているのを強みにしていくそうだ。例えば今も毎週水曜日の午前中は1セッション15分で多数の起業家と面談し、投資を即決することも。今後は招待制イベントや学生向けミートアップなどを開催していくことで若手起業家の発掘と支援を続けていく。2015年からは渋谷でコワーキングスペース #HiveShibuyaをEast Venturesと共同運営して特に若い起業家を集めるコミュニティー創出に力を入れている。
投資領域はVR、ドローン、動画コミュニケーション、人工知能など、従来よりも拡大していく。すでに2015年後半の投資実績として、VR関連のFictbox、人工知能ではLiaro、動画コミュニケーションのPopshoot、パーソナルロボットのDOKI DOKI、メディアのConUなどがあるという。Skyland Venturesでは、こうした領域に取り組む「天才に投資したい」と話す。木下氏がいう「天才」とは、10年とか20年といった長期間でも毎日取り組むものを持っている人だそうだ。例えばソフトウェアエンジニアであれば毎日コードを書いているかどうか、書いていたいと思うかどうかが1つの判断基準。「10年とか20年やり続ける人は、プログラミング教育では生まれない」(木下氏)。イチローにしてもイーロン・マスクにしても、現在に繋がる取り組みを若い頃からひたすら繰り返してきた。そういう何かをやり続ける若者を、早い段階から投資というかたちで支援していきたいのだという。
木下氏は1985年生まれ。早稲田大学理工学部卒業後に大和SMBCキャピタル(現:SMBCベンチャーキャピタル)、インキュベイトファンドを経て2012年8月にSkyland Venturesを創業している。