FOVEはアイ・トラッキング・テクノロジーを採用してより優れた没入型体験を与えようとするVRヘッドセットだ〔TechCrunch Japan記事〕。消費者向けVRプロダクトにアイ・トラッキングを利用したのはFOVEがおそらく世界初だろう。FOVEは東京に本拠を置くスタートアップで、小島由香CEOとロックラン・ウィルソンCTOがTechCrunch Disruptサンフランシスコのステージでプレゼンを行った。
FOVEという名前はfield of view(視野)とfovea( 網膜中心窩)という網膜の中心にあってもっとも感度の高い部分を意味する単語から来ている。Foveヘッドセットは、アイ・トラッキング、頭の位置のトラッキング、方向センサーを組み合わせ、視線の動きだけで360度を見渡せる。FOVEのバーチャル・リアリティーは画面全体に焦点が合っている他のシステムとは異なり、ユーザーが注視した部分に焦点を合わせてレンダリングする。これによってさらに現実に近い奥行き感が得られる。これもアイ・トラッキングによってユーザーが画面のどこを見ているかを認識することによって可能になっている。
FOVEを利用すればユーザーは、たとえばゲームのキャラクターと目を合わせてアイコンタクトを取ったり、武器の狙いを素早くつけたりすることが可能になる。敵の姿を見た瞬間にもう狙いがついているわけだ。
特許出願中であるため、共同ファウンダーたちは詳細に触れることを避けたが、FOVEのアイ・トラッキングには人間の目に感じない赤外線を用いており、精度と反応速度を上げているという。
「重要なのは、ユーザーの視野をまったく妨害せずに精密なアイ・トラッキングを可能にした点だ」とCTOのウィルソンは説明した。
FOVEのライバルとなり得るのは、Oculus Riftを始めとして、ソニーのProject Morpheusなどがある。しかし共同ファウンダーたちはFOVEはこれらのライバルと競争して市場シェアを奪おうとは考えていないという。FOVEはOculus Riftが開いた市場をさらに拡大し、消費者に映画アイアンマンのスーツを着たような体験を居間にいながらにして与えようとしている。FOVEでは、当初、高い没入体験を与えることが必要なハイエンドのゲームをターゲットと考えている。
現在このスタートアップはMicrosoftのロンドンに本拠を置くベンチャー・アクセラレーター・プログラムに選定されて資金援助を受けている。まだ具体的な交渉に入っているわけではないが、将来MicrosoftのXboxにFOVEのテクノロジーを提供する可能性もある。ウィルソンCTOは「一つの問題は価格だ。ゲーマーはコンソール機以外のアクセサリーに金を出したがらない」と述べた。FOVEではまだ価格を決めていない。
ただしFOVEが狙っているのはゲーム分野だけではない。ALS〔筋萎縮性側索硬化症〕や脊椎の負傷などにより重度の運動障害を負っている人々に手を使わず、視線だけで文字を入力したり、さまざまな機器を操作したりする能力を与えることができる。
日本の大学では、さらに自閉症のような症状に対してもFOVEが応用できると考えて研究が行われている。またロンドンの企業はFOVEを利用して四肢まひ障害のある人々が他人の手を借りずに周囲を見回すことができるようにしようとしている。またアスペルガーや自閉症の人々は他人とアイ・コンタクトを取ることが困難なばあいが多い。FOVEはこうした人々が恐怖を感じずにキャラクターとアイ・コンタクトが取れる仮想現実を構築するのにも役立つという。
FOVEは現在、プロトタイピングの最終段階にあり、量産型の開発に入っている。来年にはKickstarterでゲーム開発者向けSDKのキャンペーンを行う予定だ。消費者向け製品は、早ければ2016年に出荷できるという。FOVEは日本でエンジェル投資家から支援を受けているが、さらに本格的な資金調達を計画している。.
〔スライドショーは原文参照〕
審査員とのQ&A
Q: ゲームの開発をどうやって進めていくつもりか? 卵とニワトリの関係で、ユーザーベースが広がらないとデベロッパーを引きつけることが難しい。いまのとろFOVEにはユーザーベースがない。
A: われわれのテクノロジーは強い興味を引き起こすと考えている。アイアンマン・スーツのようた体験を居間で体験できるテクノロジーだ。消費者とデベロッパーともに関心を示してくれるものと考えている。
Q: この分野でFOVEがコントロールできない技術的障害はどんなものがあるのか?
A: われわれがコントロールできないような大きな技術的障害は少ない。頭の位置のトラッキング精度を改善するためにソフトウェアの改良を続けている。これがいちばん大きな課題かもしれない。しかし近く十分な解決ができると信じている。
Q: すると主要な課題はどうやってデベロッパーにこのテクノロジーを売り込むという点ということか?
A: イェス。われわれはFOVEが驚くべきクールな体験を与えられることをデモしてユーザー、デベロッパーを説得していく。また応用分野やゲームだけでなく、ALSのような重度の運動障害を負った人々を助けるための研究が日本で行われている。
Q: FOVEの価格は?
A:Oculus Riftよりはやや高価となりそうだ。FOVEはより高度なユーザー体験を提供する分、ハードウェアのコストも高くなる。
Q: ハードウェアから上がる利益は規模の拡大に対応できるのか?
A: 十分な利益率が確保できると考えている。われわれはハードウェアを日本国内で調達しているが、調達先は極めて優秀な企業で、十分に競争力のある価格を出してもらっている。
Q: 10から30%くらいの利益率を確保できるか?
A: それより高くできるだろう。
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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)