モンストのパズドラ超え、App Storeトップセールス奪取の要因を探ってみた

編集部注:この原稿は、スマートフォン向けゲームなどを手がけるワンオブゼムでDivision Managerを務める高橋遥人氏による寄稿である。同社は「ガチャウォリアーズ」をはじめとするゲームを提供する一方で、他社の人気ゲームの運用方法を分析するサービス「Sp!cemart(スパイスマート)」を手がけている。本稿では同サービスによる分析レポートを紹介する。

5月15日、App Storeのゲーム売上ランキングに “異変”が起こった。約1年半もトップセールスの座を守り続けていたガンホーの大人気パズルRPG「パズル&ドラゴン」(以下、パズドラ)の牙城が、ミクシィのハンティングRPG「モンスターストライク」(以下、モンスト)によって崩されたのである。スマホゲーム業界で話題となった逆転劇の要因は何だったのか。

弊社のリサーチツール「Sp!cemart」は、運用レベルが高いとされる国内外のスマホ向けネイティブゲーム約50タイトルを独自の方法でリサーチしている。ここで言う「運用」とは、ガチャやPvP(person versus person)と言われる対人戦、ログインボーナスなどのユーザーが体験可能なイベントを指す。

Sp!cemartは日本で人気や課金売上で勝っているゲームが日々、どんなイベント運用を行い、どんな動線でユーザーへの課金を促し、結果としてどれくらいのボリュームを増やしているかをリアルタイムで監視できるのが特徴だ。現在、国内外含め20のゲーム会社に導入されている。

こうした「他社のリサーチ」が注目されたきっかけは、DeNAとGREEのコンサルタントの存在だ。2社はゲームプラットフォームとしてオープン化を行った後、サードパーティと一緒に他社ゲームの良い運用を研究し、実際にゲームに実装することでKPIを上げていった実績がある。

弊社がGREEとAmeba向けに提供する「海の上のカメ農園」は、リリース当初から3年後も売上規模がほとんど変わっていないのだが、その理由はコンサルタントが提案する「運用」があってこそと考えている(リリース後の3年も売上規模が変わらないというと、普通のビジネスであれば「成長頭打ち」と思うかもしれないが、時間が経過するほど売上が落ちやすいゲームにとっては良いことだ)。

トップ陥落の要因となったパズドラのイベント運営

それでは、運用だけで本当に強豪ひしめくゲーム市場で勝てるのか? その疑問に筆者はNOと答える。当然のことながら、プロダクトがよくなければ使ってもらえないし、テレビCMがユーザー数拡大に効果をもたらすこともあるからだ。ただし、莫大な広告費をかけなくても、運用が勝つ方法の一つであることは間違いない。

そこで本題だ。パズドラの牙城が崩された事実を例に解説してみよう。

パズドラは5月15日、約1年半守り続けてきたApp Storeの売上ランキング1位の座を、モンストに奪われた。その要因は双方にあるが、まずはパズドラの運用を見てみよう。

(引用:Sp!cemart)

上記は5月15日前後のパズドラのイベント運営スケジュールである。青い折れ線グラフはApp Storeゲームカテゴリのトップセールス(売上)ランキング、オレンジの折れ線グラフはゲームカテゴリの無料ランキングの順位。Descriptionとはイベントの概要、「01」「02」「03」……と続いているのは日付となっている。

以下の図は、5月1日以降に開催されたイベントのスケジュール。初心者から上級者に向けて、まんべんなくイベントが行われているのが特徴だ。例えば、ゲーム初心者のレベルでもクリアできるステージや、「地獄級」と呼ばれるクリアには相当なレベルとユーザーの熟練度が必要なステージだ。5月15日のイベント開催は7件だったが、5月初旬はその倍近くのイベントが行われていたことがわかる。

(引用:Sp!cemart)

さらに、1カ月前の状況も合わせてみてみよう。

(引用:Sp!cemart)

上図は左が4月初旬、右が4月中旬のカレンダーなのだが、5月15日前後のイベント数と比べると、圧倒的に多いことが一目瞭然である。つまり、ユーザーからしてみると、5月中旬は通常ステージ以外で「遊ぶ」場所が少なくなっていたということだ。

さらに言うと、5月15日前後に開催したイベントは「ラグナロクオンライン」というガンホーの自社タイトルとコラボしたものであった。パズドラは年始から「HUNTER×HUNTER」や「ハローキティ」といった外部キャラクターとの大型コラボが多かったため、それらに比べると若干の見劣りがあったのではないだろうか。

モンスト1位奪取の要因は新キャラ投入とCMの相乗効果

それでは、モンストがパズドラの牙城を崩した要因は何だったのか。

モンストは5月15日前後、「獣神祭」というガチャイベントを行ったタイミングで1位を奪取している。ただし、私としては、単純にガチャイベントを開催しただけで1位を獲得したわけではないと考えている。新規に投入された「アリス」というキャラクターの影響が大きかったと見ている。

(引用:Sp!cemart)

アリスはモンストの古参ユーザーから見ても、非常に強いパラメーター設定のされたキャラであった。HPや攻撃力といったパラメーターが桁外れに多いことから、SNS上では「強過ぎる!」などの声が多数。過去最高レベルの強さにゲームレベルデザインを心配する声も上がった程だ。

また、3月から「あらいぐまラスカル」を起用したテレビCMを放映してユーザーが増えていたところで、「アリス」という過去最高レベルのキャラを提供できたことも、1位を奪取した要因と言えそうだ。

アリス(左)とアリスを進化させた不思議の国のアリス(引用:mixi提供モンスターストライク)

後日談だが、パズドラはトップセールスの首位を奪われてから2日後の5月17日には再びトップに返り咲いた。それから10日ほど1位をキープしていたが、5月27日にはモンストが再び追い抜くといったデッドヒートを繰り広げている。

モンストが首位を再び奪取したのは、パズドラが5月26日20時から翌27日6時にかけて、バージョンアップのためのメンテナンスを実施していたためだ。パズドラは同時期にドラゴンボールと聖闘士星矢のコラボイベントを告知していたのだが、ユーザーとしては「ドラゴンボールが来るなら、ここはちょっと待つか」という買い控えの心理になったことも要因と言えるかもしれない。

さらに後日、6月18日にもモンストが1位を奪取しているところを見ると、今後もパズドラとモンスト2大タイトルの動向からは目が離せなくなりそうだ。

ここまで、App Storeゲームカテゴリのトップセールスに起こった“異変”をSp!cemartでひもといてきた。私が考えるのは、テレビCMをはじめとする広告だけに頼らない、つまり「運用」による売上増加の施策が存在しているということだ。我々を含むゲームのデベロッパーは、市場拡大および自社タイトルの成功に向けて、広告面からも運用面からも試行錯誤していく時代は続きそうである。


投稿者:

TechCrunch Japan

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