TechCrunchの日英記事を並べて学習、「ポリグロッツ」が英語音声を搭載したぞ

いつもTechCrunchを読んでくれて、ありがとう!

勉強を兼ねて英語でTechCrunchを読んでいる人に朗報だ。英語学習アプリ「ポリグロッツ」で、TechCrunch Japanに掲載した日本語記事と、その原文である英語記事を同時に読み比べながら、さらに英文についてはネイティブによる音声を聞くことができるようになった。英語やんなきゃと思いつつも始めるキッカケがなかったり、継続できなくて悩んでいるなら、毎朝(あるいは毎晩)決まった時間に情報収集を兼ねてTechCrunchの記事で勉強してみてはいかがだろうか。以下、音声読み上げのデモ動画をご覧あれ。

ポリグロッツは8カ月前ににローンチした「読むこと」に重点を置いた英語学習アプリで、現在までに20数万ダウンロードとなっている。アプリの動作としてはRSSリーダーに近く、ネット上にある英文コンテンツを読むリーダーアプリだ。ポイントは「好きなものを読む」ところ。まず、次のようなジャンルから関心のあるテーマを選ぶ。

ニュース、ビジネス、スタートアップ、マーケティング、テクノロジー、スポーツ、エンタメ、音楽・映画、デザイン、ファッション、グルメ、ライフスタイル、小ネタ、運勢・占い、ゴシップ・セレブ、医学・医療

すると、ポリグロッツが各ジャンルでセレクトした英語圏の記事が、読了予想時間や難易度とともに表示される。例えば、ニュースならBBCやHuffington Post、The Japan Times、New York Timesといったものがある。日本に暮らす身としては、同じ英語圏ニュースといってもアメリカでいえばUSA Today、イギリスでいえばThe SunやDaily Mailといった完全に地元の人だけを相手にしてるローカル紙じゃないところがいい感じだ。テクノロジー分野はTechCrunchを始め、Mashable、CNET、The Virgeなどが入っている。

記事の分類として「日本語訳あり」というのも存在する。これはTechCrunchのように日本語・英語で翻訳記事と原文が両方一緒に読める記事を集めたものだ。「JP/EN」というボタンを押して、切り替えながら読むことができる。

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ポリグロッツ創業者でCEOの山口隼也氏によれば、ポリグロッツはアダプティブ・ラーニングという教育メソッドをアプリの基本方針に採用している。学習者一人ひとりの興味やレベル(難易度)、読むタイミングにあわせて学習を進められるプラットフォームとしてポリグロッツの開発を進めている。

強制スクロールで目指せ200wpm!

ポリグロッツではリーディング学習のために、いくつか補助ツールが用意されている。

1つは自動スクロール機能。ポリグロッツを使ったリーディングは「自分のペースで読む」モードと自動スクロールによって読む「ペースメーカで読む」の2つのモードがある。映画の最後に出てくるスタッフロールのような自動スクロール状態で読む利点は、リーディング速度を意識して読めること。リーディング速度は1分間に読む単語数を使って「WPM」(word per minute)という単位で計測することが多いが、ポリグロッツではスクロール速度をWPMを使って調整できる。

日本人の英語学習者には、英語を読むことはできるけどリスニングが苦手という人は多いと思う。その原因の1つはインプットを理解する「吸収速度」が遅いことにある。

例えばテレビのアナウンサーが丁寧に話す速度は140wpm程度だが、早口な英語だと180〜200wpm程度と言われている。ぼくの個人的な感覚だとシリコンバレーの人たちは200wpmがデフォルトだ。一方、日本の平均的大学生だとリーディングで80〜100wpm、TOEICで800点前後の人でも120〜140wpm程度という話もあるから、リスニングで処理漏れが起こって理解できなくなるのは当然だ。ちなみに英語ネイティブのリーディング速度は250〜300wpmと言われている(wpmについては、こここここれこの本を見るといい)。

ポリグロッツは読了時間からwpmを計測して、日々読んだ英語の量やスピードをグラフ化してくれる。また、読んでいる最中に単語をクリックすると辞書が引ける。これは自動的に単語帳に入り、後から復習することもできる。記事を読み終わると、ほかのユーザーが調べた単語とその意味が表示されたりもするので、辞書を引くのが億劫な人にもいい。

冒頭で紹介した音声読み上げ機能は月額480円のプレミアム会員向け機能で、2週間で1記事までは無料。当初音声読み上げに対応するコンテンツパートナーは、TechCrunchとTech in Asiaの2媒体だ。音声付き記事は当初は1日1記事程度となる見込み。

プレミアム会員向け機能としては「オーディナリー・デイ」と呼ぶ、ロールプレイによる日常会話のやり取りによる学習コンテンツも利用できる。「帰りがけにビール買ってきてよ」というようなやり取りを英語でなんというかを選択肢で選ぶと、それについての解説を日本人の英語の先生と、英語ネイティブによる解説が、その場で日本語で見られるというものだ。

このほかポリグロッツには、端末上にある楽曲について、その歌詞と翻訳を表示して再生する機能や、雑誌をスキャンして辞書を引く機能などが搭載されている。以下がポリグロッツの各機能の紹介動画だ。

今さらリーディング? という人は過去の研究をググってみよ

ところで、いまさらリーディングなの? 問題はリスニングとかスピーキングでは? と思う人もいるかもしれない。

ぼくはリーディングを外国語学習の中心に据えるのは正しいと思う。第二言語習得研究では1970年代半ばにスティーブン・クラッシェンという研究者が提出した「インプット仮説」が、その後の研究に多大な影響を与えている。インプット仮説は5つの仮説を含むが、その1つは「第一言語(母語)であるか第二言語であるかを問わず、言語習得というのはインプットの理解を通してのみ起こる」という、ちょっと過激な主張だったりする。英会話学校のようなアウトプットの練習など必要ない、というのだ。必要なのは理解可能なインプットであり、それを通してのみしか人間は言語を獲得しないというのだ。

このインプット仮説には批判もあるようだけど、かつて特定の構文を繰り返してアウトプット練習することで徐々にしゃべれるようになるとしたリピートアフターミー式の「自動化モデル」への反省となり、今は多読やイマージョンプログラムなどインプット側を強調する外国語学習方法が注目されるという流れになっている。なのだけど、日本の英語学習アプリやサービスは全体にアウトプットの練習を強調しすぎていてバランスが悪いように感じている。英語教育の専門家も、英語が話せない真の原因はインプットが圧倒的に不足しているからで、英語学習におけるインプットとアウトプットの割合は「1:4」もしくは「1:9」くらいとし、インプットを多くせよと言っている

ちなみに個人的な話をすると、ぼくは十年以上前にwpmを計測しながら英語を学習したことがある。当初120〜140wpm(TOEIC900点程度)だったものが、ただひたすら毎日読み続け、聞き続けたことで250wpm程度にあがった(ちなみに200wpmくらいのときにTOEICを受けたら満点だった)。東京に暮らし、日本企業に勤めながらでも、目的意識をもったインプットさえ続けていれば語学力というのは上がっていくのだなというのがぼくの実感だ。

もう1つ、文字と音声の両方でインプットすることについても、少し書いておきたい。

アメリカでは13インチ以上のテレビには例外なく英語字幕表示機能(クローズド・キャプション)を搭載すべしとした法律が1990年に成立し、1993年から施行されている(Television Decoder Circuitry Actという)。これはもともと聴覚障害者や文盲でもテレビコンテンツにアクセスできるべきという理念から出たものだったが、実は英語を第二言語として習得中の移民や、英語を学んでいる子どもたちにとっても福音だったと言われている。字幕付き映像が第二言語習得にもたらす影響については結構いろいろと研究がある。例えばオランダの子どもたちがドキュメンタリー番組を見た場合に字幕があると英語の語彙をより多く獲得したという報告がある。よく引用されている論文だと、「Captioned television as comprehensible input: Effects of incidental word learning from context for language minority students」(PDF)というのがある。字幕付きで映像を見たり音声を聞いたりすることで、より偶発的な語彙獲得が起こるというのが研究者の間での一般的な見解のようだ(こうした議論に興味がある人は専門家が書いた一般向け解説書を読むと良いと思う。『外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か』(岩波新書、白石恭弘著、2008)あたりがオススメだ)

英語話者向けアプリや、インフィード広告の展開も視野に

photo01さて、ポリグロッツの山口隼也CEOは、海外でのビジネス体験などを通して抱いていた「なぜグローバルにビジネスの世界で活躍している日本人はこんなにも少ないのか?」という疑問に対して、その最大の原因を英語力(の低さ)に求めたことから、これを解決すべく2014年5月にポリグロッツを創業したそうだ。2015年3月末にはEast Venturesやエンジェル投資家からシード投資で2000万円を資金調達。秋ごろに追加の資金調達も予定しているという。

ポリグロッツは「日本語→英語」の学習アプリだが、その逆に英語話者向けの日本語学習アプリを「Mondo」という別アプリとしてもリリースしている。

今後ポリグロッツは専門性の高いコンテンツは、パブリッシャーとのレベニューシェアで展開を予定していて、例えば会計士向けの会話集などを有料モデルで展開していくという。また、外資系企業のPRや記事広告をインフィード広告で展開することも視野に入れているのだそうだ。実は日本市場にも参入している海外企業のマーケティングやPRの英語ブログというのは大量にあって、これを学習コンテンツ化するというアイデアも考えているそう。

最後に繰り返しになるが、英語でもTechCrunchを読んでみたい、あるいは両方読んでいるという人は、ぜひポリグロッツを試してみてほしい。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。