IBMとソフトバンクは今日、東京・箱崎の日本IBM本社で記者会見を開催し、日本語化されたWatsonのAPIを6つの提供を開始したと発表した。日本語化したWatsonのデモでは、架空のアパレルショップで「こんにちは中野さん、今日はどのような商品をお探しですか」というWatsonの顧客の対話による商品の推薦の様子を、以下のような、ちょっとドラクエ風にも思える画面を見せながらデモした。
今回IBMと提携して開発を進めたソフトバンク代表取締役社長の宮内謙氏は、全国2000店舗に及ぶソフトバンクショップでの販売支援のためのWatson導入などに積極的で、来月3月にも1つ目のプロジェクトをスタートすると話した。
IBMの説明によればWatsonは、すでにグローバルでは保険、金融、医療、メディア、製造、営業支援など36カ国、29の産業、400社で利用、もしくは実験的な取り組みが始まっている。例えば、タイの病院でがん治療のソリューションや、シンガポールでの税金処理のシステムなどがあるという。
IBMとソフトバンクの2社は2015年2月の提携アナウンス後、過去1年にわたってWatsonの日本語化を進めてきた。Watsonといえば、2011年に米国のクイズ番組で人間のチャンピオンに買ったことから、自然言語による質問を理解し、膨大なデータから正解を探しだすというタスクで知られている。当初そういうQ&AのためのAPIだけだったWatsonだが、現在は約30のAPIがそろっていて、今回はこのうち6種を日本語化。API経由でパートナー企業や開発者、起業家などに公開するとしている。
6種類のAPIのことをIBMでは「コグニティブ・サービス」と呼んでいる。具体的には、
・自然言語分類:質問方法が異なっても回答を見つけ出す製品やアプリを開発できる
・対話:人間が質問するときの個人的スタイルに合わせた会話を生み出せる
・検索およびランク付け:機械学習を活用した情報検索精度の向上
・文書変換:PDFやHTML、Wordなど異なる系s気のコンテンツをWatsonで利用可能な形式に変換する
・音声認識
・音声合成
となっている。自然言語処理には文書例となる、いわゆる「コーパス」が必要だが、Watson日本語版には日本語コーパスも含まれるそうだ。企業などで利用する場合には、Watson適用時の効果予測、事前の学習トレーニングを経て、SaaSモデルによる提供となる。会見でWatson導入の現状や展望を説明したマイク・ローディン氏(IBMコーポレーションWatsonビジネス開発担当シニア・バイスプレジデント)によれば、Watsonの日本語対応は英語に次いで2番めの言語。すでに6言語に対応している。このため今後、日本企業がサービスをグローバル対応するのが容易になるだろうと話した。
会見ではWatson適用を進める日本企業が狙いを説明したが、この中にはスタートアップ企業のカラフル・ボードやFiNCの姿もあった。カラフル・ボードはSENSYと名付けた人工知能を使ってユーザーのファッションの好みなどを「感性」として理解し、ユーザーに代わって多数のアイテムの中からリコメンドするサービスを作っている。カラフル・ボード創業者でCEOの渡辺祐樹氏は、Watsonによって、このサービスに「言語というインターフェースを実現できる」とし、声でファッションアプリに話しかける次のようなデモを披露した。
「春物のシャツを探したい」
→写真でアイテムが表示される
「もう少し明るめのものがいいかな」
→別のアイテムが表示される
「コーディネートも考えてくれる?」
→追加アイテムが表示される
「ありがとう、お気に入りに入れておいて」
ここで「明るめ」というような曖昧な語句を理解するのがポイントだといい、こうした言語インターフェースと、SENSYによるユーザー個別の感性に合わせた推薦ができるようにするのが狙いだという。今後SENSYではファッション以外にも食べたいデザート、休暇に訪れたい観光地などと適用範囲を広げることも考えているという。
記者会見にはテレビ局関係者も含めて非常に多くの報道陣が押しかけていて、「IBMの人工知能」に対する関心の高さがうかがえた。