企業がアーティストのパトロンに―、伝説のCMの立役者が考える新しい音楽PRの仕組み

music-festival-1

Volkswagenは1990年代の後半に、Rykodiscというレコード会社にある提案を持ちかけた。彼らは、Rykodiscが版権を持っていた当時無名のシンガーソングライターの曲を、新しいカブリオレのCMに使いたいと考えていたのだ。

そのシンガーソングライターの名はNick Drake。結局カブリオレがどのくらい売れたかはわからないが、このCM(VWにとっては初のオンラインCM)は大きな話題となり、Nick Drakeの音楽は、彼の死からかなり時間をおいて再び注目されはじめた。さらにこのCMは、ヒット曲に頼り切るのではなく新しい(そして知られていない)音楽を消費者に届けるという、音楽と広告の新しい組み合わせ方のモデルとなった。

このCMの成功に関わっていた人物のひとりで、当時Rykodiscの社長を務めていたGeorge Howardは、オンラインマーケティング会社ReachLocalの共同ファウンダーでチーフ・レベニュー・オフィサーのNathan Hanksと一緒に、現在ブランドとアーティストをシステマティックに結びつける手段を作り出そうとしている。

ふたりがダラスで設立したMusic Audience Exchange(MAX)は、この度MATH Venture PartnersKDWC Venturesが中心となったラウンドで、600万ドルを調達したと発表した。他にもG-Bar VenturesやAware RecordsのファウンダーでCEOのGregg Lattermanがこのラウンドに参加していた。

彼らの狙いは、まだ一般に知られていない才能あふれるアーティストを、特定のターゲット層にリーチしたいと考えている国内もしくは国内外で有名なブランドの目に触れさせることだ。

著名なアーティストは考えられないくらいの大金持ちになることができる一方で、地元のバーで演奏するバンド売れっ子になるために必要な露出を得るのは、段々難しくなってきている。作曲ツールやオンライン流通網が一般に広がる中、音楽業界では細分化が進んでいるのだ。

実際のところ、Spotifyでは一回も再生されたことがない曲の方が、再生されたことがある曲よりも多いとHanksは話す(Forgotifyを試せばその雰囲気がわかるだろう)。

またCDビジネスの落ち込みやストリーミングサービスの興隆が、アーティストやレコード会社に違った形で影響を与えている。スタートアップの幹部の中には、レコード会社はA&Rよりも一定数のファンがいるバンドやアーティストにマーケティング力を投入していると主張している人もいる。

さらにアーティストの中には、スタジオでの録音というプロセスさえすっとばして成功を勝ち取った人もいる。3枚の(素晴らしい)ミックステープでキャリアを築き上げたChance the Rapperがその好例だ。

Chance the RapperやG Eazyのようなアーティストは、これまでの業界の常識から外れながらもキャリアとファンベースを築きあげることができたが、全てのミュージシャンがそこまで恵まれているとは限らない。

実際に、40歳間近の現在まで何度も起業を経験し、多数のミュージシャンの面倒を見てきてたHanksは、音楽業界の恐ろしさを知っている。「私はずっと音楽業界を観察してきましたが、業界で門番のような役割を担っている人たちの行動を理解できずにいました」。

アーティストが大事なチャンスを逃してしまっているという思いはHanksの中に残り続け、彼がマーケティング会社を立ち上げた後に確固たるものへと変わった。「当時(インターネット)検索やディスプレイ(広告)がデジタルの世界を支配していましたが、ブランドはもっと物語を伝えられるような場所を必要としていて、しかも(彼らには)昔発表されたコンテンツを探す手立てがありませんでした」。

ミュージシャンは成り上がりや忍耐力に関する物語など、ブランドが伝えようとしている思いに沿ったストーリーを作り上げることができるとHanksは語る。

その後、彼が立ち上げたReachLocalが上場しGannettに買収されると、Hanksは新たな挑戦をはじめる準備ができたと感じ、翌年MAXを設立した。

Hanksや共同ファウンダーのHowardの目から見ると、MAXは3つの大きなトレンドが交わる場所にいる。ひとつめは、コンテンツの中に散りばめられた、製品を宣伝するだけの広告に飽き飽きしている消費者の思い。ふたつめは、レコード会社の売上を侵食しているデジタル音楽プラットフォーム。そして最後が、音楽の制作・流通に素晴らしいチャンスを持たらすと同時に、音楽ファンが困惑するくらい楽曲数が増える原因となった音楽出版用ツールの普及だ。

HanksがReachLocalで開発していたツールと似たようなものを使い、MAXは765ジャンルにわたる240万人のアーティストをもとに、音楽ファンを200種類以上もの層に分類することができる。

FordやTwix、Dr. Pepperといったブランドは、MAXのサービスを使えば、特定の消費者層(皮肉屋で厭世的な考えに浸っている40歳前後の毒舌記者といった感じで)にリーチするような広告キャンペーンを打つことができる。MAXは彼らのターゲット層に人気のアーティストを特定し、ブランドの予算を考慮しながら両者をマッチさせるのだ。

ブランドのスポンサー契約の中には、アーティストをCMに出演させたり、地元や国内でのツアーの支援をしたり、スポンサーした曲を一定回数かけたりといった内容が含まれているのが一般的だ。

ミュージシャンが内容に合意した後に実際の契約が結ばれるが、中には合意に至らないケースもある。ある有名アーティストは、MAXがアレンジしたスポンサーシップ契約を、同じカテゴリーの競合製品の方が好きだという理由で断ったこともあった。これまでにMAXを通じてスポンサー契約を獲得したアーティストの中には、EEDTOBREATHEやLeela James、Aaron Watson、さらに2017年のグラミー賞にノミネートされたLa Maquinaria Norteñaなどがいる。

ブランドとアーティストのペアリングの中には、下のミュージックビデオのように全くの偶然で生まれるものもある。

「私はこれまでずっと、音楽業界でアーティストとファンの間にいる人たちを省こうとしてきました」とHowardは自身のキャリアを振り返りながら話す。

ブラウン大学在学中にミュージシャン兼Slow River Records(私の青春時代のサウンドトラックのひとつであるVivadixiesubmarinetransmissionplotをリリースしたレコード会社)のファウンダーとしてキャリアをスタートさせた彼は、その後Rykodiscの社長とバークリー音楽大学の講師を務めており、キャリア全体を通してミュージシャンとお金の間に立ちはだかる障害を取り除く努力を続けてきた。

「コンテンツをつくる人と、それを消費する人の間にあるものは、少なければ少ないほど良いと考えています」とHowardは言う。「MAXはコーディネートエージェントであって、中間業者ではありません。私たちの狙いはアーティストとブランドの結びつけて、両者の目的を揃えることにあります」。

さらにHanksは、ミュージシャンだけでなく、映画スターやユーチューバー、俳優など、さまざまなジャンルのインフルーエンサーにもMAXの戦略が応用できると考えている。

Facebook上に500万人ものフォロワーを抱えているインフルーエンサーが、自分を売り込むのにお金を払わなければいけないというのは確かにおかしな話だ。

「ブランドにはファンを構築するお金があり、メディアにはコンテンツをファンに届ける力があり、アーティストにはファンに物語を伝える力があります」とMAXのシステムについてHanksは説明する。

彼らのやり方こそが未来の音楽業界のあり方かつ、アーティストに収益をもたらす方法なのかもしれない。「アーティストの後ろにブランドがいるという形こそ、新時代のパトロンの在り方です」とHanksは言う。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。