隔離中だからこそ、メディアが真に「ソーシャル」な存在に

自慢なし、計画なし、ありのままの私たち

今までは、自己アピールなどのためにInstagramのストーリーにコンテンツを投稿していた人が多かった。しかし、新型コロナウイルス(COVID-19)の拡がりとともに、それがなくなりかけているのである。誰も「クールなこと」をするために外出することはできないし、そもそもそうするべきではないと言われるだろう。

ハッピーアワーの写真や隔離中のディナーの計画をビデオチャットで共有することを除けば、日々の記録は止まってしまっている。奇妙なことだが、残っているものはずっと使ってきたソーシャルネットワークよりも、むしろソーシャルな印象を受ける。

Housepartyでつながる人たち

隔離中にHousepartyでつながる人たち(出典:StoicLeysのツイート)

話題となる材料が何もなく、できることはライブ配信くらいだ。新型コロナウイルスによって、最近の出来事を共有したいという欲求がかき消されてしまったようだ。外出もままならない退屈な雰囲気が漫然と広がっていく。今後のことがとても不確実なので、計画を立てることすらままならない状態だ。イベントや旅行の計画でワクワクしていても、外出禁止令が延長になればがっかりするだけであるのが目に見えている。今のことしか考えられないのである。

自慢することがなくなった状況で、ソーシャルメディアには何ができるだろうか。多くの人が、実は今こそ意外と面白いことに気付きはじめている。一種のスポーツになってしまったソーシャルメディアにおいて、多くの人はプレイの喜びを味わうのではなく、ただスコアボードをじっと見つめているだけだった。

だが、ありがたいことに、Zoomに「いいね」機能はない。

変わらないものはない。これに気付くと、何かを決めるときに他人の目を気にすることから自由になれる。大切なのは、見栄えや見た目ではなく、どのように感じるかとういうことだ。気持ちを落ち着かせ、笑い、孤独を和らげるのに役立つかどうか。そういうことこそ、本当にすべきことだ。家で読書、入浴、ボードゲームなどをするだけなら、何かを見逃してしまうのではないかとFOMO(取り残されることへの恐れ)を感じることもなくなるだろう。自分らしくさえあれば良いのだ。

社会的な生き物にとって、最も自然に感じるのは「つながっている」ということだろう。そしてそのつながりは、やったばかりのことを後からフィードで共有するのではなく、同じ時間を共有することによって感じられるものなのだ。真面目な目的を遂行するために開発されたプロフェッショナルなビデオ通話技術が、単に一緒にいたいという一見意味のなさそうな一体感を得るために使われているが、それはそれで良いのではないか。私たちの普段したいことは、幼少期に校庭や家の前でしていたこと「ただ遊ぶこと」なのだから。

Housepartyしよう!

その証拠に、グループビデオ・チャットアプリのHouseparty(ハウスパーティー)では、10代の若者たちが画面上に集まって、目的もなく時間をつぶしている光景を目にすることができる。新型コロナウイルスの拡大に伴い街が封鎖されているイタリアの場合、Housepartyは、1カ月前にはトップ1500にさえ入らないアプリだった。それが現在では、ソーシャルアプリの第1位、全体で第2位のアプリとなっている。他の多くの国でも、HousepartyはZoomに次いでチャートの上位を占めている。

先週の月曜日の3月16日に、Housepartyはすべてのチャートで1位を獲得した。TechCrunchがSensor Towerから入手した統計によると、Housepartyのダウンロード率が2月の平均値より323倍も高くなっているとのことだ。3月21日には、ポルトガル(371倍上昇)、スペイン(592倍上昇)、ペルー、アルゼンチン、チリ、オーストリア、ベルギー、英国で1位になったが、1週間前にはチャートにすら登場していなかったのだ。Apptopiaによると、Housepartyのスペインでのダウンロード回数は、3月1日時点で25回だったのが、3月21日には4万回に達したという。

Houseparty rockets

Housepartyは多くの国のチャートで1位に急上昇した

昨年、Housepartyは業績がかなり低調であり、6月にフォートナイトのメーカーであるEpic社に買収される前の時点では、米国のチャートで245位まで落ち込んでいた。しかし、第三者を介さずにつながりたいという需要が突然高まったため、Epic社が7月以降アップデートを怠っていたにも関わらず、Housepartyは活気を取り戻すことができた。

「Housepartyは、物理的に離れていても、なるべく人間的な方法で人々をつなぐように設計されている」と、スタートアップの共同設立者であるBen Rubin(ベン・ルビン)氏は述べている。「今はすべての人が孤立と不確実性を感じている。この重要な時期に、人間らしいつながりを何百万もの人々に提供できる製品が作れたことを、嬉しく思う」。

Houseparty以外でも世界中で人と直接つながることができるアプリの人気が急上昇している。スウェーデンでは、Googleハングアウトが優位を占めており、フランスでは、ゲーマー用チャットのDiscordが1位だ。オランダではMicrosoft Teamsが支配的である。Netflixを満喫した後、私たちに残された楽しみは、結局のところ、お互いだけなのだ。

地理的な制約とは無関係

すべての人が家に留まっている状況では、家のある場所はもはや何の意味も持たなくなる。友人の定義も、車で20分、電車で1時間といった範囲には限定されなくなるだろう。すべてのクラスがオンラインに移行したため、学生たちは皆Zoom大学に通うことになるなどと言われているが、同様にすべての人はZoom町の住人となったのである。通勤も短縮され、残っているのは招待URLの生成にかかる時間のみとなっている。

サンフランシスコ在住の筆者としては、バークレー湾の向こう側の友人でさえ、以前は遠く感じていたものだった。しかし今週は、普段遠すぎると感じていたシカゴやニューヨークなどの大切な人たちと、1時間ほどビデオ通話をすることができた。直接会ったことのない赤ちゃんを見て時間を過ごしたり、東海岸にいる両親とたびたび連絡することもできた。 両親との連絡は、今までにないくらい重要で緊急なものだった。

ZoomでボードゲームのCodenamesをしている

ニューヨークやノースカロライナの友人を相手に、ZoomでボードゲームのCodenames(コードネーム)をしている

通常、多くの時間をともにする相手は、周囲の知人たちだ。つまり、オフィスを共有している同僚たちや、たまたま近所に住んでいる友人たちといった具合である。しかし今や、各自がバーチャルな家族を選択し、構築するようになっている。考え方が変化しているのだ。つまり、自分にとって誰が役に立つか、面白い場所に招待してもらえるかといった基準ではなく、人間的な気持ちを感じさせてくれるのは誰かという基準への変化である。

John Legend Live

セレブたちも例外ではない。伝統的なポートレートや派手なミュージックビデオではなく、FacebookやInstagramライブで、普通の照明を使ったリアルな姿を見せるようになっている。John Legend(ジョン・レジェンド)が10万人の視聴者の前でピアノを演奏する傍らで、妻のChrissy Teigen(グリッシー・テイガン)はタオル姿のまま、何度も聞いたかのようにつまらなそうに座って「All Of Me」を聞いていた。これは、テレビで見るよりもリアルな光景だろう。

そして、連絡すべき相手に関する従来の考え方にとらわれることなく、今までの人生で付き合いのあった人たちに連絡する機会もある。大学時代のルームメイト、高校の仲間、影響を受けたメンターなどといった人たちが思い浮かぶかもしれない。さらに、もし今の試練の時期にまだ感情的な余力があるのなら、やるべきことはほかにもある。独身者や一人暮らしの人、街の中で細やかなサポートネットワークに恵まれていない人を誰か知っているだろうか。

そのようなつながりを作り直すことは、忘れかけている大切な記憶を取り戻すだけでなく、健全な思考を保つのにも役立つだろう。社会的な相互作用の中で仕事をし、遊んでいる人々にとって、外出禁止というのは孤独な監禁を意味しているからだ。孤立している人々に注意を払わなければ、精神衛生の危機はすぐそこである。

ミーム、危機に役立つ言語

しかし、そのようなつながりを保ち続けるにはエネルギーが必要で、簡単なことではない。ウイルスが健康と経済へ及ぼす影響のため、皆が不安でいっぱいになっている。筆者自身、朝ゆっくり起きて、1日の時間を短くしようとしたことが何度かあった。他愛もない世間話でも、不安を蒸し返すだけになってしまうため、話すことがなくなってしまうときもあるだろう。

幸いなことに、何も言わずにコミュニケーションがとれる方法がある。ミームを共有するのだ。

新柄コロナウイルスのミーム

義父が送ってきた画像。ミームが普遍的な言語になっていることがわかる

インターネット上では、新型コロナウイルスに反応して、世界中でブラックユーモアが大量に発信されている。インスタグラムのジョークアカウントに関するRedditスレッドのグループチャットから、25万人のメンバーを誇る「Zoom Memes For Quaranteens」のようなFacebookのグループまで、さまざま方法で危機を乗り切ろうとする動きがある。

ひきつった笑いでも、笑えないよりはましなのだ。ミームによって、忍び寄る不安や狂いそうになる気持ちを、生産的な何かに変えることができる。匿名なので、誰かが作ったものを気軽に共有することができるからだ。自宅隔離の間、人々に笑顔をもたらすことを目標に、ミームの作成に没頭することもできる。フィードとストーリーがなくなった後は、ミームを消費することこそ、新たな連帯の手段となるだろう。皆が一緒に体験しているこの地獄のような状況を、笑ってみるのもよいかもしれない。

コロナウイルスのミーム

流行の真っ只中で、ウェブの「精神的免疫システム」が始動したのだ。監禁状態で無抵抗になるのではなく、発達した「デジタル抗体」を開発し、孤独に立ち向かっている。コードネームのようなボードゲームを使えば、ビデオチャットにも彩りを添えられる。1回限りのライブストリームは、完全オンライン型の音楽フェスティバルとなり、ニューオーリンズやベルリンのサウンドを世界中に向けて配信している。ウェブ会議に対する「Zoombombing」という、新手の「荒らし」やいたずらさえ発生しているという。さらに、巨大IT企業に対する反発が始まって5年ほど経ったが、業界のリーダーたちにより、対等な関係のソーシャルセーフティネットや、客足が戻るまで中小企業が生き残るための対策なども立ち上げられている。

出来事は、共有するために探し求めるのではなく、隔離で残った唯一のもの、つまり自分自身を使ってイチから創作するものとなった。感染の波が過ぎ去った後も、この創造性のうねりや同時的な連帯感は強いままであってほしい。「見せびらかす」のではなく「姿を見せる」ことが、インターネットの最も良いところなのだから。

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(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。