人前で話すことから声帯麻痺まで、Expressableは5億円を投じて遠隔での言語聴覚療法を提供

全米では少なくとも4000万人が言語に障害を抱えているが、このたび新しいスタートアップが大規模な解決策を打ち出す。オースティンを拠点とするExpressable(エクスプレッサブル)は、新たにシードラウンドで450万ドル(約5億円)を資金調達し、患者と言語聴覚士(SLP)を遠隔医療サービスと非同期サポートで結びつけるデジタル言語聴覚療法(スピーチセラピー)を展開する。

Expressableは、米国でコミュニケーション障害を抱える約500万人の子どもたちにサービスを提供することに重点を置いて、早期にセラピーを開始して子どもたちの将来を守ることを目指している。最初は吃音が時々あるだけだったとしても、時間が経てばコミュニケーション障害になってしまう可能性があるからだ。

共同創設者(かつ夫婦)であるNicholas Barbara(ニコラス・バーバラ)Leanne Sherred(リーエン・シェアード)が2019年に立ち上げたExpressableは、これまでに数千もの家庭にサービスを提供してきた。彼らは米国時間5月7日、Lerer Hippeau(レラーヒッポー)とNextView Ventures(ネクストビューベンチャーズ)が共同で主導し、Amplifyher Ventures(アンプリファイハーベンチャーズ)が参加するシードラウンドで資金調達することを発表する。この資金は、プロバイダーネットワークの拡大、ネットワーク化、EdTechサービスへの取り組みに使用されることになる。

事業内容

Expressableが提供するのは、子どもたちが言語聴覚士のセラピーを定期的に受けられるサービスだ。セラピーは、医療向けZoomを介して、Expressssableがフルタイムで雇用している資格を持つ専門家がライブで行う。人前で話すことから声帯麻痺まで、クライアントが必要とする分野の言語聴覚士がマッチングされる。保護者は、安全なSMSを通じて、言語聴覚士と連絡を取り、セラピーの調整や質問、スケジュールの変更などを行うことができる。

Expressableでは、リアルタイムのサポートに加えて、非同期型のサービスも用意されている。言語聴覚士が用意した宿題やレッスンをSMSで提供するeラーニングプラットフォームが構築され、言語訓練プランを強化することができる。

クルマで買い物に行くとき、夕食を作るとき、庭で遊ぶときなどに使える小さく分割されたアクティビティは、子どもとの対話に合わせて作成されている。レッスンは、子どもがジュースを頼む場面を作ったり、まねっこゲームで二語発話を練習したりといった簡単なものから始まる。

Expressableによる安全なSMSのデモ画面(画像クレジット:Expressable)

ExpressableのこのユニークなEdTechは、セラピーのプロセスに保護者が大きく関与することを求めている。保護者の協力がプラスの結果につながることはわかっているが、低所得者や労働者階級の家族が置き去りにされてしまうことがある。サービスの価格は平均して週に59ドル(約6400円)。現在は保険による補助がなく、全額自己負担となっている。

「言語聴覚士による言語聴覚士のためのコンテンツはたくさんありますが、言語聴覚士による保護者のための使いやすいコンテンツはあまりありません。これは大きなチャンスであり、市場のギャップであると感じました」とバーバラ氏は話す。

現状よりも優れている、というのはExpressableの価値の一部だが、現状には驚くほど無意味なものが多い。米国国立聴覚障害研究所によると、米国内の子どもの約8~9%が構音障害を持っているとされているが、実際に治療を受けているのは半数程度。Expressableが、子どもたちの将来を守るために早期にセラピーを受けさせたいと考える理由は、時折の吃音から始まる障害は、時間の経過とともにコミュニケーション障害に変わる可能性があるからだ。

「公立学校は小児言語学の第一の提供者ですが、残念ながら資金不足であることはご存じでしょう」とシェアード氏は話す。学校で言語サービスを受けることができた子どもたちはラッキーだが、グループでのレッスンでは上達するまでに時間がかかってしまう、と同氏は続ける。

シェアード氏は言語療法士として、学校でのセラピーのギャップがもたらす「信じられないほどのフラストレーションの連鎖」を身をもって体験している。同氏はキャリアの大半を在宅医療に費やし、家庭やデイケアで子どもたちと直接関わる仕事をしてきた。

Expressableのユーザーの多くは子どもだが、約35%は大人で、言葉の問題が大人になっても続くことがわかる。

Lerer HippeauとExpressabbleの取引を仲介したMeagan Loyst(ミーガン・ロイスト)はその一例だ。ロイスト氏は、2020年後半に言語と音声に問題があると診断され、リモートの言語療法サービスを見つける必要があったが、その際に質の高い言語療法士を見つけることの難しさを知ることになった。

「Expressable以前には、コミュニケーション障害を持つ個人のためにこれらの課題を解決する消費者向けのサービスは存在しませんでした」とロイスト氏は話す。「Expressableはすでに最高の言語療法士を雇用し、子どもたちがより良い結果を出せるように保護者や教育をプロセスに組み込んでいます。さらにこれらをバーチャルにすることで、コスト効率の高い手軽な方法を提供しています」。

工夫を凝らした遠隔医療

遠隔医療の利用率はパンデミック前の水準を上回っているが、訪問診療は減少傾向にある。Expressableに限らず、デジタル遠隔医療の新興企業にとっての課題は、パンデミック後に、医療や介護を完全にバーチャル化することをいかに説得力を持って提案できるかということだ。

Expressableの共同設立者たちは、競争上の優位性として、社内外での一貫性を挙げている。

まず、言語セラピーは、多くの患者が週に一度、毎月、何年にもわたって利用する継続的なサービスである。バーバラ氏は「他の遠隔医療サービスの多くは、迅速で簡単かつ直接的なプライマリーケアを提供するものです」「私たちは、提供者と患者の密接な関係を必要とする、より長期的な治療計画を提供しています」と話す。

第二に、多くの遠隔医療関連の新興企業とは異なり、Expressableは専門家を正規の従業員としてフルタイムで雇用する。同社には、現在50名の正規雇用の言語療法士が在籍しているが、言語療法士との長期的な関係を顧客に保証するための戦略的な選択である。

「私たちは、言語療法士のキャリアパスを構築し、言語聴覚士に対価として得られる価値を提供しています。彼らは自宅で時間を設定しながら仕事ができ、全国平均を上回る報酬を得られ、業務委託では得られないような福利厚生も受けられます」。

従来の業務委託モデルに依存しないことは差別化につながるかもしれないが、課題にもなり得る。Expressableはさまざまな言語の問題に対応できる言語療法士を迅速に(そして効率的に)採用する必要があり、新しい市場に進出する際は、個々の療法士の免許を取らずに類似企業のスタッフを支援するというホワイトラベルの手法を利用するのではなく、地域ごとの免許要件という面倒な法的プロセスを経る必要がある。

Expressableは、現在は15の州で事業を展開。そのすべての州で免許を持つ言語療法士を雇用し、今後全米規模の事業になることを目指している。

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カテゴリー:EdTech
タグ:言語聴覚療法Expressable遠隔医療コミュニケーション障害資金調達言語

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Dragonfly)