慌てるな、AIは職を奪わない―しかし今後ますます定着していく

Human and robots to work together in the near future. This combination will accelerate developing technology. Businessman and cyborg organizes social media.

ディストピアSFを通じて昔から広められてきた奇妙な信念に「人工知能やロボットが人類を破滅させる」というものがある。この世間知にはイーロン・マスクやスティーブン・ホーキングのような有名人も参加しているので驚いてしまうが、人工知能が発達すると、最後には有機体生命より賢くなり地球を乗っ取るという恐るべ結果をもたらすらしい。

しかし「AIがわれわれを滅ぼす」などということはSFの世界を離れればまずありそうにない。それどころか職を奪うことさえないだろう。

実際には、われわれが何かをするのを助けてくれるだろう。なるほどAIが仕事を助けてくれるという考えはロボットの大君主が地球を征服するという夢想ほど魅惑的ではない。しかし2016年現在、人工知能を考えるうえではるかに現実的な評価だ。これは工場の組立ラインの作業員にも得意先を回るセールスパーソンにも、オフィスの知識労働者にも等しく当てはまる。

シリコンバレーのソフトウェア・デベロッパーは人々の職を奪うための完璧なアルゴリズムを開発しようとしているという考えは正しくない。実のところ、コンピューターのアルゴリズムと人間の創造的な知能を組み合わせてより良い仕事ができるようにする方法を見つけようとしているだけだ。

AIは人間を補完する

AccentureのCTO、Paul Daughertyの説明によれば、同社は「人工知能は人間の能力を強化するもので代替するものではない」と考えている。その過程で人工知能は巨大な経済成長をもたらすという。同社の努力は恐怖を撒き散らすSF的ストーリーとは無縁だ。

「AI開発におけるわれわれの目的は人類以上のスーパー知能を作ることではなく人類の知能をスーパーにすることだ」とDaughertyは言う。SF風のお話はメディアが取り上げやすいかもしれない。しかしAccentureが目指しているのは「複雑な問題を簡単にする」という地味だが実際的な目標だ。

ロボットの大君主が地球を征服するというのと比べて、AIはわれわれを助けて仕事をスマート化するというのはセクシーな話題には聞こえないかもしれない。しかしはるかに現実的な考え方だ。

Accentureではこの目標に向けて具体的に3つの課題を追求している。一つはビジネス・プロセスを知的、効率的なものにすることだ。 次に、これを実現するために、人間がコンピューターのデータ処理能力を最大限に活かせるような新しいインターフェイスを開発している(おそらくスマート・グラスのような新しいデバイスの利用が含まれるだろう)。最後に、何十年も前からビジネスにおける大きな課題であった構造を持たないデータを利用できるようにする方法を探っている。

ただしこうした努力はいわゆる知識労働者だけに関係するのではないとDaughertyは言う。AIは工場にも直接影響を与える。Accentureでは製造業のクライアントのためにAIと拡張現実ヘッドセットを組み合わせ、熟練労働者に新しい作業を学習させる方法を開発中だ。作業員はヘッドセットを通じて作業の細かい部分について適切な指示を受け取る。これによって新しい作業を学ぶスピードが非常に速くなる。作業員もこの方法を快適だとして好むことがわかった。同時に会社側も作業員に多様な業務を実施させつつ訓練教育のコストを大幅に削減できるとが判明している。

セールス業務が改善される

セールス業務は今年に入ってAIの大規模な適用が始まった分野だ。Salesforceのセールス・ツールを始め、Oracle、SugarCRM、Base等々がその例だ。セールス・チームは個々のセールス要員の業務に影響を与える可能性のある要素をすべて把握することは不可能だ。そこでこの部分を助けるためにコンピューターの出番となる。

優秀なセールスパーソンはコミュニケーションの才能に恵まれており、成約に結びつけるためにどういう駆け引きが必要かもよく知っている。しかし、SugarCRMSugarの最高プロダクト責任者、Rich Greenによれば「.いかに優秀なセールス要員であっても、成約を妨害する可能性のある無数のネガティブな要素については知識を欠いていることが多い」という。

そこでAIが現在のセールスの進行状況と他のセールスの進行状況の関連、契約の成否に関係する可能性がある外部のニュース、客先からメールの調子その他を報告してくれる。コンピューターと優秀なCRM〔顧客管理〕ソフトウェアとはこうした情報を処理してセールス・チームに伝えることができる。現場のセールス担当者は客先の人間とのコミュニケーションに集中できるわけだ。

この点はSalesforceも今年早くから力を注いでおり、APプラットフォームのEinsteinのリリースもその一例だ。来年以降この種のソフトウェアはますますポピュラーになるだろう。

AIは定着し、拡大する

AIについて個人的にどういう印象を持っているにせよ、AIはほとんどあらゆるソフトウェアの進歩の原動力となるだろう。それがソフトウェアの進展の自然な道筋だ。ソフトウェアを賢くする方法があれば誰もが利用する。Daughertyは「この特性がAIの採用をクラウド・コンピューティングの採用より急速なものにする」と考えている。

クラウド・コンピューティングの場合、企業はオンプレミスのコンピューティング資源をクラウド・ベースに置き換えるという大きな決定をする必要がある。その分だけ意思決定に時間がかかる可能性がある。AIの場合、全体としては現状のままで、ソフトウェアの一部を将来に向けて置き換えていくことができる。AIはテクノロジーとしてははるか以前から開発され、実用化の機会を待っていた。今やコンピューターの処理能力の向上とビッグデータの蓄積が企業にAI化のシナリオを選択する絶好のチャンスを与えている。【略】

Featured Image: Devrimb/Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

政府はデジタル経済の価値3兆ドルを作り出せる―世界経済フォーラムのリポート

シリコンバレーのこれまでの経験ではイノベーションというものは、政府の力を借りて起きるのではなく、政府の妨害にもかかわらず起きるものだった。しかしアクセンチュアの戦略担当シニア・ディレクター、Anand Shahによれば、政府は経済成長を加速するために果たすべき重要な役割があるという。

ただし、政府の役割はニューディール時代のTVAのようなインフラ構築と失業対策を目的とするトップダウンの巨大投資ではない。Shahは世界経済フォーラム(WEF)が先ごろ発表した産業のデジタル化についてのレポート(Digital Transformation of Industries)の主要な筆者の一人だが、 政府の役割をビジネスに対する重要な協力者ととして位置づけている。

Shahは「政府は新しいイノベーションが起きている領域、たとえばドローン分野で民間と協力していく必要がある」としている。現在この領域は古臭い規制によって足を取られており、本来の可能性を活かすために苦闘してるところだ。政府にとって最大の課題は、イノベーションを起こすような新しいテクノロジーをゼロから作ることではなく、イノベーションの足を引っ張る規制を撤廃して真の可能性を解放(unlock)するところにある。

WEFのレポートは政府がデジタル経済の可能性を解放した場合、その「社会的価値」は向こう10年で3兆ドルに上ると試算している。

ヒラリー・クリントンにせよドナルド・トランプにせよ、WEFのレポートを読まないとしたら非常に残念なことだ。Anand Shahがビデオでも説明しているとおり、イノベーションが価値を発揮するのは政府と民間の協調による。政府は規制の壁を築いたり、経済の自由な活動を圧殺したりしてはならない。

現代のネットワーク時代においてはとりわけスピードがものをいう。機敏に動ける協調性を実現できるかどうかが政府にとって大きな挑戦となるだろう。

このインタビューの実現にあたってはいつものとおり、CALinnovatesの絶大な協力を得た。

画像: ConstiAB/Flickr UNDER A CC BY 2.0 LICENSE

〔日本版〕本文中にもリンクがある世界経済フォーラムの白書(pdf)にはデジタル経済を加速させるテクノロジーの例として、スマートフォン、ドローンを始めとして、3Dプリンティング、DNA解析、太陽光発電、自動運転用lidarなどが取り上げられている。また2013年に事実上ゼロだった消費者向けエレクトロニクス/IoTのシェアがわずか2年後に6%を占めるようになったことが円グラフで示されている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


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