「ドリルを買う人が欲しいのは『穴』である」という格言がある。顧客にとってドリルはあくまでも手段であって、求めるものは穴(結果)ということだ。私たちは、たとえテレビやPC、スマートフォンがどんな仕組みで動いているのかを知らずとも満足に使える。その結果、それらは世界中で数十億人が利用するツールになった。
AIの分野でこれを実現しようとするのが、データを入れるだけで高度なAI分析を行うことができるSaaS型ツール「datagusto(データグスト)」だ。同製品を開発するdatagustoは、2021年5月24日、DEEPCORE、East Ventures、ゼロワンブースター、G-STARTUPからの合計8500万円の資金調達を発表した。
専門知識なしでAIが使える
「これまで企業がAIを活用しようとすると、専門のコンサルタントに依頼したり、データサイエンティストを雇用したりするのが必要で、多大なコストがかかっていました」。そう話すのは、datagustoのCEOであるパー・麻緒氏。「昨今、AIの開発工数を短縮するためのソフトウェアはいろいろ出てきてますが、それらはあくまでもデータサイエンティストのためのツール。専門知識のないビジネスサイドの人間が使いこなすことは難しい」。
この課題を解決するため、ユーザーが専門知識をまったく持たずとも、簡単にAIを使いこなすためのツールがdatagustoだ。パー氏はこれを「具材を入れるだけで料理ができあがる、自動調理器のようなツール」と表現する。同ツールでは、あらかじめパッケージ化された分析テンプレート(同社は「レシピ」と呼ぶ)をクリックすると、誰でも簡単に「何時に荷電すれば受注できるのだろうか?」といった現場の疑問への答えを、データから導出することが可能になる。ユーザーが行うことは、datagustoにより指定されたデータをアップロードすることだけ。
先の例では、荷電時間・受注の有無・荷電先の業種・設立年・荷電担当者など、社内で過去蓄積してきたデータをコピー&ペーストでdatagustoにアップする。あるいは、SalesforceなどのCRMと連携し、自動でのアップロードも今後可能に。AIは、アップロードされた過去のデータから傾向を見出して「○時に荷電するのが最も成功確率が高い」といった形でユーザーに提示する。
datagustoの分析テンプレートは「最適な荷電時間のレコメンド」にとどまらない。「販売個数の予測」「離脱予測」「コンバージョンにつながる見込み客の予測」など、これまで社内に眠ったままだったデータをdatagustoに注入することで、業界や規模を問わず手軽にAI分析を行うことができるようになる。
AIの大衆化を実現する
一方で、datagustoにもトレードオフは存在する。同製品は誰でも簡単に使える分析テンプレートが用意されている反面、他社のAIツールと比較するとカスタマイズできる部分が少ないのだ。しかしパー氏は、その違いこそがdatagustoの強みだと話す。「誰しもが高い自由度や、最高の性能を求めているわけではないと思うんです。例えば他社のAIツールは、車でいうとフェラーリ。馬力があって何でもできるんだけど、数千万円も費用がかかって、使いこなすのが大変。一方でdatagustoは、低燃費で使い勝手が良い『AIツール界のプリウス』みたいな存在を目指しています」。
パー氏のdatagusto創業のきっかけは、アパレルバイヤーとして働く友人からの相談だった。当時、大手外資系コンサルティングファームでデータサイエンティストをしていたパー氏は、海外ラグジュアリーブランドのバイヤーを務める友人から、発注数を決める方法について尋ねられたという。「データ分析の専門知識を持たず、ツールもエクセルしか与えられていない友人にとって、その分析を自身の手で行うことは不可能でした」。一方で、毎月数百万円ものフィーが発生するコンサルサービスは、ビジネスの規模として採算が合わない。同氏は「それだったら、誰にとっても低価格で知識がなくても使えるAIツールを自分がつくろう」と考えた。
2020年4月創業のdatagustoは、同年11月にβ版をリリース。すでにリコー、大和ライフネクストなどで試験導入されており、ある営業現場ではアポ率を従来の5%未満から、最大20%にまで上昇させることに成功したという。今回の調達資金をもとに製品開発をすすめ、2021年10月に正式版をリリースする予定で、提供価格は1ユーザーあたり年間10万円〜(予定)。従来のAI開発では、数百万から、大規模であれば数千万円規模の開発費用がかかっていたことを考えると、まさに「AIの大衆化」を実現するプロダクトといえるだろう。
「テレアポ1件をAIで効率化して得られる経済的利益は、微々たるものです。でもこれが数百、数千件と積み重なることで、ビジネスを抜本的に変革させる要因にもなり得ます」とパー氏は目を輝かせる。日本中のビジネスパーソンが、マニュアルを読まずともAIによるデータ分析を使いこなして意思決定を行う。彼女が目指すそんな未来の実現も、そう遠くはないかもしれない。
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