動物を使わずに動物性脂肪を生産することを目指している英国のスタートアップHoxton Farmsが、シード資金270万ポンド(約3億9000万円)を調達した。
このラウンドは、PayPalの創業者でもあるPeter Thiel(ピーター・ティール)氏が設立したシリコンバレーのベンチャーキャピタルであるFounders Fundが主導している。またBacked、Presight Capital、CPT Capital、Sustainable Food Venturesも参加した。
まだ研究開発段階にあるHoxton Farmsは、ロンドンのオールドストリートにある新しい専用ラボで学際的なサイエンスチームを拡大させるために資金を使用すると述べている。共同創業者で数学者のEd Steele(エド・スティール)氏は、「今後1年から18カ月かけて、当社の培養脂肪のスケーラブルなプロトタイプに向けて取り組んでいく予定です」と語っている。
同氏は、バイオテクノロジーの2つの学位と合成生物学の博士号を持つ長年の友人であるMax Jamilly(マックス・ジャミリー)博士と一緒に会社を立ち上げた(2人は幼稚園の頃に出会った)。「私は、CRISPRと呼ばれるゲノム編集技術を用いて、子供の白血病の治療法を発見するために博士号を取得しました」とジャミリー博士は語る。「その過程で、複雑な細胞を大規模に培養する方法を学びましたが、これはHoxton Farmsが直面している科学的挑戦の基本的な部分です」。
食肉代替分野の他の企業と同様、このスタートアップは、従来の食肉産業は持続不可能であるという前提に基づいて設立された。そうした中で代替食肉の需要は急増しているが、スティール氏は、これらの製品はまだ十分ではないと主張している。「味が悪く、健康的ではありません。重要な成分である脂肪が不足しています」と彼はいう。そしてもちろん、肉の味の大部分を決めるのは脂肪だとも。
しかし、一般的な代替肉は脂肪の代替品として植物油を使用しており、これには多くの欠点がある。ココナッツオイルやパーム油のように環境に悪いものもあるし、ほとんどの油には風味がない。
「Hoxton Farmsでは、動物を使わずに本物の動物性脂肪を育てています」とスティール氏は語る。「わずか数個の細胞から、バイオリアクターで精製された動物性脂肪を生成し、動物実験を行わずに持続可能な原料となる培養脂肪を生産しています。それは最終的に、見た目も、料理するときも、味も本物のような培養肉への扉を開きます」。
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さらに、現時点で存在する動物細胞の培養技術は高価すぎるという。Hoxton Farmsは数学的・計算論的モデルを利用して「細胞培養のコストを大幅に削減する」ことを目指しているが、その結果、「大規模にしたとき費用対効果が高い」生産プロセスが実現すると同社は考えている。
「我々は、計算生物学と組織工学の最新技術を組み合わせて、数年前には不可能だった科学を実現しようとしています」とスティール氏はいう。「当社が他と違うのは、大規模で費用効率よく細胞を成長させる唯一の方法は、数学的モデリングの力と合成生物学の力を組み合わせることであるという基本的な哲学です」。
彼の計算科学的アプローチは、同じ問題に取り組んでいる他社(競合他社には米国のMission Barns社やベルギー、イスラエルのPeace of Meat社などがある)との競争に役立つだけでなく、異なる製造業者向けに脂肪をカスタマイズすることも可能にすると想定されている。これには、味のプロファイル、物理的特性(融解温度、密度など)、栄養プロファイル(飽和 / 不飽和脂肪酸比率など)の微調整が含まれる可能性がある。
一方、Hoxton Farmsの初期の顧客は、植物油に代わるより持続可能で風味豊かな代替品を求める植物ベースの代替肉企業になる。将来的には、筋肉細胞を培養しているが脂肪源を必要とする培養食肉会社やベーカリー、製菓、化粧品などの他の業界もターゲットとしている。
カテゴリー:フードテック
タグ:培養肉、Hoxton Farms、資金調達
画像クレジット:Hoxton Farms
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(文:Steve O’Hear、翻訳:Aya Nakazato)