年老いた仮想化の巨人CitrixをVistaなどが約1.9兆円で買収、TIBCOと合併してSaaSの大企業に

IT業界では、ハイブリッドな働き方が定着したこの世界で幅広いニーズに対応する「ワンストップショップ」を求める企業の新たな需要に応えるため、さらなる統合が進んでいる。

クラウドコンピューティングへゆっくりと移行を進めている年老いた仮想化の巨人Citrix(シトリックス)は、PE(プライベート・エクイティ)企業のVista Equity Partners(ビスタ・エクイティ・パートナーズ)と、Elliott Investment Management(エリオット・インベストメント・マネジメント)の関連会社であるEvergreen Coast Capital(エバーグリーン・コースト・キャピタル)に、165億ドル(約1兆9000億円)で買収されることになった。Vistaでは、2014年に43億ドル(約4900億円)で買収したTIBCO(ティブコ)と、Citrixを統合することを計画している。全額現金による取引には、Citrixの負債の引き受けも含まれると、両社は述べている。

今回の買収は、Citrixをめぐる長期の憶測の末に行われることになったもので、同社は少なくともこの5カ月間、複数の戦略的な選択肢を検討してきた。2021年12月にはこの憶測も頂点に達し、VistaとElliottが130億ドル(約1兆5000億円)で同社を買収するという報道があった。

現在、Citrixの株はNASDAQで取引されているが、今回の買収により同社は非公開企業となる。同社によると、Citrixの株主は「VistaとEvergreenによる入札の可能性に関する報道がなされる前の最後の取引日 」である2021年12月20日の終値に24%のプレミアムを加えた、1株あたり104ドル(約1万1900円)の現金を受け取ることになるという。なお、Evergreenが今回の買収の前に、すでにCitrixへの投資を行っていたことは注目に値するだろう。

PE企業は、VCと同様に、投資が必要な瞬間のために膨大な資金を抱えている。これに対処するための1つの明白な方法は、リストラや統合を必要としている大規模なテクノロジー企業を買収することだ。

CitrixとTIBCOを統合することで、後者のアナリティクスと前者の仮想化およびクラウドコンピューティングのサービスを、抱き合わせ販売することが可能になる。これは多くのバイヤー、つまり企業が、よりシンプルなサプライヤーとのパートナーシップや、新型コロナウイルス流行の影響を受けてリモート勤務が増えている従業員のためのITサービスに関する財務状況の改善を求めている時期とも合致する。

合併後の会社は、当初から大きなビジネスを展開することになる。CitrixによればFortune(フォーチュン)500社の98%を含む40万社の顧客を持ち、世界100カ国に1億人のユーザーを抱えることになるという。

Citrixの取締役会議長であり、暫定的な最高経営責任者兼社長であるBob Calderoni(ボブ・カルデローニ)氏は「過去30年間にわたり、Citrixは安全なハイブリッドワークの明確なリーダーとしての地位を確立してきました。市場をリードする当社のプラットフォームは、従業員が業務を遂行するために必要なすべてのアプリケーションと情報への安全で信頼性の高いアクセスを、どこでも必要とする場所へ提供します。TIBCOとの統合により、我々はこのプラットフォームとお客様の成果を拡大していきます」と、声明で述べている。「TIBCOと一緒になることで、我々はより大きなスケールで事業を展開することができるようになり、より多くのお客様に幅広いソリューションを提供し、デジタルトランスフォーメーションを加速させ、ハイブリッドワークの未来を実現させることが可能になります。我々は非公開会社として、DaaSなどの高成長の機会に投資し、進行中のクラウド移行を加速するための財務的および戦略的な柔軟性を高めることができます」。

VistaとCitrixは、今回の取引の前から何かと縁があった。Citrixは1年前に22億5000万ドル(約2580億円)を支払って、プロジェクト管理プラットフォームのWrike(ライク)をVistaから買収している。また、TIBCOにも売却の噂があったが、Vistaは別の道を選んだようだ。TIBCOをCitrixと組み合わせることで、企業が現代のITをどのように評価し、購入しているかを物語るような、より興味深い資産の使い方ができるかもしれない。

TIBCOのCEOであるDan Streetman(ダン・ストリートマン)氏は「コネクテッド・インテリジェント・アナリティクスのビジネスを展開する上で、今ほど良い時代はありません。業界をリードする当社のソリューションを、Citrixのグローバルな顧客に提供できることに興奮しています」と、声明の中で述べている。「勤務場所は常に変化しており、あらゆる企業が、自社と従業員、そして彼らのエコシステムで利用可能な、ますます膨らむ大量のデータから、より速く、より賢い洞察を得るために、リアルタイムにアクセスできることを必要としています。両社のビジョンの融合にはこれ以上ないほど期待しており、強力なパートナーシップが築けることを楽しみにしています」。

Vistaのフラッグシップ・ファンドの共同責任者であり、シニア・マネージング・ディレクターを務めるMonti Saroya(モンティ・サロヤ)氏は、声明の中で「私たちはCitrixのことを、業界の状況を変えた数多くのカテゴリーを構築・定義してきた真のテクノロジー・パイオニアであると考えてきました」と述べている。「非公開会社として、Citrixはより多くのリソースとサポートを利用できるようになるだけでなく、最新で安全なリモート・ハイブリッド・ワークを支持するトレンドを背景に、長期的な強い追い風を利用して、統合された顧客基盤にサービスを提供し、高成長市場に投資するためのさらなる柔軟性を持つことになるでしょう」。

画像クレジット:Blue Planet Studio / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

統合が進むRPA業界、Blue PrismがVistaに約1652億円で売却される

2020年来、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)市場は大盛り上がりだが、市場のパイオニアの1つであるBlue Prism(ブルー・プリズム)がVista Equity Partners(ビスタ・エクイティ・パートナーズ)に10億9500万ポンド(約1652億円)で売却されることが、米国時間9月28日の午前、英国での申請により明らかになった。2020年、多くのRPAスタートアップ企業が大手ベンダーに買収されたが、今回の買収は、RPA分野のトップ3ベンダーのうちの1社が関与した初めてのケースだ。

これは込み入った取引で、申請書によればVistaは、Vistaファンドが間接的に所有するBali Bidco Limited(バリ・ビドコ・リミテッド)という企業を設立し、同社がVistaに代わって購入を行う。そのような金融メカニズムを使った理由は不明だが、最終的にはVistaがBlue Prismを買収し、2014年にVistaが43億ドル(約4796億円)で買収していたTibco(ティブコ)に統合する予定だ。

Blue Prismは、申請書内での自己申告によれば、先の3月の年次総会以降厳しい状況に直面し、選択肢を模索していたという。「Blue Prismの取締役会は、当社が直面している戦略上および経営上の逆風、経営上の重大なリスク、および株主のみなさまからのフィードバックを考慮して、さまざまな戦略的選択肢を検討しました」と同社は申請書中で述べている。

そうした選択肢の1つが売却であり、それが会社にとって最善の方法であると判断したのだ。Blue Prism社の会長でCEOのJason Kingdon(ジェイソン・キングドン)氏は、これがより強固な基盤を築くための最良の道であると考えている。

「VistaとTibcoが合併することで、私たちは次世代のインテリジェントオートメーションの最前線に立ち続けることができます。Tibcoの世界に広がる拠点と技術により、お客様に提供する製品の範囲を拡大することができるのです。また、株式非公開企業として、製品への投資やその他のM&Aの可能性を通じて新たな成長機会を追求するために、資金調達を拡大することができるのです」と、キングドン氏は声明で述べている。

私たちは、Blue Prismが売却を決断した理由を探るために、過去の営業成績を調査した。2021年4月30日までの6カ月間の売上高は8040万ポンド(約121億2000万円)で、実質為替レートベースで前年同期比24%増となっている。同じ期間に、Blue Prismは、営業損失を5380万ポンド(約81億円)から2090万ポンド(約31億4700万円)に圧縮した。

赤字の解消は進んでいたものの、不採算の程度に比べて成長が遅れていた。今回の取引が発表される前にBlue Prismの評価額は下落しており、一般投資家がBlue Prismの業績に満足していないことが示されていた。VistaはBidco(ビドコ)を通じてBlue Prismにプレミアムを支払っているが、Blue Prismの評価額は最近の下落が始まる前の2021年の初頭に比べて、さらに低くなっている。

同社の2021年上半期の収益を見て、それを1年分に推定してみると、Blue Prismは収益の約6.8倍で売却されたことになる。これは、Blue Prismのようにゆっくりと成長している企業の、ヨーロッパ市場におけるエグジットバリューを示しているので有益な数字だ。Vistaは、Tibcoとの買収・統合が有益なものになると確信しているようだ。

1997年に設立されたレガシーベンダーのTibcoは、企業内のデータソースを接続するための幅広い自動化サービスを提供しているが、Blue Prismは組織内のレガシーのありふれたタスクを自動化するためのRPAサービスを提供している。Blue Prismは、成長するRPA市場においてTibcoを手助けすることができるので、少なくとも理屈の上では、両社はうまく調和するはずだ。

2020年のガートナーのレポートによると、この分野のベンダーのトップ3には、2020年上場して話題になったUIPath、Automation Anywhere(オートメーション・エニウェア)、Blue Prismがが並んでいた。2020年のレポートでIDCは、RPA市場は2021年20億ドル(約2230億円)に達すると推定しています。これはRPAにまつわる宣伝文句を考えると控えめな金額だが、IDCは2024年までには59億ドル(約6570億円)に達すると予想している。

この業界では統合が進んでおり、2020年は小規模な企業が大規模な企業に買収されてきた。最近では、Salesforce(セールスフォース)がドイツのスタートアップであるServicetrace(サービストレース)を買収してMulesoft(ミュールソフト)と統合したが、これはVistaがBlue Prismを買収してTibco取り込むのと同じような種類の動きだ。MulesoftとTibcoはお互いを競争相手といえるだろう。

関連記事:Salesforceが熱いRPAに参入、Servicetraceを買収してMulesoftと提携

この取引は、Blue Prismの株主総会での承認と、通常の規制当局の手続きを経て行われる。このニュースを受けて、Blue Prismの株価は2.12%下落している。

画像クレジット:mbortolino / Getty Images

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(文:Ron Miller、Alex Wilhelm、翻訳:sako)