中国のフィンテックWalletsClubは世界で使える「eウォレットのためのVisa」を目指す

WalletsClubの共同創業者:CEOのシュー・ジシャン氏、COOのZeng Xianru(ツェン・シェンルー)氏、CTOのLiu Hang(リュー・ハン)氏

デジタル決済が世界中で主流になりつつある。モバイルネットワーク事業者の業界団体であるGSMAが発表したレポートによると、2020年末までにアクティブユーザー10万人超を抱えるモバイルマネープロバイダーは300社超となった。合計で3億を超えるモバイルマネー口座が世界中で毎月使われている。

eウォレットとして広く知られるモバイルマネープロバイダーは、従来の銀行に頼ることなく携帯電話を通じての送金、支払い、支払い受け取りに使われている。広く浸透し、強固なネットワーク効果を享受している限り、使い勝手はいい。しかし年間ユーザーが10億人を超えるAnt GroupsのAlipayのような人気のサービスですら、大半の国ではさほど浸透していないために中国外では実際には使用できない。

そこでの問題は、従来の銀行が持つ相互運用性が大半のウォレット間ではないことだ、とWalletsClubを創業する前にAlibabaのクラウド部門とAlipayの基礎インフラ構築に携わったXue Zhixiang(シュー・ジシャン)氏は指摘した。

2019年に香港で登記し、中国本土にオペレーションチームを抱えるWalletsClubはデジタルウォレットのためのVisaになることを狙っている。世界の何百もの電子マネーサービス間での送金を可能にするというものだ。

「デジタルウォレットのための手形交換所のようなものです」とCEOのシュー氏は話した。

決済システムは金融取引に関わっている2者の仲介だ。資金の有効性を認証し、取引を行う2者間の送金を記録することで、送金の効率とセキュリティを確保するようデザインされている。WalletsClubを使ってリアルタイムに支払ったり、支払いを受けたりすることができる、とシュー氏は主張した。同社のテクノロジーは金融機関が世界中でデータを交換するのに使われている「ISO 20022」基準に基づいているとも話した。

言い換えると、WalletsClubは個人エンドユーザーではなく、世界中の何百ものeウォレットを追いかけている。同社のビジョンは、送金する側と送金を受け取る側のサービスプロバイダーあるいは金融機関がWalletsClubの会員である限り、あらゆるモバイルウォレットを使って人々がどこででも支払えるようにすることだ。これはVisaやMastercardがネットワーク内のさまざまな銀行が発行しているクレジットカードをいかに処理しているかに似ている。WalletsClubは取引ごとに定額手数料を課すことで収益をあげる計画だ。

電子ウォレットに相互運用性を加えることで、決済システムが動いているところであればどこでも互換性を獲得するため、特定の地域でサービスを提供する小規模事業者ですら成長できる。

従来の金融システムに挑む代わりに、WalletsClubは銀行サービスを利用できていない個人が簡単にデジタルウォレットを使ってお金を動かせるようにする手段を提供したいと考えている。この手段は銀行口座を開設するより簡単だ。何百万人という東南アジアの労働者のような、母国に送金する必要がある出稼ぎ労働者の中にそうした送金に対する大きな需要がある。

WalletsClubは潜在的には数社のテリトリーに侵入している。母国に送金する移民労働者は現在、長年にわたって展開されているWestern UnionやMoneyGramといった送金サービスに頼っている。いずれのサービスもユーザーが送金したり金を受け取ったりするのに足を運ぶ「エージェント」の大きなネットワークを持つ。2018年にAlipayは香港のユーザーがフィリピンのGCashアカウントに送金できるようにしたが「Ant Groupのフォーカスは送金というより決済だった」とXue氏は述べた。

世界銀行のデータによると、故郷を離れている労働者からの母国への送金は2019年に、中国を除く低中所得国における最大の海外からの資金調達源となった。送金額は5000億ドル(約54兆4625億円)超となり、そうした低中所得国の海外直接投資の水準を上回った。

モバイルウォレットの手形交換所が脅かすその他の業種としては、事業者がさまざまなデジタル決済手法を統合しなくてもいいようにしているクロスボーダー決済アグリゲーターがある。

初期段階にあるWalletsClubにとって最大の課題は顧客との信頼関係の構築であり、同社は香港、シンガポール、カナダにいる中国人起業家が興した電子マネーサービスと協議中だ。こうした創業者たちがここ10年の中国のフィンテックブームから学んだことのおかげで、中国で開発されたウォレットは特に新興マーケットで数多く展開されている。それらの多くはTencentやAntのような巨大企業と競合するのは難しいとわかっていて、中国のフィンテックをめぐる規制強化はいうまでもない。

「メンバーを20社集め、メンバー間の毎日の決済が数百件あれば、当社は基本的に利益をあげられます」とシュー氏は話し、目標は2021年中に参加企業12社を獲得することだと付け加えた。

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カテゴリー:フィンテック
タグ:WalletsClubデジタルウォレット中国送金

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(文:Rita Liao、翻訳:Nariko Mizoguchi