ますますリスクを背負うスタートアップ市場

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター、The TechCrunch Exchangeへようこそ。

米国東海岸からこんにちは。私はいま、新型コロナウイルスワクチンのブースターショットの副反応を払いのけようとドーナツを食べている。今のところ、Moderna(モデルナ)の3回目の接種の副反応は、2回目ほどひどくはないが、何が起こるかは誰にもわからない。ということで、途中で椅子からすべり落ちて、そのまま昼寝をしてしまうかもしれないので、今日は簡単にしたい。

まずはじめにみなさんに感謝を。このささやかな週刊ニュースレターには、今では3万人以上の購読者がいて、毎週の開封率は40%台半ばから後半に達している。これは、私がTechCrunchに戻ってきたときに始めた大きなプロジェクトの一部だが、平日のExchangeコラムにこのニュースレターを追加したときには、果たしてうまくいくものかどうかはわからなかった。

率直に言って、この週刊ニュースレターが受け入れられるかどうかは一種の賭けのようなものだと思っていたのだ。読者のみなさんのおかげで、賭けは成功し、通常のExchangeコラムは今では週6回発行されている。すばらしい。みなさんに感謝する。

さて、リスクについてだ!

少し前に、スタートアップ市場のリスクが公開市場に流れ込むケースが増えているという話をした。つまり、一般の投資家が、SPACやいくつかの興味深い株式公開のおかげで、以前よりも多く、新生スタートアップの高額な株式を手に入れることができるようになったということだ。

しかし、その中には、スタートアップのリスクが非公開市場の投資家にとっても高まっているという暗黙の了解があった。何が起こっているのかを話そう。

  • スタートアップ企業の評価額は、市場の潤沢な資金、利回りの高い限定的な投資、および関連する諸事情のおかげで上昇している。こうしたことはある程度聞いたことがあると思う。
  • スタートアップ企業の評価額も、より多くの投資家が投資プロセスの早期に投資するようになったことでも上昇している。このことも、これまでに聞いたことがあるだろう。しかし、それがどのように自己強化される問題であるかについては、意識していないかもしれない。大規模なファンドはその規模を後ろ盾にしてこれまでよりも「早い」段階的で投資することができる、実質的に、全体的なリターンプロファイルをリスクにさらすことなく、当該スタートアップの株式を大量に購入するオプション契約を結ぶことになるのだ。これにより後期ステージ資金が早期ステージに投入される一般的傾向が後押しされる。そして、その金額の差によって、後期ステージの投資家たちは早期ステージの評価額をあまり強く気にしないために、評価額が上昇するのだ。もっと簡単にいうと、もしあなたが10億ドル(約1133億円)の投資資金を持っていて、シリーズAに500万ドル(約5億7000万円)を投入する場合、プレマネー評価額が6500万ドル(約74億円)でも7500万ドル(約85億円)でも、それほど気にしないということだ。投資家が本当に気にしているのは、成功したスタートアップが次のラウンドで資金を調達するときに、5000万ドル(56億7000万円)を投資できるかどうかだ。
  • しかし、それだけではない。ベンチャー投資家たちがThe Exchangeに報告してくれたところによると、スタートアップの評価額が上昇しているのは、ハイテク企業の成長率が予想以上に高いだけでなく、成長率が予想以上に持続していることが証明されたからだという。つまり、これまでのスタートアップ企業が、多くの人が予想していたよりも速い成長を遂げて上場し、その拡大ペースを長く維持しているということだ。その結果、テクノロジー企業の将来価値は予想以上に高くなる可能性があるため、投資家はより多くの金額を今支払うことができ、期待していたほどの額の増加がなくても心配しないでいられるということだ。
  • メンローの投資家であるMatt Murphy(マット・マーフィー)氏が最近説明してくれた、評価額上昇に関するもう1つの要因は、昔のベンチャーが感じていたスタートアップの失敗率が今では正しくないということだ。失敗率は以前よりも低く、極めて重要なヒット率も高くなっているという。

上記を全体的に眺めて良く考えるならば、量産されるユニコーンや数十万ドル(数千万円)のラウンドも説明できるのではないだろうか。それは、どこか納得できる視点でもある。結局のところ、こうしたスマートマネーが賭けているのは、より速く、より持続的な成長と、より少ない失敗(本質的にSaaSは殺すのが難しい)が、より高いコストとバランスを取って、ベンチャー数学を満たすために必要なリターンを生み出すことだ。

しかし、しかーーしだ、新型コロナパンデミックによる初期のショックが収まった後に始まったソフトウェア企業買収ブーム以降、スタートアップ市場のファンダメンタルズはあまり改善されていないために、ますますリスクは高まっている。つまり。2021年、ベンチャー投資家が支援しているスタートアップたちは、2020年半ば以降、マクロ的な運勢はあまり良くなっていないのにもかかわらず、より多くの資金を、より早く調達することに躍起になっている。その分、投資リスクが高まっているのだ。

現在、市場には900社以上のユニコーンが存在しているが、これらのユニコーンはすべて、投資家が期待するリターンを得るために、IPOを必要としている。もし市場が最終的に少し修正されて、少しだけ歴史的な整合性が取られたとすれば、かなりの数の高額な非公開企業が、非公開市場での評価と公開市場での価格の間で行き詰まってしまう可能性がある。非常に厄介なことになる可能性があるだろう。皆はただ、そうでないことに賭けているだけだ。

つまり、スタートアップの価格の上昇に対する合理的な理由があるにもかかわらず、スタートアップがより多くの資本を、より早く調達するようになると、それは限界リスクゼロの賭けではなくなるということだ。

今日はここまで。残り物を食べて、オフラインになるとしよう。

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文: Alex Wilhelm、翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。