アルテミス有人月飛行計画にはもっと多くのスタートアップを呼び込みたいとNASA長官が呼びかけ

世界の宇宙産業、宇宙機関、研究者が一堂に集まり宇宙技術と宇宙ビジネスについて話し合う国際宇宙会議が今週開かれたが、私はNASAのJim Bridenstine(ジム・ブライデンスティン)長官に、NASAが意欲的に推進するアルテミス計画におけるスタートアップの役割をどう考えるかを尋ねた。アルテミス(ギリシャ神話に登場するアポロの双子の姉妹から命名した)計画とは、月に再び人類を送り(今回は滞在も予定している)、そこを拠点に火星などのさらに遠くの宇宙探査につなげようというものだ。

ブライデンスティン長官は、報道向けの質疑応答で、この質問に見事に答えてくれた。それによると、この計画では、大小さまざまなスタートアップによる貢献が非常に期待されており、若い宇宙企業が大きなインパクトを与える形で貢献できる分野が数多くあるという。

「企業には、大企業もあれば中小企業もありますが、知っておいて欲しいのは、この(ルナ)ゲートウェイで私たちが構築しているものはオープンアーキテクチャーであり、民間のパートナーと進めてゆきたいと考えていることです」とブライデンスティン長官。「そのため実際に、この国際宇宙会議には数多くの企業が参加しています。月に行くと公言している大企業です。彼らは持続性を求めており、アルテミス計画に加わりたいと考えています。ゲートウェイは、そんな企業に開放されています」。

NASAルナ・ゲートウェイの想像図。オライオン・カプセルがドックに接近しているところ

ルナ・ゲートウェイは、NASAが月の周回軌道に載せて、宇宙船の拠点にしようと計画している宇宙ステーションだ。物資をいったん月の軌道に集めておくことで、月面に下ろす作業を確実に、簡単にする重要なステップとなる。だがブライデンスティン長官は、NASAがアルテミス計画のために最初に提示した公募告示(BAA)では、ゲートウェイを利用せず、直接、月面に降りる民間企業の提案も歓迎していると指摘していた。

これまで月探査は、SpaceX(スペースエックス)のような潤沢な資金力と強固な基盤を持つニュースペース企業と呼ばれる一部の革新的企業が受け継いでいた。しかし、アルテミス計画が求める企業の役割は、地球から月の軌道まで移動できる宇宙船の建造のような膨大な資金を要する仕事に限らないとブライデンスティン長官は言う。

「月面に物資を届けておく必要があります」と彼は話す。アルテミス計画では2024年に人を月面着陸させる予定だが、そこで使用されるスペース・ローンチ・システム(SLS)とオライオン有人カプセルがミッションを確実に達成できるように、前もって物資を送り込んでおく必要があるという。「ゲートウェイで着陸船を準備する際にも、おそらくバイパー中性子分光計や赤外線分光計など、地表や氷や、月面上に何がどこに、どれくらいの量で存在するかを調査するためのハードウェアを月面に設置する際にも【中略】そうした科学機材を月に送り届けなければいけません」。

ブルー・オリジンのブルー・ムーン着陸船

実際、NASAが予定している2024年の月面有人着陸に先駆け、または同時期に月着陸船で物資を運び込む準備を進めている企業がある。Peregrine(ペレグリン)月着陸船を2021年に打ち上げる予定のAstrobotic(アストロボティック)と、Blue Moon(ブルー・ムーン)着陸船のBlue Origin(ブルー・オリジン)だ。どちらの着陸船も、そしてその着陸船が運ぶ物資も、月での人類の持続可能な活動を円滑化するために、スタートアップが開発した機材やシステムを利用する可能性がある。事実、ブライデンスティン長官は、計画中の機材の中には、高度なデータ収集ハードウェアよりもずっとワイルドなものがあると話していた。

「たぶん、これも予算によりますが、また今から2024年の間に実現できるとは確約できませんが、月面に空気で膨らむ住居を建て、そこを月面に降り立った宇宙飛行士たちの拠点とし、長期間の滞在を可能にするといったことも考えられます」と彼は言う。「実現可能な範囲なのかって?もちろんです」。

さらにブライデンスティン長官は、NASAがすでに数多くの小規模ながら革新的な企業と協力していること、そしてさらに多くのパートナーを探し続けたい旨を話していた。NASAから発注される月への物資輸送の需要は確実なものであり、発展性があり量も増えていくと長官は指摘していた。

「SLSとオライオンに加えて、さらなる可能性を私たちは必要としています。そこでは、あらゆる種類の民間事業者にチャンスがあります」と彼は言う。「また私たちは、NASAが関わるスモールビジネスへの投資や調査も行っており、常にスモールビジネスを支援しています。事実、私たちは商業月運搬サービス(CLPS)プログラムを進めています。契約した企業は現在9社。【中略】そのうち2社は、2021年に月に物資を輸送するという依頼に取り組んでいます。【中略】この9社に留まらず、さらなる企業を引き込みたいと考えています。もっと大規模な月着陸の可能性を提供してくれる大きな企業の参加も期待しています。なぜなら前にも述べましたが、月面への物資輸送の需要は今後さらに高まるからです」

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(翻訳:金井哲夫)