クラウドインフラプロバイダーのDigitalOceanが負債で約110億円を調達

中小による企業や若い企業を対象とするクラウドインフラプロバイダーであるDigitalOcean(デジタルオーシャン)は2月20日、投資家グループから1億ドル(約110億円)の新規資金を負債で確保したと発表した。2016年にも負債で2億ドル(約220億円)を調達しており、負債による調達累計額は約3億ドル(約330億円)になった。なお、2015年にはシリーズBで8300万ドル(約91億円)を調達した。

TechCrunchはDigitalOceanのCEOであるYancey Spruill(ヤンシー・スプルール)氏に、今回の資金調達、売上成長計画、同社の財務健全性、将来のIPO計画について聞いた。同氏は2019年、IPO経験のある新CFOと共に入社した。同社は今年初めに新しいCMOも採用した。

新しい資金は、提携への投資、製品投資の加速、CEOがいう「アーリーステージにおけるインサイドセールスの能力」を成長させるために使う予定だ。

1億ドルARR(Annual Recurring Revenue、年間経常売上高が約110億円)クラブシリーズの読者は、この投稿を姉妹版と考えてほしい。DigitalOceanは後日加える予定だ。この投稿では、DigitalOceanの勢いと、株式ではなく負債で資金調達した選択に焦点を当てる。

成長の軌跡

DigitalOceanは売上高の大きい未公開企業であり、2018年の年換算売上高は2億ドル(約220億円)だった。2019年は2億5000万ドル(約280億円)を見込む。スプルール氏によると、同社の売上高はすべて経常的であるためARRに含めることができるという。

金融分野にこだわるDigitalOceanはTechCrunchに対し、同社の成長率は20%台半ばであると明らかにした。同社はEBITDAマージンが2000万ドル台前半(約22〜28億円)であるとも主張している。スプルール氏はTechCrunchに対し、同社は「今後数年間で中小企業と開発者コミュニティに特に注力し続ける戦略」であり、「DigitalOceanは今後5年間で売上高が10億ドル(約1100億円)に拡大し、フリーキャッシュフローも黒字になる」と語った。

同社は2020年前半には年換算で3億ドル(約330億円)の売上高を見込む。2016年に負債で約2億ドル(約220億円)を調達して以来、資金調達なしでどうやって成長を実現してきたのか。いい質問だ。まずDigitalOceanの収益性について検討する。

収益性

DigitalOceanの市場開拓の動きは非常に効率的だ。人的な観点から言えば、比較的低コストで新規顧客を引き付けていることを意味する。同氏は、毎月数百万人(同氏によると約400万人)をウェブサイトに誘導することでこれを実現していると説明する。それが何万もの新しい顧客に変わる。

DigitalOceanはセルフサービスのSaaSビジネスのため、対面営業がなくても顧客がやってきて利用し始めてくれる。対面の販売サイクルは遅いしコストがかかる。ただ、中小企業が自分でサインアップできる点は魅力的に聞こえるが、この顧客獲得方法に頼る企業は解約に悩まされる。そこで筆者はスプルール氏に顧客の解約について、つまり中小企業の時にDigitalOceanに加入したものの成長とともにAzureやAWSなどの同業他社に移っていくペースについて掘り下げて聞いた(読みやすさのために若干要約した)。

この手のアーリーステージの中小企業を狙ったセルフサービスのビジネスと同様、顧客にとって最初の3〜4カ月が非常に重要だ。だが、当社の顧客基盤、すなわち過去8年のカテゴリー別の顧客データを見ると、どのカテゴリーも毎年成長している。質問された解約率について答えると、顧客が当社のプラットフォームを離れるのは少なくとも1年以上使用した後だ。

つまり、DigitalOceanでは解約は大惨事にはなっていないようだ。これが同社の収益性を非常に魅力的なものにしている。比較的低いコストで顧客を獲得し、最初の四半期を過ぎたあたりでの解約による取りこぼしがとても少ないため、かなりの期間にわたって顧客から粗利益を引き出すことができる。同社はその現金を何に使っているのか。再投資だ。スプルール氏はそのプロセスを次のように説明した。

高い顧客定着率と力強い売上成長がもたらすキャッシュフローが、事業の成長、投資、また負債の支払いや存在そのものを支える。希薄化や、当社の規模と成長率を持つ事業について考えるとき、およそ4億ドル(約440億円)の調達資金というのはおそらく妥当な代理変数だ。発展の規模と段階が同じ会社や同業他社の大部分は株式で資金調達している。当社の場合、調達資金のたった4分の1、または4分の1を少し上回る程度を株式で調達している。事業にキャッシュフローレバレッジを効かせ、大幅な希薄化を避け、株主資本に莫大な利益をもたらす。しかもなお責任を持ってエキサイティングな方法で事業を成長させることができる。

後ろから聴こえてくる合唱隊の声は、アーリーステージで参加した投資家らだ。DigitalOceanが成長のためにこれ以上株式を発行せず、価値の上昇分を彼らが大量に保有する既存の株式に集中させていることを喜んでいるのだ。

ここで簡単に要約したい。DigitalOceanは、セルフサービスによって収益を生み出すことで顧客獲得コストを低く抑え、収益性の点で良好な競争優位に保ち、中小企業と開発者に特化したクラウドインフラの構築に取り組んでいる。稼いだ利益によって開発投資を賄う。全体として収益性が十分に高いため、投資を株式ではなく負債によって調達することが可能だ。今朝聞こうと思っていた内容ではないが、面白い部分だと思う。

将来の見通しはどうか。おそらく直ちにIPOには向かわない。同社は負債で多額の資金調達をしたばかりで、その資金はおそらくIPOデビュー前に使う意図があるはずだ。CEOはTechCrunchに「DigitalOceanのIPOの選択肢は引き続き検討中だ」と語り、続けて「同社の成長や成長率、営業利益率、まもなく黒字になるフリーキャッシュフロー、会社規模があれば『これは公開の可能性のある会社だ』という話もでてくるだろう」と述べた。

次回、DigitalOceanを1億ドル(約110億円)ARRクラブに追加したら、最終的なS-1提出までのいくつかの売上高のマイルストーンがどんなものになるか筆者は想像してしまう。

画像クレジット:Diane Keough / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

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