【編集部注】執筆者のAlex WilhelmはCrunchbase Newsの編集長で、VCに関するTechCrunchのポッドキャストEquityの共同司会者でもある。Crunchbase NewsのTwitterとFacebookをフォローして最新情報を入手しよう。
先週金曜日、Rokuは財務情報や事業戦略の詳細が記載されたフォームS-1(上場申請書)を提出した。
同書類によれば、彼らはIPOで1億ドル調達しようとしているようだ。しかしこの数字が仮の値であることは周知の事実で、実際の調達額はそれ以上にも以下にもなり得る。
なお、これまでにRokuは2億ドル以上を調達してきた。
株価指数が過去最高に近い値を記録し、動画がメディア界の中心的存在となり、IPOで良い結果を残すテック株が出る(苦しんでいる企業もいるが)中、10億ドル前後の評価額での上場が噂されているRokuが市場に飛び込もうとしている。
そこで、Rokuのビジネスモデルや収益、そしてそれらの情報をどう解釈すればいいのかについて考えてみたいと思う。
Rokuのビジネスモデル
Rokuはテレビ用ストリーミング端末の販売に加え、ストリーミングサービスを手がける企業と手を組み、彼らのコンテンツを消費者のもとに届けるサービスを提供している。さらに広告ビジネスもRokuの収益源のひとつだ。ストリーミング端末以外の売上のことを、同社は「プラットフォーム収益(plartform revenue)」と呼んでいる。
フォームS-1の中には、それぞれの収益源が以下のように説明されている。
プレイヤー収益(player revenue)はストリーミング端末の販売によるもので、プラットフォーム収益(platform revenue)は広告収益と動画サービス各社とのレベニューシェアから構成されている。プラットフォーム収益は、ユーザーがRokuのプラットフォーム上でコンテンツを消費することで発生する。今後もストリーミングプラットフォームの収益化を推し進め、プラットフォーム収益の拡大を目指す。
Rokuの売上全体に占めるプラットフォーム収益の割合は年々増えてきている。具体的な売上構成比の推移については以下のグラフ(Jackdaw ResearchのJan Dawson作成)を確認してほしい。
後述の通り、プレイヤー事業とプラットフォーム事業の利益率には大きな差があるため、売上高構成比の変化は重要なポイントだ。
プラットフォーム収益の割合増加は、最近Rokuがハードウェアの直接販売よりも(Rokuのソフトを搭載したテレビを製造する)ハードウェア企業とのパートナーシップを通じてユーザー数を伸ばしていることと関係しているようだ。つまり、Rokuは利益率の悪いハードウェア販売に力を入れずとも、新たなアクティブユーザーを獲得できるということだ。
ここまでの情報をまとめると、Rokuはストリーミング端末を販売してプレイヤー収益をあげ、Roku搭載テレビを普及させるためにテレビメーカーとパートナーシップを結び、広告とストリーミング企業とのレベニューシェアからプラットフォーム収益をあげている。
かなりわかりやすい構造だ。それでは、事業の規模はどのくらいなのか?
Rokuの収益損失額について
本題に入る前に、まずは全体の数字を確認してみよう。
フォームS-1からとった下の表には、2015・2016会計年度の業績、2016年前期(暦年)と比較した2017年前期の結果が記載されている。なお各数字の単位は1000ドルのため、「119,116ドル」は実際には「119,116,000ドル」であることをお忘れなく。
これまでのところ、2017年は売上額が増え純損失額が減少しつつある。2016年は2015年に比べて売上が増加したものの、損失額もわずかに増えてしまった。
2017年前期の売上額は前年比で23%伸びている。これには先述の収益源の変化が一部関係しているため、23%という数字は額面よりも大きな意味を持っている。
売上構成比の変化
売上構成比が変化したため、収益の移り変わりの確認には少し工夫が必要だ。まずプレイヤー収益の四半期別推移は下降傾向にあり、例えば2017年第2四半期の売上は第1四半期よりも少ない。さらに2017年第2四半期のプレイヤー収益は前年比でも下がっている。
つまり同社のハードウェア事業は全体として下降傾向にあると言える。その一方で、プラットフォーム収益は継続的に増えており、四半期ごと(暦年)の推移は以下の通りだ。
グラフが示す通り、2016年第4四半期から2017年第1四半期の微減を除けば、Rokuのプラットフォーム収益は順調に増加している。そもそも広告を販売している企業の収益の一部は、休暇が集中する第4四半期が終了した後に減少する傾向にある。それを考慮すると、Rokuの売上減少幅はむしろ小さく、2017年第2四半期には減少分を既にカバーできている。
投資家がこれをどう見るかはIPOの結果を待つしかないが、同社のプラットフォーム収益が前年比で約100%増という劇的な伸びを見せていることには変わりない。
全体を見てみると、2017年第2四半期の売上は9962万ドルで、第1四半期の1億9万ドル、2016年第4四半期の1億4734万ドルを下回っている。このように前四半期との比較では売上が減少傾向にあるものの、前年同期比だと直近の4四半期の売上額は全て増加している。
もしも投資家がプラットフォーム収益の伸びをもとにRokuの未来を信じられれば、前四半期と比べての売上減というのはそこまで問題にならないかもしれない。
それでは、なぜ投資家がプレイヤー収益よりもプラットフォーム収益を重視する可能性があるかというと、Rokuの利益の大部分がプラットフォーム事業によるものだからだ。Jackdaw ResearchのJan Dawsonが作成した別のグラフを見てみると、どれだけプラットフォーム事業の利益率が高いかがよくわかる。
これはかなりの差だ。ではここから何が言えるだろうか?
Rokuの財務情報を読み解く
Rokuはハードウェア事業からの脱却を図ろうとしている可能性が高い。利益率の低さを考えると、少なくともハードウェア事業を引き続きメインの収益源とするつもりはないだろう。これは自社でコンテンツを制作していないOTT(オーバー・ザ・トップ:ネットを通じたコンテンツ配信サービス)企業の目指す姿としては納得がいく。
熾烈な競争が続くコンテンツビジネスの状況を考えると、このような方向転換の可能性もゼロではなかった。Facebokがオリジナル動画に力を入れ始め、コンテンツに大金をつぎ込むNetflixにAmazonが対抗し、Appleも攻勢を強め、Microsoftは一旦手をつけた動画事業を取りやめた。
もしかしたら、競争が激しいからこそRokuのビジネスは上手くいっているのかもしれない。彼らは消費者へと繋がる流通チャンネルを持っており、コンテンツ企業はまさにそのチャンネルを求めている。両者の相互作用もあって、RokuのARPU(ユーザー1人あたりの平均売上額)は以下のような動きを見せているのではないだろうか。
ユーザー数を急増させた実績を持つRokuにとってこれは良い兆候だ。利益率の良いビジネスを短期間に成長させるということには大きな価値がある。
しかしRokuの評価額について確かなことは言えない。ある事業の売上は下降傾向にあり、赤字続きながらも大きな可能性を秘めた同社に、どんな評価額がつくのか楽しみだ。
詳細についてはフォームS-1を確認してもらい、何か面白いことに気づいたら連絡してほしい。
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(翻訳:Atsushi Yukutake)