スマートマグの先を見据えるEmberが元ダイソンのトップをコンシューマー部門CEOに指名

温度制御スマートマグのEmberは米国時間2月12日、創業者のClay Alexander(クレイ・アレクサンダー)氏が2月16日付でグループCEOに異動することを発表した。同氏の後任には、ロサンゼルスを拠点とするスマートマグカップメーカーの同社は、コンシューマー部門CEOとしてJim Rowan(ジム・ローワン)氏を迎える。ローワン氏はDyson(ダイソン)のCOOを5年間務めた後、2017年から2020年までCEOを務めていた。

これは、Emberのような比較的小規模な企業にとっては大きなゲットだ。2012年に設立されたこのハードウェアスタートアップは、直近では2019年初頭に2000万ドル(約21億円)のシリーズDを調達し、資金調達総額は5000万ドル(約52億5000万円)弱となった。

アレクサンダー氏の同社における継続的な役割は、Emberのコンシューマー部門を超えた追加カテゴリを示している。「私はEmberを設立したとき、当社の温度制御技術には無限のアプリケーションがあると知っていました。ジム(・ローワン)が我々のチームに加わったことで、新興のヘルスケア分野に集中し、当社の技術を利用して生活の改善や救命にまで貢献できるようになります」と同氏は声明でこう述べている。

気の利いたテクノロジーとスマートなデザインのおかげで、同社はかなりニッチな製品にも関わらずそれなりの規模のフットプリントを構築し、Target(ターゲット)、Costco(コストコ)、 Best Buy(ベストバイ)、Starbucks(スターバックス)などでの小売販売を拡大している。同社はおよそ100人のスタッフという少ない社員数を維持しながら、これを実現してきた。

ローワン氏はTechCrunchの取材に対し、こう語っている。「彼らには精密な温度制御を軸にして、優れたIP、優れたデザイン、そして優れたイノベーションがあります。もちろん温度制御マグやフラスコから始まったわけですが、そのIPは他の多くのアプリケーションにも応用できます。私にとっては、無数の異なる産業や市場でそれを使用できるという黄金の糸は、本当に、本当にエキサイティングなことです。その1つがコールドチェーンですが、パンデミックが始まって以来、その重要性はさらに高まりました。これは、新市場での破壊と革新をどうやって実現できるかを示していると言えるでしょう」。

ローワン氏は、BlackBerryのCOOやFlextronicsの上級幹部を務めた経験もある。Dysonを退職した後は、PCH InternationalとKKRの両者にアドバイザーとして参画していた。しかし、Emberで彼が何をしようとしているのかを最も直接的に例示しているのはDysonだろう。Dysonは空気を動かす会社だ。それは掃除機、扇風機、ドライヤー、その他無数の製品カテゴリーに当てはまる。

根本的な疑問は、Ember独自の加熱・冷却技術を他の分野でどのように応用できるかということだ。産業レベルでは、食品や医薬品を国際的なコールドチェーンで出荷している間、所定の温度に保つのに役立つ可能性があることを意味する。また、同じ基礎技術をベースにして作られた消費者向け製品が増えることも意味する。

「現在のマグカップやトラベルマグ以外にも、もっとたくさんの製品がこれから出てきます」とローワン氏はいう。「消費者向けのパイプラインには多くの新製品があり、2022年または数年のうちに発売される予定です。さらに、既存の製品で新しい地域への展開も考えています」とも。

これは主にアジア地域(ローワン氏はシンガポールにとどまる予定)とヨーロッパを意味している。これまでのところ、Emberのフットプリントは米国中心だったが、パンデミックの中でのeコマースへのプッシュは、それをある程度拡大するのに役立っている。しかし、130ドル(約13640円)の電気スマートマグを生活に取り入れる人口の上限がどれだけ高いのかという疑問が残っている。Emberはまだ実際の数字をリリースしていないし、Dysonでの経験があるローワン氏は、プレミアム価格の製品をプレミアム価格で販売することには慣れ親しんでいるが、低価格ポイントまたは格下の製品にコミットする準備はできていないと思われる。

もちろん、保温マグカテゴリーの低価格モデルは近所の99セントストア(100円ショップ)ですでに購入できるし、Emberがそのスペースで競合しようとウズウズしているわけではないのは明らかだ。同様に、Emberの現在のラインアップとは異なり、それらの廉価製品はApple Storeには置かれないだろう。その代わり、同社はプレミアム消費者ブランドとして、より急速なペースで他のカテゴリーへの進出を続けることになりそうだ。ローワン氏は、「実際の技術は、温度制御技術により、飲料だけでなく、多くの新しい分野に拡大することができます」と述べている。

カテゴリー:ハードウェア
タグ:Emberスマート家電人事

画像クレジット:Ember

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(文:Brian Heater、翻訳:Aya Nakazato)

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TechCrunch Japan

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