千葉工業大学は2月14日、エジプト考古学博物館においてツタンカーメン(紀元前1361年~1352年)の鉄剣の非破壊・非接触化学分析を行ったことを発表した。その結果、鉄剣の原料は隕石であり、低温鋳造で作られ、エジプト国外からもたらされたことが判明した。
千葉工業大学学長であり、千葉工業大学地球学研究センターおよび惑星探査研究センター所長の松井孝典氏率いる研究チームは、エジプト考古学博物館において、ポータブル蛍光X線分析装置を用いた鉄剣の元素分布分析を行ったところ、その製造法と起源が明らかになった。
鉄剣には10〜12%のニッケルが含まれており、その二次元元素分析から鉄剣の表面にはウィドマンシュテッテン構造が認められた。これは、鉄とニッケルを含むオクタヘドライト型隕石にみられる特有の構造のこと。さらに、黒い斑点として見られる部分は、これもオクタヘドライト型隕石に含まれる硫化鉄だと認められることから、原料は隕石由来と考えられた。また、ウィドマンシュテッテン構造と硫化鉄包有物が残されていることから、950度以下の低温で製造されたこともわかった。
この剣が作られた紀元前14世紀ごろは、現在のトルコ周辺を支配していたヒッタイト帝国(紀元前1200~1400年)が鉄の製造技術を独占していた。当時のエジプトには製鉄技術はなく、鉄隕石を加工していたと考えられる。また、古文書によると、ヒッタイト帝国の隣国であるミタンニ王国からツタンカーメンの祖父であるアメンホテップ三世に鉄剣が送られたと記されていることから、この剣はミタンニ王国から持ち込まれたものと推測できる。
もう1つ、金の柄からは少量のカルシウムが検出されており、これは装飾物の接着に使われた漆喰の成分だと考えられるという。ただ漆喰は、エジプトではツタンカーメン王の時代から1000年以上後にならないと使われていない。それらを総合すると、この鉄剣は、アメンホテップ三世への贈答品としてミタンニ王国から持ち込まれたものと考えられるということだ。