最近は音楽レーベルやパブリッシャーにとってまったく新しい活動の場が広がっている。米国時間8月14日、大手企業の1社が買収を実施し、人々がオンラインで見たり聞いたりしたいことをよりよく理解するための戦略を強化した。
時価総額154億ドル(約1兆6415億円)のワーナーミュージックは、ユニバーサルやソニーと並ぶ3大レーベルの1つであり、AtlanticやElektraなどのレーベルを所有し、マドンナ、エド・シーラン、リンキン・パークなどをはじめとする多くのアーティストを擁している。同社は、テルアビブとニューヨークを拠点としするスタートアップのIMGN Mediaを買収したのだ。IMGN Mediaは、スポーツ、ゲーム、ASMR、エンターテイメントなどのカテゴリーでバイラルなソーシャルメディアコンテンツを構築・運営している。
IMGNはかつてComedy.comと呼ばれていた。同社の2017年ごろのサイトは月に約30億回のビューがあり、コンテンツへの加入者は約4000万人で、そのうちの約85%がZ世代とミレニアル世代だった。
今回の買収のニュースは、IMGNについての数週間にわたる憶測を締めくくるものとなる。7月にはイスラエルのメディアが「SnapがIMGNを約1億8000万ドル(約191億円)で買収する」と報じた(The Marker記事)。さらに情報筋によるとTikTokも興味を示していて買収価格は1億5000万ドル(約160億円)前後だったという。買収の条件は最終的には明らかにされなかったが、買収金額は1億ドル(約106億円)弱と聞いている。
IMGNは2015年に設立され、Rhodium、Dot Capital、Prism Venture Managementなど、多くのエンジェルや企業から約600万ドル(約6億4000万円)を調達していた。
買収後の計画では、IMGNはワーナーミュージックから独立運営され、創業者のBarak Shragai(バラク・シュラガイ)氏が引き続きチームを率いて、さまざまなプラットフォームでバイラルコンテンツの開発と分析を続けていくという。
一方ワーナーミュージックは、単に同社のアーティストをマーケティングするためにこのプラットフォームを利用するのではなく、人々が最近オンラインでどこに行き、何を見たいのか、より多くの洞察を得るためにこのプラットフォームを利用する。そして、そのデータを自社のマーケティング活動に生かし、より効果的にユーザーをターゲティングできるようにする意向だ。
とはいえ、2社のサービスがまったく連携しないというわけではない。ワーナーミュージックがこのスタートアップを知ったのは、同社がIMGNの顧客だったからだ。
ワーナーミュージックには、これまでも戦略的利益に応じてスタートアップへの投資と買収の両方の歴史がある。例えば、7月にはカナダのオーディオマスタリングスタートアップであるLandrのシリーズBラウンドに参加(betakit記事)している。さらに、音楽コンサートのリスティングプラットフォームのSongkick(未訳記事)やポップカルチャーサイトのUproxx(未訳記事)などを買収している。
IMGNは、新しいオーナーのもとでほかのサードパーティブランドとの連携を継続していく。これまでの顧客には、エレクトロニック・アーツ、バーガーキング、マイクロソフトなどが名を連ねている。マイクロソフトとの取引は、同社のライブゲームストリーミングプラットフォーム「Mixer」によるものだった。MixerはTwitchと競合するサービスだったが今年6月に閉鎖(未訳記事)された。このことは、市場状況や視聴者の変化がどれほど不安定かについて多くを物語っている。
消費者の嗜好だけでなく、企業のビジネス戦略は常に変化している。マイクロソフトがMixerを終了させたことはIMGN自体がいかにしてすぐに顧客を失うかを浮き彫りにしたが、今回のワーナーミュージックによる買収で経営基盤が安定することを示している。ちなみにワーナーミュージックは、現在は上場している(Yahoo! Financeデータ)がいまだにLen Blavatnik(レン・ブラヴァトニク)氏が支配する持ち株会社のAccess Industriesが過半数を所有している。Mixerがさまざまなプラットフォームのコンテンツを追跡・構築しているという事実は、単にプラットフォーム自体または独自研究のデータに依存するのではなく、より大きな全体像を俯瞰する視点を与えてくれる。
「ワーナーミュージックは、より大きな投資とサポートを提供してくれるだけでなく、アカウントを運営するスタッフが編集から独立しており、事業を成長させ続けるための起業環境を提供してくれます。私たちは会社を将来に向けて前進させるために、彼らとパートナーを組むことに興奮しています」とシュラガイ氏はコメントしている。
消費者がラジオやテレビで新しいアーティストや曲を知る、あるいは雑誌で自分の好きなミュージシャンやジャンルについて読むといった従来のアナログ的な物理メディアの出版・販売の世界をはるかに超えて、音楽業界は進化しているということだ。
モバイルやデジタルプラットフォームへの移行に伴い、人々が音楽を発見したり聴いたりする場所は、いまでははるかに広く急速に変化している。
そしてデジタルプラットフォーム自体も、Spotifyのような音楽に特化(未訳記事)したものから、Facebookのような利用者を獲得し続けるために音楽を1つのサービスとして提供(未訳記事)しているもの、巨大な音楽配信サービスともいえるTikTok(未訳記事)のようなものまでさまざまだ。人々の嗜好がどのように進化しているのか、どこで音楽を手に入れようとしているのかを追跡することに深く関わっている。
従って、音楽レーベルがこうした洞察にもっと直接的にアクセスする方法を探しているのは自然なことだ。
画像クレジット:IMGN
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(翻訳:TechCrunch Japan)