「私の人生で起きた良いことのほとんどがそうだったように」とコメディアンであるConan O’Brien(コナン・オブライエン)氏が苦笑しながら説明する。「ポッドキャストの成功はまったくもって驚きだった」。同氏の答えはいつもの控えめなものだった。2年ほど前にポッドキャスト「Conan O’Brien Needs a Friend」(コナン・オブライエには友達が必要)を始めて以来、ポッドキャストチャートで急速に順位を上げ、米国で最も人気のある番組の1つになった。
同氏の30年におよぶエンターテインメントのキャリアを見つめてきた人ならその理由は簡単にわかる。機知に富み、ほとんど超人的に愛想が良いため、ポッドキャスティングへの移行は振り返ってみれば当然の帰結だったように思える。結局、何十年にもわたって次々に深夜の全米ネットワークのトークショーを主催していたのだから、新しいエンターテインメントベンチャーを立ち上げるとはいえ、まったく最初から始めたというわけではないのだ。さらに言えば、何千万ものTwitterのフォロワーと独自のオンラインメディア会社であるTeam Coco(チームココ)の存在もある。
物事が万事順調に運んだというわけではない。長期間の放送が約束されていたTonight Show(トゥナイトショー)の番組枠はすべてがオブライエン氏の望むどおりには運ばず、期待の高かった深夜番組から8カ月足らずで大々的に離れることになった。同氏が出演したシリーズの中では最も短い期間となった。テレビ放映されたSteve Carrell(スティーブ・カレル)氏との「撤退」インタビューでは、The Office(ザ・オフィス)のスターであるオブライエン氏が自身のNBCバッジを細断した。しかしオブライエン氏の深夜番組の中断は短命に終わった。その年の後半、同氏は米TBSの番組「Conan」で復帰した。同番組は11月の放送で10年目を迎える(少なくとも2022年まで更新予定)。
2018年の「Conan O’Brien Needs a Friend」の開始とともに同氏はポッドキャスティングに新たな自由を発見した。
「ポッドキャストはトークショーより優れていること、楽しいことがある」と外出禁止期間中に髪が伸びたオブライエン氏は、今週のTechCrunch Disruptのインタビューで語った。「伝統的なトークショーには制約がある。何年もの間、全米ネットワークテレビに出演していた頃は6~7分ごとのパターンを守る必要があった。私があなたと、または私が話したいと夢見ていた誰かと話しているとする。トム・ハンクスかもしれないし、ジム・キャリーかもしれないし、ロビン・ウィリアムスかもしれない。6〜7分ごとに笑いを挟んで、休憩を入れて、また戻るということを繰り返す」。
「そういうのは自然な会話の流れとは言えない」と同氏は続けた。「ポッドキャストでできることは本当に素晴らしい。1時間と15分をかけて誰かと話すことができる。編集で短くしようとするが、ほとんどの場合人々は気を緩める。もう1つ好きな点はヘアセットと化粧が要らないことだ。冗談のように聞こえると思う。しかし、いろんな人が私の真っ白な顔をほぼ30年化粧で固めてきた後に改めて眺めると、私はまだ生きているみたいに見える」。
「Team Coco」は合計10のショーを制作した。長年の相棒であるAndy Richter(アンディ・リヒター)氏と俳優のRob Lowe(ロブ・ロウ)氏によるショー、作家のMike Sweeney(マイク・スウィーニー)氏とJessie Gaskel(ジェシー・ガスケル)氏とのショーで親しみを込めたタイトルの「Inside Conan(インサイドコナン)」、Saturday Night Live(サタデーナイトライブ)出身のDana Carvey(ダナ・カーベイ)氏との6部構成のインタビューのミニシリーズなどだ。
「数字の目標は設定したくない」とオブライエン氏は言う。「私は驚いている。2年間で、10種類のポッドキャストを公開した。そのうちのいくつかはスクリプト化されていないが、されたものもある。『いつまでに35作のポッドキャストを制作しなければならない』とは言いたくない。良いものを作りたいからだ」。
同氏はトークショーの方も独自の変革を遂げるべく力を注いできた。
2019年に番組は30分形式に再編成された。オブライエン氏は机とスーツを捨て、より自由な形式を採用した。ポッドキャスティングベンチャーだからこそ可能な新しい自由に影響を受けた部分がある。新型コロナにより対面のショーが不可能になったとき、同氏は他の多くの人と同じように自宅から働き始め、リモートのZoomインタビューに切り替えた。これまで「Conan O’Brien Needs a Friend」は毎週インタビューを投稿し続けている。
契約が数年後に終了した後、深夜のショーを続けるつもりかどうか尋ねられたが、オブライエンは決めかねているようだった。
「それについて考えるのは間違いだと思う。ショーをやめ、ポッドキャストだけにするのか。それとも引退して小屋で静かに手紙を書き続けるのか。何かを創り出すのが好きなんだ。エネルギーにあふれている。私は人を笑わせるのが大好きだ。今起こっていることが収束していくことはわかっている。TechCrunch Disruptを今見ている全ての人へのメッセージは、皆が少し心を開く必要があるということだと思う。ポッドキャストを作っているからといって、他のことをしてはいけないということでは多分ない。これはモノづくりが好きな人だけでなく、誰にも言えると思う」。
数十年にわたる成功のおかげで、オブライエン氏はプラットフォームにとらわれないという比較的ユニークな立場にいるようだ。予想外の技術的変化によりエンターテインメント業界がひっくり返るような変革が起きている今、単一の媒体に縛られないことは強みになる。
「今から5年後、私たちの娯楽は錠剤になるかもしれない」と同氏は言う。「The Sopranos(邦題:ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア)を大量に飲む。The Sopranosをボトル1本分と大量の水を飲めば、赤身の肉は必要ない」v
「こじつけに聞こえると思うが、これまでのキャリアの中で今が最も刺激的だと言えるのは、クリエイティブになる方法が非常に多かったからだ。人々を笑わせる方法はたくさんあり、私は新しいチャンスを楽しんでいる。あなたが私と同じくらい生きてきた人なら選択肢があると思う。変化を恐れることもできるし喜ぶこともできる」。
画像クレジット:Team Coco
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(翻訳:Mizoguchi)