医療テックのRoは遠隔および自宅初期診療プラットフォームの拡大に544億円を調達

医療テックスタートアップRo(ロー)は、遠隔医療と自宅初期診療を提供する同社のハイブリッド型医療プラットフォームをさらに拡大するために、5億ドル(約544億円)を調達した。計画には、薬局事業も含まれている。同社は、薬の配達の最適化と患者の医療負担削減のための垂直統合戦略を追究している。今回の投資はシリーズDラウンドだ。これにより2017年の創設以来の調達額は8億7600万ドル(約870億円)を超えた。

かなりの金額に感じられるが、Roの共同創設者でCEOのZachariah Reitano(ザッカリア・レイタノ)氏が私に話したところによれば、医療業界ではほんの「はした金」だそうだ。最初に企業を立ち上げたのは、そのためでもある。

「テック企業が医療業界の土俵に上がることが、どれほどすごいことかと語る人がいます」とレイタノ氏は話す。「医療は4兆ドル(約435兆円)市場だ、大変な規模だよと言われます。しかし、そこは世界でいちばん過酷な場所なのです。とにかく大き過ぎます。私は、テクノロジーでそれを半分に分けることができると考えています」。

今回の資金調達の第1の目的は、そこにあるとレイタノ氏はいう。つまり、医療サービスとテクノロジーを垂直統合させる取り組みを加速し、その過程で実現される効率化によって患者の医療負担を軽くするという最終目標に向かうものだ。

「私にとって一番うれしいのは、そのインフラへの投資が続けられることと、さらに増資できることです」とレイタノ氏は私に言った。「私たちは今後も遠隔医療に投資を続け、流通と薬局業務に投資を続け、自宅医療に投資を続け、さらにその3つの結合に、その後は診療科目の拡大、患者の遠隔モニターに投資します。デバイスを集めて患者に配布し、受動的な医療から積極的な医療へと移行させます」。

Roのモデルは、保険者、雇用主の資金提供、ガイデッドケアプログラムを介さず、消費者に直接、初期診療を届けることに重点を置いている。目的は、垂直統合とその他の効率的なエンジニアリングの取り組みにより医療費を軽減し、実質的に一部負担額と自己負担額を同等にすることを目指す。レイタノ氏によれば、現在の米国の保険制度は、個人の負担額を巧妙に隠しているだけだという。そのため、税金で補われているにせよ、職場が手取りの給与を削って医療費に回しているにせよ、とにかく自分のポケットからどれだけ医療費が出ているのかが、わかりづらくなっている。

画像クレジット:Ro

それが、同社が独自の薬局事業を展開し、常に足がかりを広げようと力を入れている理由になっている。同社は、2021年末までに薬局を10店舗、来年末までに15店舗を米国のほぼ全土に開設し、すべて地上ルートでの患者宅への翌日配達が可能になる戦略的な地点に配置する予定だとレイタノ氏は話す。

こうした垂直方向の最適化により、Roは一般的な医薬品500種類を月5ドル(約540円)で提供できるようになった。これには心臓疾患、不安障害、うつ、糖尿病などの薬も含まれる。2021年末までには、同じ価格で1000種類の医薬品を買えるようにするとのことだ。これで、多くの保険会社が同等の薬代として請求する一部負担金と、ほぼ同額になる。

またレイタノ氏は、新型コロナのパンデミックにより、Roのモデルに都合がよい方向に医療システムの大変革が起こり、ハイブリッド医療プランが加速されたとも話している。

「パンデミックは、医療システムに有意義な影響を2つもたらしたといえます」とレイタノ氏。「1つは、私たち全員が気にかけていたまさにそのとき、パンデミックが国全体のあらゆる不公平を照らし出したことです。その影響を日々被っている人たちには、ある意味よく知られた問題でした。地理的不公平、経済的不公平、人種的不公平などです。そうした不公平を感じた人は、それを誰かに話したくなりますが、みんなが同じぐらい高い関心を持っているとは限りません。しかし、その巨大なスポットライトが医療システムに当たったのです。もう1つは、すべての人の医療がオンライン化に進み始めたことです。途中から対面の直接診療に移行するにしても、オンラインから始まるようになるでしょう」。

Roのモデルは、遠隔医療、ほぼ毎日必要となる予約管理、場合によってはそれに続く自宅での直接診療という今の医療提供のかたちを、ずっと進めてきた。これが医療を大幅に効率化したことは確かだ。同時に、高齢者や移動が困難な患者が家に居ながらにして、診療所の医師から15分間の診察が受けられる。これは動画では叶わないことだ。

左から、Roの共同創設者Rob Schutz(ロブ・シュッツ)氏、ザッカリア・レイタノ氏、Saman Rahmanian(サマン・ラーマニアン)氏

ほとんどの業界オブザーバーは、レイタノ氏の考えはほぼ正しく、パンデミックが終わっても医療はもう、初期診療から対面で行う昔ながらの非効率なモデルには戻らないだろうと考えている。新型コロナ禍がもたらした建設的な効果に、遠隔医療は、従来方式に比べて、特に遠隔モニターと継続的で積極的な健康対策を組み合わせることで、大勢の患者の大量の初期診療の需要に対処する能力が高いと証明された点がある。

現在、Roは保険会社とは協力体制にないが、レイタノ氏は、それを完全に拒んでいるわけではないと語る。ただ今ある医療保険が高額で、不確かで、希有な結果に対するリスクプールを目的としたものであり、彼の意図するように機能しないだけだという。いずれは、さまざまな形が組み合わされた医療全体に医療保険が参入できる場所ができると彼は信じている。しかしその前に、そのインセンティブ構造を、実際のコアカスタマー、つまり患者本人に再び合わせるための方策作りに正面から取り組む必要がある。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:Ro資金調達遠隔医療オンライン薬局

画像クレジット:Ro

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(文:Darrell Etherington、翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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