古くて新しい技術――マルチバリューDB開発のシマントが7000万円調達

マルチバリュー型データベースの開発・提供を行うシマントは7月11日、シードラウンドでDraper Nexus VenturesとIDATEN Venturesから総額7000万円を調達したと発表した。Draper Nexusからの出資は2017年2月時点で実施されており、今回のシードラウンドはそれを含んだものとなる。

なお、IDATEN VenturesはVisionaire Venturesなどに所属する足立健太氏が運営するVCだ。

シマントが開発する「SImount Box」は、1つのレコードが複数の値をもつ“マルチバリューデータベース”の技術を採用するデータベースだ。

古くて新しい技術

現在主流のリレーショナルデータベース(RDB)は、顧客データや注文データなどを個別のテーブルに分けて格納し、それぞれのテーブルを顧客IDなどのキーで関連付けて結果を出力する。その構造上、データベースを開発する際には生データを重複しないように複数のテーブルに分割する“データの正規化”が必須となる。

一方、1つのレコードに対する複数の値をかたまりとして扱うことができるマルチバリューDBでは、テーブルの設計やデータの正規化を行う必要がない。シマント代表の和田怜氏は、これにより運用までの開発期間を大幅に短縮できると話す。

データベースのシステム構築には6ヶ月〜1年の時間を要することもあるが、それが2週間程度に短縮された例もあるのだとか。

また、例えば1つの顧客名(レコード)に関するデータを集めるために各テーブルを横断的に検索するRDBと比べて、マルチバリューDBでは検索必要数が少なくて済む。複数の値をもった1つのレコードを検索すればいいからだ。このデータ処理時間の削減効果は、データ量が多ければ多いほど大きくなる。

「これまでデータの処理に5時間かかっていたものが、10分に短縮されたという導入事例もある。処理時間を短縮できるSImount BoxはビックデータやIoTの時代に適したデータベースだといえる」(和田氏)

マルチバリューDBの歴史は意外に古く、その基礎は1960年代に確立している。マルチバリューDBは元々、1965年にイニシャルリリースされた「Pick OS」と呼ばれるオペレーティングシステム用に開発されたデータベースなのだ。

しかし、その後Oracleがデータベースの覇権を握るにつれ、SQLをクエリ言語として使用するリレーショナルDBが業界の主流となった。ただ、ビッグデータの時代が到来した今、その“忘れられた技術”に再度注目が集まることになる。

「リレーショナルDBは処理能力を犠牲にした技術だが、これまではマシンのスペックがどんどん良くなっていたから、それで成り立っていた。しかし、ビッグデータの時代になり、スペックが上がるスピードがデータの増加量に追いつかなくなった。だからこそ、Hadoopのような技術が生まれたのだと思う。しかし、分散処理にはコストがかかりすぎるため、データベース側で処理能力を上げていく技術がもう一度脚光を浴びるようになった」(和田氏)

ちなみに、シマントCTOの渡邉繁樹氏はPick OSの元開発メンバーの1人で、その後に日本オラクルなどで技術要職を歴任してきた人物なのだそう。現在60歳のベテラン・データベース技術者だ。

インターフェースはエクセル

SImount Boxは、DB設計や実行を専用のエクセルファイル上で完結することができる。クエリ言語はシマントが独自に開発した「IntuitiveQueryLanguage」と呼ばれる言語を使用。エクセル上から直接DBにクエリコールできる。

もちろん、現時点でこの独自言語を使えるユーザーはほとんどいないため、現在は案件ごとにシマントが検索条件を設定して納品している。ただ、納品後のデータベースの設定にユーザーが細かな変更を加えることは可能で、その難易度は「エクセルの関数やマクロ組める人なら十分対応できる」といったレベル感だという。

現場レベルで使い慣れたエクセルをインターフェースとして採用し、かつ運用開始までの時間が短縮されるSImount Boxは、例えば開発中のアプリケーション用DBなどPDCAを高速で回していく領域でも使いやすい。

「私たちのアプローチは、保守や運用など“守り”の要素が重要となる基幹データベースをRDBからマルチバリューDBに変えてくださいというものではない。SImount Boxは、基幹データベースが吐き出したCSVファイルを利用して、例えば部門ごとの専用DBを高速で構築するために使うこともできる」(和田氏)

2014年創業のシマントは、今回調達した資金を開発体制の強化とサービスの開発に用いる予定だとしている。

MUFGアクセラレータプログラムの第2期生にも採択されたシマント。今後の展開について和田氏は、「どの領域の顧客に注力していくかを決めていく。有力な分野は、金融、医療、物流などのビッグデータと深く関わる分野だ。また、マルチバリューDBの一番の弱点はユーザーコミュニティが脆弱であること。ユーザーコミュニティが大きくなるまでは、私たちは案件ドリブンでプレゼンスを高める必要があります」と語る。

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TechCrunch Japan

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