和製Amazon Homeとなるか、スマートロック活用で不在でも宅配・家事代行サービスが受けられる新プロジェクト

写真左から:セーフィー 小室氏、パルシステム東京 小林氏、ホワイトプラス 井下氏、ライナフ 滝沢氏、honestbee 宮内氏、タスカジ 和田氏、ベアーズ 後藤氏

スマートロックをを軸に不動産サービスを展開するスタートアップ、ライナフは1月30日、家に不在でも宅配や家事代行サービスが受けられる「サービスが入ってくる家」プロジェクトを2月下旬より開始することを発表した。東京都大田区にある36居室の新築賃貸マンション1棟で、同社のスマートロック「NinjaLock(ニンジャロック)」を全戸に導入。オートロックの共有エントランスを開錠するシステム「NinjaEntrance(ニンジャエントランス)」も設置し、宅配や家事代行サービスを提供する5社との提携により、不在時にもサービスが受けられる住まいを提供する。

提携先企業は、生鮮食品宅配サービスのパルシステム東京、宅配クリーニングのホワイトプラス、買い物代行サービスを提供するhonestbee Japan、家事代行スタッフのマッチングサイトを運営するタスカジ、家事代行サービス提供のベアーズの各社だ。また、ライナフのスマートロックとは別にIoT機器として、玄関部分を撮影するためのクラウドカメラ「Safie(セーフィー)」をセーフィーが提供する。

個別の各サービスの利用料金は利用者が各社へ直接払うが、IoT機材等設備の初期費用や通信・保守など運用に関わる料金は、居住者ではなく、物件の所有者や不動産管理会社などが負担する形となる。

ライナフはこれまで、スマートロックなどのIoTハードウェアと連動して、不動産オーナーや管理会社向けに空室活用のための「スマート内覧」「スマート会議室」「スマート物確」といったサービスを提供してきたが、「サービスが入ってくる家」プロジェクトを機に、住まいに関する生活関連サービスにも取り組む。

プロジェクト推進のため、あえてアナログな運用を選択

ライナフ代表取締役社長の滝沢潔氏によれば「プロジェクトにあたっては、大きなシステムは作っていない」とのこと。「いろいろな提携先と新しいことを始めよう、というときにスマホアプリを新たに作ったり、端末を配布したり、といった大がかりなことをやろうとすると、だいたいプロジェクトが進まなくなるので」と滝沢氏は言う。

その代わりに、このプロジェクトのためにライナフが用意したのは、スマートロックなど既存のIoTハードウェアと、24時間運営のオペレーション専用コールセンターだった。

共有エントランス部分と居室玄関ドアに設置されたスマートロックを開錠するのは、提携先サービススタッフではなく、コールセンターが担当。宅配サービスや家事代行に訪れたスタッフがコールセンターへ電話をかけると、オペレーターがサービスの予約状況を照会。スタッフの本人確認のための質問をいくつか行い、インターネット経由で鍵の開閉を遠隔操作する。

滝沢氏は「あえてアナログに、コールセンターへの電話による運用にした。これは、事業者の担当スタッフが必ずしも全員がスマートフォンを持っているわけではないことや、リテラシーなどに配慮した結果。ゆくゆくは自動化したいが、今の段階ではこれが最適と考えている」と話している。

入居者は、スマートフォンのNinjaLock専用アプリで、いつでも玄関ドアの開閉履歴を確認することができる。また、玄関部分の映像をスマートフォンアプリから確認できるクラウドカメラSafieと、玄関ドアとは別の錠前付き室内扉を設置することで、不在時のセキュリティが強化されている。

セキュリティと言えば、スマートロックの安全性への疑問や、室内にネット経由でアクセスできるカメラが設置されていることへの不安を持つユーザーもいることだろう。この点に関して滝沢氏はこう説明している。

「カメラについては、室内全体を撮影するものではなく、あくまで玄関の出入りをチェックするためのものなので、玄関だけを写すように設置する。また、スマートロックだけでは心配、という方のために別途鍵がかかるドアを内側に用意している。それでも気になる、という方もご心配なく。これらの機材はすべて電気で動作するので、電源や電池を抜けば動かなくなる。『サービスが入ってくる家』に利便性を感じてもらえて、より良いサービスを受けたい、と納得していただけたなら、また使ってもらえばよいと考えている」(滝沢氏)

物流のラストワンマイルが変化するのではないかとの期待

滝沢氏は、2017年3月の取材でも「サービスが入ってくる家」のコンセプトについて語っている。スマートロックを設置した家の外側・内側の2枚のドア。ドアとドアの間に設けられたサービスゾーン。サービスゾーンで受け渡しされる荷物・食材やクリーニングなどの宅配サービスと、内側のドアの奥まで入って提供される家事代行サービス。今回のプロジェクトはおおむね、これらを踏襲したものとなった。滝沢氏は、プロジェクトを「IoTで実現する現代版の土間」と表現している。

プロジェクト発足の背景には、単身世帯、共働き世帯の増加と、インターネット通販などによる宅配、家事代行サービスのニーズの高まりがある。

宅配サービスや家事代行サービスの利便性を、より享受したいはずの単身者や共働き世帯ほど、日中家を空けることが多くて、宅配物の受け取りや家事代行スタッフとの鍵の受け渡しが難しい。ライナフでは、これからの不動産には「家主不在時でも安心してサービスを受けられる家」が求められる、として、広さや機能などのハード面だけでなく、ITを利用して柔軟にサービスが受けられる、ソフト面が充実した住まいを提供すべく、今回のプロジェクトを立ち上げた。

滝沢氏は「今回、プロジェクトにパルシステムなどの宅配サービスが提携先として参加し、宅内への配送を行うことに注目している」と言う。「大手の宅配業者は、防犯などの観点から宅内への配送に対して消極的。今回の提携先の宅配サービス運用がうまくいくようであれば、今後、宅配便の大手に参画してもらうことも期待できる。物流のラストワンマイルの変化を促すことにもつながる」(滝沢氏)

確かに現状でも宅配ボックスを利用して、不在時に荷物を受け取ることは可能だが、ミネラルウォーターなど重い荷物は、玄関先まで運んでほしいものだ。滝沢氏は「近所の八百屋や魚屋、弁当屋から配達されたものを、玄関の内側に置いた冷蔵庫に入れておいてもらえるようになれば、新鮮でおいしい食材を帰宅してすぐに手に入れることができる。ひいては商店街など、地域の活性化にもつながれば、とも考えている」とも語っている。

「日本初の不在時サービス対応マンション」となる今回のプロジェクト対象物件は、賃貸マンションで新築だが、滝沢氏によれば「我々が提供するスマートロックもスマートエントランスシステムも後付けタイプなので、大がかりな工事不要で設置できる。既存の物件の価値向上のために利用してもらうことも歓迎する」とのこと。1棟単位でなく、物件ごとでの利用も可能だという。

また賃貸だけでなく、分譲マンションにもサービスを広げたいと滝沢氏は話す。現在、スマートエントランスシステムのNinjaEntranceは東京と大阪を中心に130棟のマンションに設置されているが、分譲マンションでは、共有エントランスへの開錠システム設置に管理組合の許可が必要で、これまで導入のハードルが高かった。滝沢氏は「各社との提携によりサービスをパッケージ化することで、住まいの価値向上や便利さを提供し、単なる開錠機能だけではないサービスを広げたい」と語る。

「宅内へのサービス提供には、不動産管理会社も乗り出したいと考えているはずだ」と滝沢氏は続ける。「ただ、宅内プラットフォームでは『宅内へ入っていく』こと自体に、うさんくさいイメージもついてまわりがち。ライナフが、サービス提供会社をまとめて巻き込むのを担当することで、管理会社も取り入れやすくなるのではないか」(滝沢氏)

サービスを提供する提携各社はそれぞれ、プロジェクトに以下のような期待を寄せている:

「生鮮品宅配サービスで課題となる再配達が解消されること、配達担当の残業が削減できること、利用者の不満が軽減できることで、コストの削減や雇用問題の解決にもつながるのではないかと考える」(パルシステム東京 事業運営部部長 小林秀信氏)

「宅配クリーニングを手がける当社でも、物流のイノベーションにつながるサービスを検討している中で、こうしたプロジェクトでノウハウが得られればと思っている」(ホワイトプラス 代表取締役社長 井下孝之氏)

「このプロジェクトが地域コミュニティの活性化、地域への貢献につながるのでは、というところにワクワクしている。家事コンシェルジュサービスの日本へのローカライズのきっかけとしても期待している」(honestbee Coutry Manager 宮内秀明氏)

「鍵の受け渡しは家事代行では大きな課題。顧客もハウスキーパーも互いに安心してサービスの利用・提供ができるのは良いこと。宅配や買い物代行で受け取った食材をキーパーが料理するなど、家事の“ラストワンマイル”サービスを提供できるプラットフォームにもなると思う」(タスカジ 代表取締役社長 和田幸子氏)

「今までの家事代行サービスでは、レポートなどアナログなログしか残せなかったが、クラウドカメラやドアの開閉記録が残ることで、行動ログをデジタルに残すことができる。サービス品質の向上も目指せると考えている」(ベアーズ マーケティング部部長 後藤晃氏)

米国ではAmazonが、スマートロック連動で不在時でも家の中に荷物を届けてくれる「Amazon Key」サービスを、2017年11月から一部地域でスタートしている。配達以外ではハウスクリーニングのMerry Maidsや、ペットシッターサービスのRover.comなど、1200以上のサービスを「Amazon Home Services」として、今後数カ月以内に提供していく、ということだ。

滝沢氏は「日本では米国から半年から1年遅れて、同様のサービスが始まることが多い。それを考えれば、実証実験ではなく実サービスとしては日本初のスマートロックを活用した不在時の宅内サービスが、数カ月遅れでスタートするのだから、そう遅れていないだろう」と話している。「住宅×IoT×サービスの分野では、日本はよいポジションにあると考える。配送サービスのクオリティの高さもあわせて考えれば、アメリカより上という見方もできる」(滝沢氏)

「サービスが入ってくる家」が普及すれば、宅内サービスのセキュリティに対する考え方が変わるのではないかと滝沢氏は言う。「利用が浸透してきた家事代行サービスの世界では、実は、合い鍵を預かって不在宅でサービスを提供するケースが6割を超えるとも聞いている。このサービスでも普及にともない『不在でも大丈夫みたい』『便利』といった評判が広まれば、玄関“内”でサービスを受けることが当たり前になっていくだろう」(滝沢氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。