11月17日、18日に、東京・渋谷で開催したTechCrunch Tokyo 2016。17日の午後にはTwitchからAPACディレクターのRaiford Cockfield III(レイフォード・コックフィールド、以下レイ)氏を迎え、ゲームのライブストリーミングサービス、Twitchの創業からAmazonによる1000億円の巨額買収に至る道のり、ビデオゲームを競技化したeスポーツの勃興、日本やアジアでのサービス展開などについて、語ってもらった。聞き手は元TechCrunchのライターで、日本のゲーム産業のコンサルタントとして活躍する、Kantan Games CEOのSerkan Toto(セルカン・トト)氏。
創業からAmazonによる巨額買収、そして現在
バンカーとして自身の経歴をスタートさせたレイ氏は、香港でプライベート・エクイティに関わり、その後、事業に参画。コミュニティに役立つ仕事がしたい、との思いから、Twitchへやってきた。そのTwitchの生い立ちは、2007年にスタートした24時間ライブ配信サイト、Justin.tvにさかのぼる。
「リアルのアーケード(ゲームセンター)って、いろいろな人とプレイを見せあったり感想を言ったりする、コミュニティだったでしょう? ビデオゲームって、元々ソーシャルなものだったんだ。だから、それがライブ配信サイトであるJustin.tvにも現れ始めたんだ」(レイ氏)
2011年、Justin.tvからゲームカテゴリーを切り出して誕生した、Twitch.tv。現在、PCのブラウザでもスマホのアプリでもゲーム動画のライブストリーミングが楽しめ、お気に入りの配信ユーザーをフォローして、チャットでコミュニケーションが取れる、ゲームユーザーの一大コミュニティとなっている。
Twitchが重視しているのは、Justin.tvから受け継がれたライブキャスティングの部分なのか、それともビデオゲームなのか。レイ氏は「どちらも重視している」と質問に答える。「ビデオキャスティングの分野では、Amazon、YouTube、Netflixに続く、第4の勢力を目指している。だから接続と回線スピードの質を上げたくてAWS(Amazon Web Services)を利用しているし、Amazonの買収も受けたんだ」(レイ氏)
2014年5月時点では、TwitchはGoogleによる買収を受けると目されていた。だが8月にふたを開けてみれば、Googleではなく、Amazonが1000億円での買収を完了させていた。なぜGoogleは選ばれず、Amazonが買い手となったのだろうか。レイ氏は「Amazonとは、顧客第一の思想が共通していた。それにTwitchの独立性を担保してくれたので、Amazonを選んだんだ」と振り返る。
「実は買収の2年半前から話はあった。Twitchとしてはスケーリングしたい、バックエンドも整えたいと考えていたから、インフラは大事だった。そこをAmazonが対応してくれた」(レイ氏)
超巨大IT企業による巨額の買収ということで気になる、事業への干渉などはなかったのだろうか。「干渉はない。TwitchのDNAはしっかり残されている。変わったことといえば、規模がワールドワイドに広がったことと、社員が何百人にも増えたことかな」(レイ氏)
その“TwitchのDNA”とは一体どういうものなのだろう。「まずはコミュニティありき、コミュニティが一番(大事)ということだね。それから絵文字なんかもDNAかな。アジアでは特に絵文字は大事なんだ」と言うレイ氏は、Twitchがいかにコミュニティを重視しているかについて、「コミュニティによって、事業のロードマップが決まるし、ミッションが決まる」と話している。
「今は(ゲームの)ジャンルは全てにフォーカスしている。それから、(音楽やイラストなどの創作活動を実況する)クリエイティブカテゴリも大切にしている。アジアの場合は、インタラクションを失いたくないという思いも強い。コミュニティとインタラクションが肝だ」(レイ氏)
加速するeスポーツと日本、アジアでのTwitchの展開
今や一大ジャンルとなったゲーム実況動画。だが何時間も視聴に費やすユーザーがいることを、不思議がる人もいるのでは?と尋ねられたレイ氏はこう答える。「サッカー観戦と一緒だよ。興味がある分野の映像なら、何時間でも見るよね? ゲーム動画を見る動機は、プレイを体験したい、もしくはプレイスキルを学びたい、っていうところから。それって、サッカーと同じだよね」(レイ氏)
そして、まさにサッカーと同様に、ハイレベルのプレイヤーによるビデオゲームの対戦を、競技として楽しみ、観戦し、プロも誕生しているのがeスポーツの世界だ。何千万という規模のアカウントと何千万ドルもの金額が動き、加速するeスポーツについて、レイ氏はこう話す。
「今、eスポーツのアクティブユーザーは1日100万以上。トーナメント数も多くなっている。アジアなら大規模なイベントとして成立する。日本ではまだそれほど大きな動きではないが、それは成長の機会がまだまだある、ということだ」(レイ氏)
他の面でも、Twitchのアジアのユーザーへの期待は高い。「ワールドワイドでは、1ユーザーが1日当たりTwitchで費やす時間は106分。アジアだとそれが300分以上にもなる。コミュニティからのエンゲージメントも高い。ユーザー層はミレニアル世代が中心だ」(レイ氏)
Twitchの売上の大半は、気に入った配信者のチャンネルを月額4.99ドルでサポートする「スポンサー登録」(サブスクリプション)と広告だという。「日本なら(単にスポンサーになった配信者のチャンネルの広告が消えるだけじゃなくて)配信者を“応援”する機能なんかがあるといいかもしれないね」(レイ氏)
日本での展開も具体化に入ったTwitch。レイ氏は東京オフィスと日本での成長について、こう話す。「2017年の成長にフォーカスして、スタッフを採用し、まだリモートで仕事をしているけれどもオフィスも構えるし、コミュニティも作る。また韓国、東南アジアの一部も攻めていくつもりだ」(レイ氏)
コミュニティファーストで、コミュニティからロードマップが決まると話していたレイ氏。日本でのコミュニティについても「2016年は、日本ではデータの収集と言語ローカライズをやってきた。これから、外資のサービスだと気づかれないぐらいのサービスを提供していきたい」と意気込む。
日本の場合、ゲーム実況動画のプラットフォームとしては競合にYouTubeとニコニコ動画がある。ニコニコ動画は既にミレニアル世代のユーザーも多く抱えている。そんな中、Twitchはどのように日本でサービスを広げていくつもりなのか。「Twitchは大手企業からの関心も高いし、そもそもコミュニティ第一主義を採っているのでコミュニティは大切にするけど、競合の存在とかはサービス拡大には関係ないんだ。それにeスポーツの分野は、まだまだ伸びるしね」(レイ氏)
また、モバイルに関しては「ウェブサービスもアプリも、プラットフォームとしては総合的に対応しているつもり。でも特にアジアではモバイルは重要。ロードマップもモバイル中心で考えている」とレイ氏は話してくれた
最後に日本のゲームファンに向けて、レイ氏はこう語った。「Twitchを生活の一部、ゲームスキルの向上やキャリアアップにつなげてもらえるとうれしい。日本のみんなにもぜひ、この体験を共有してほしいな」(レイ氏)