「賃貸物件を探す際のプロセスにはまだまだ無駄が多く改善できる余地がある。大手ポータルサイトで気になった物件に問い合わせをすると複数の不動産業者から連絡がきて、同じように来店や内見日時の調整をしなければ内見できない。悪質な業者だとおとり物件で店舗に呼ばれることもある」
そう話すのはBluAge創業者でCEOの佐々木拓輝氏。同社では賃貸の部屋探しにおけるプロセスを圧縮し、無駄をなくすことをコンセプトとした自社アプリ「カナリー」を開発する。
2018年10月にリリースしたプレビュー版は現段階でダウンロード数が1万件を超え、内見依頼も1000件を突破。プロダクトの基盤も整ってきた中で本日6月26日に正式リリースを迎えた。
またBluAgeではカナリーのリリースと合わせて、昨年12月にCoral Capitalの創業メンバーが運営する500 Startups Japanなどから約7000万円の資金調達を実施したことも明かしている。
希望日時で即内見、複数業者との面倒なやりとりを排除
カナリーはユーザーがアプリから内見したい物件と日時を選択するだけで、すぐに個人のエージェントと繋がり余計な手間なく内見や契約を進めることができる部屋探しサービスだ。
アプリから気になる物件を探す工程までは従来と大きな変わりはないが、違うのは内見日時を申請してから。エリアと日時に合ったエージェント1人とマッチングされる仕組みのため、細かい日時調整や店舗へ足を運ぶ手間もなく、現地で待ち合わせて即内見ができる。
冒頭でも触れたように、通常であれば問い合わせ後に知らない仲介会社から複数件の連絡が届き、各社とメールで物件や日程の調整をしたり店頭に一度足を運んで手続きをする必要があった。要は内見をするためにはいくつかのステップを乗り越えなければならなかったわけだ。
物件を契約する際にもテレビ電話を通じて重要事項の説明を受けられる機能をプラットフォーム側で提供(テレビ電話などによる「IT重説」は2017年10月より本格運用されている)。ユーザーはわざわざ契約のためだけに店舗へ行かずとも、好きな時間に好きな場所からスマホで手続きできる。
カナリーでは一連のプロセスにおける無駄を排除することで、仲介手数料を一般的な「賃料1ヵ月分」から下げることも実現。プレビュー版のリリースからは約8ヶ月ほど経つが、これまで利用したユーザーからは「手間なく内見できる点や仲介手数料の安さ」などが好評だったそう。
「忙しくてすぐ内見したいという人や、これまで何度か引っ越しをしている人の反応が良い。特に過去の経験から部屋探しのプロセスが面倒だと感じていた人には、コンセプトにも共感してもらえている」(佐々木氏)
現在は都内23区に対応。一般の仲介会社が活用しているデータベース(レインズ)を軸としているため、物件数が極端に少ないということもない。一方でAIを活用したおとり物件を検知するシステムを開発し「だいたい半分くらいは削減できている」とのことだ。
仲介会社から「個人エージェント」主体の部屋探しへ
ここまで従来のプロセスにおける“ユーザー視点”での無駄と、それに対するカナリーの解決策を紹介してきたが、当然ながら不動産エージェントとしても負担となっていた部分があった。
仲介会社の営業パーソンにとって物件を「SUUMO」や「LIFULL HOME’S」などの大手ポータルサイトに掲載することは重要な仕事の1つ。この作業に毎日数時間を費やすことも珍しくなく、膨大な時間と手間を要する。
多数の業者が1人の顧客を取り合う構造になるため問い合わせに対する反応もスピーディーにしなければならず、メールや電話で細かい日程調整をするにも一定の時間が必要だ。そこまでしても顧客が他の業者に流れてしまうことも多く「結果的にコンバージョン(成約率)が高くなかった」(佐々木氏)という。
カナリーではこうした課題を解決しつつ、「仲介会社ではなく個人のエージェントを主体とした」モデルへと変えようとしている点が特徴だ。
佐々木氏によると個人エージェント自体はこれまでも存在したが(エージェントが複数人でチームを作って運営している会社も含めて)、集客の部分が1つのネックとなりなかなか浸透してこなかったという。
カナリーの場合は個人では難しい部分をプラットフォーム側でサポート。アプリを通じた集客基盤の提供に加えて、エリアや日時を元にベストなエージェントをマッチングする。IT重説の仕組みなども提供するため、各エージェントはオフィスに出社する必要なく、従来よりもフレキシブルに働きながらユーザーとのコミュニケーションにより多くの時間を使うことができる。
「仲介会社の担当者は朝早くから夜遅くまで店舗に行って働いているケースも多い。お客さんとのやりとりがメインなのであればわざわざ店舗にいる必然性もなく、カナリーではアプリを通して場所を問わず柔軟に働けるので、主婦の方や副業的に働きたい人などもチャレンジしやすい」(佐々木氏)
エージェントに関しては正社員としてBluAgeと契約しているメンバーが7名、業務委託で関わっているメンバーが3名ほどいるそうだ。今後は「Uber」のようにエージェントごとのレビュー機能を本格的に導入していく計画。ユーザーへの透明性を担保するとともに、質の高いエージェントがきちんと評価され、より多くの機会を掴めるような環境を整備していきたいという。
「エージェントが主体となれば、駅前の好立地な店舗を持たなくてもいいので間接的な固定費も削減できる。また仲介業は基本的に同じお客さんが再度使ってくれたとしても数年後などになるので、ショットのビジネスになりやすい。結果的に申し込み後のアフターケアがずさんになる場合も多いが、その点もエージェントごとのレビューを通じてきちんと透明化できると考えている」(佐々木氏)
今夏を目処にエリア拡大、レコメンド機能の強化などにも着手
個人エージェントを軸としたモデルは、日本に比べてアメリカなど海外でより広がっている。スタートアップではソフトバンク・ビジョン・ファンドなどから累計で約12億ドルを調達しているCompassが有名。日本でもエージェント探しから不動産取引を始められる「EGENT」のようなサービスが登場している。
Compassに関しては不動産売買を対象としているのでカナリーとは少し異なるものの、佐々木氏は日本でも個人を主体としたモデルが浸透する余地があるという。
「最終的には『カナリーに行けば内見までの手間もないし、良いエージェントの人に対応してもらえる』というブランディングができるところまでを目指していきたい。そうなればユーザーも安心して部屋探しをすることができ、一部の悪質な業者につかまるリスクもない」(佐々木氏)
今後は夏頃を目処に1都3県までエリアを拡大する予定のほか、それと合わせてエージェントの採用も進めていく方針。機能面ではデータを活用したレコメンド機能やおすすめ物件の紹介などを中心にアップデートを進めていく。
なおBluAgeは2018年4月の設立。代表の佐々木氏はメリルリンチ日本証券やボストンコンサルティンググループを経て、東京大学在学時からの友人でもある穐元太一氏(CTO)とともに同社を創業している。