‘死刑’を回避するのにZTEに残されたカードは少ない

7万5000人もの従業員を抱え、一時は時価総額200億ドルあった企業が刻々と最後の審判を迎えつつある。

それが今、中国の通信機器メーカーZTEが直面している状況だ。米国のテクノロジーを搭載する機器をZTEが米国の制裁に反してイランと北朝鮮に販売していたことが明らかになり、このためトランプ大統領はZTEを潰す、と決めた。その後、一転して潰さないと決めた。そして今週、米議会はZTEを潰すか、潰さないかを決めようとしている。この問題はもう終わり、と考えていたホワイトハウスにとってはかなり苦々しい展開だ。Tom Cotton(共和党、アーカンソー州選出)のような上院議員は今週「ZTEの行いをみれば、死刑が妥当だ」との声明を明らかにした。

この問題を深く掘り下げる前に、一歩下がって一体いま何が起こっているのかを考えてみよう。何百億ドルもの金、何万もの雇用がかかっているという、中国政府の息がかかったテック企業の1社であるZTEの運命について、米議会とホワイトハウスは政治的駆け引きを続けている。これを主導権争いと言わずして何と言うだろう。ここで忘れてはならないのは、立法府、行政府ともに同じ党が率いているという事実だ。

中国政府は、ZTEに救済策を与えるようトランプ政権に圧力をかけるため、クアルコム社のNXPセミコンダクタ買収の承認を棚上げにしてきた。この中国政府のメッセージをトランプ政権ははっきり認識し、これによりZTEに罰金10億ドルを科すという決定をし、事を先に進めようとした。

しかしながら、議会はそうしたロジックを知らない。クアルコム社のNXP買収成功と、米国の5G分野における支配、さらにはZTEの救済を関連づけて考えることはできないのだ。たったの3ステップなのだが、これは知の結集である議会にとって理解するには多すぎたのだろう。

ZTEへの死刑執行はもはや政治的な動きとなっている。さらにZTEにとって厄介なのは、こうした動きは二大政党によるものであるということだ。どちらかというと、共和党サイドより民主党サイドの方に強硬姿勢が強い。上院議員Chris Van Hollen(民主党、メリーランド州選出)は、ZTE救済について「この件の行方を見守っている世界に対し、米国の制裁に違反しても刑罰がないという誤ったメッセージを発信することになる。我々はそうさせてはならない」とThe Hillで述べている。

民主党にとって、貿易、安全保障、中国を材料にトランプ政権を叩くことは、選挙がある今年、政治的に強力な武器となる。トランプ政権がZTEと合意したことを受け、民主党はスタンスを若干修正し、この問題についてトランプよりも厳しく臨むよう議員に自由裁量を与えている。

皮肉にも、ーここで見方をクリアにしておくが、私は情報筋に基づいて書いているのではなく、戦略的な視点で指摘したいーZTEを救済するよう政府を使ったのはクアルコム社かもしれない。そうしたロビイストたちは、クアルコム社が年初にBroadcomに買収されるのを防いだが、今回の件に関しても議員たちが脅しのような姿勢を引っ込めなければ事態は修復不可能になるとして議会に働きかけた可能性がある。

ここで言う皮肉とは、議会における新たな貿易保護主義は、シンガポール拠点のBroadcomからクアルコムを守る役目があったということだ。国家安全保障という観点からクアルコムは買収されるのを阻止できた。しかし、同じ安全保障の懸念により最も重要な取引先を失うという事態に直面している。短期的視野の政治的判断は年初時には事態を前に進めたが、ここへきて難しい局面となっている。

中国政府の直接的な介入の他に、ZTEに残されたカードは少ない。まず、ファイナンシャル・タイムズによると、ZTEは中国の2つの銀行に107億ドルものローンを申し込んでいる。加えて、トランプ政権との合意に基づき、役員会に何人かの新メンバーを加えようとしている。これはスマートな対応だ。取り決めが実行されればされるほど、議会のZTEを潰そうとする動きは弱まるからだ。

ZTEはほかにも使える手を持っている。それは、米国への進出を拡大するというものだ。これは通信機器のHuaweiが米国マーケットに進出するのをほぼ禁じられたのと同様、履歴に矛盾するものだ。にもかかわらず、トランプ政権に優先権を与えようと、平和的提案として雇用や製造の拠点を米国に移そうとZTEが工作してきたことには驚かされる。これが実現すれば、議員の何人かはお膝元で雇用が増えることになり、結果的に強い支持を得ることになるわけだ。

もう一つの選択肢は、ZTEが経営の透明性を高めるということだ。またしてもHuaweiを引き合いに出すが、Huaweiと同じく共産党とのつながりが一度も十分に説明されておらず、ZTEのリーダーシップはかなり不透明だ。ZTEは、中国政府と中国経済にとって価値ある資産であり、もし情報を公開して今後透明性を高めるなら、議会の反発を和らげることができるかもしれない。

しかしZTEがこうした選択肢をとるとは考えにくい。中国政府が本当にZTEを救いたいのかについても確信が持てない。議会の命令による死刑執行があれば、中国全人代は人民に向け、どのような代償を払ったとしても経済発展は続けると発信することになる。ニューヨーク・タイムズのLi Yuanはこうした状況を中国のスプトーニク・モーメント(日本語版注:奮起せざるを得ない状況)と呼んでいる。これは言い得た表現だと思う。もし議会がZTEを潰せば、これは単に中国の大企業の終わりではなく開かれた経済の終わりを意味し、貿易面でのナショナリズム再台頭を招くことになる。

イメージクレジット: Liu Youzhi/Southern Metropolis Daily/VCG / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

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TechCrunch Japan

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