理系学生をターゲットにしたダイレクトリクルーティング・プラットフォーム「LabBase(ラボベース)」を展開する日本のPOL(ポル)は4月24日、リード投資家のBEENEXT、サイバーエージェント・ベンチャーズ、Draper Nexus、Beyond Next Ventures、及びエンジェル投資家を引受先とした第三者割当増資を実施し、総額5000万円を調達すると発表した。払込日は今月末になる予定。
LabBaseは専門知識をもった理系学生と、彼らを欲しがる企業をマッチングするリクルーティング・プラットフォームだ。ユーザーとなる学生は自分の研究や論文の内容をプロフィールに記載し、それを見た企業が気になる学生を直接スカウトしたり、共同研究の提案を行うことができる。
同サービスを利用することで、日々の研究に追われて就職活動に時間を割きにくい理系学生でも、自分のスキルを活かせる企業と効率的に出会うことができる。また、企業は必要な専門知識をもった学生だけに絞った採用活動を行えるというメリットがある。
LabBaseのマネタイズ方法は企業側への月額課金。学生の登録は無料だ。料金は公開していないが、企業は月額数万円を支払うことで月に15回の「スカウト枠」が与えられる。これはスパムのようなスカウトから学生を守るための仕組みだが、学生からスカウトへの返信があれば、スカウト1回分の「ボーナスチケット」が受け取れる。
2017年2月の正式リリース以降、Amazon Web Service、Sansan、電通デジタル、日産化学工業などがLabBaseを利用している。具体的なユーザー数、クライアント数はともに非公開とのこと。POL代表の加茂倫明氏は、「今はユーザー、クライアントともに量よりも質にフォーカスすべき時だと考えている。理系東大生の割合が3分の1以上で一番多く、他も京大、東北大、北大、東工大、筑波大の学生が多い」と語る。
同じくダイレクトリクルーティングを手がける競合サービスに挙げられるのは、ビズリーチが手がけるBizReach(ビズリーチ)やcareertrek(キャリアトレック)などのサービス。ビジネスSNSのWantedlyもダイレクトリクルーティングが可能なプランを有料で提供している。
これらの既存サービスとの差別化要因について、加茂氏は「既存のサービスとは違い、LabBaseの学生プロフィールはアカデミックに寄せた作りになっている」ことを挙げる。「通常の就活サービスでは自己PRなどを掲載する一方、LabBaseでは研究概要、その社会的意義、使用できる研究機器、参加した学会、論文内容などを書く」(加茂氏)
ちなみに1994年生まれの加茂氏は東京大学理科二類の現役学生でもある。そこで、彼に最近の「理系学生の就活事情」を聞いてみた。
まず、理系学生は研究によって拘束される時間が長く、通常の就職活動を行う時間を確保することが困難なことが多い。そのため、教授からの推薦を利用して就職先を見つける学生も多いようだ。企業側も「〇〇教授の教え子なら信頼できる」というメリットもあるのだろう。つまり、理系の世界では従来からダイレクトリクルーティングが「クローズドで」行なわれていたとも言える。
バリバリの文系学生だった僕には、実体験をもってTechCrunch Japan読者にこの就活事情を伝えられないのが残念だ。でも、編集長の西村(物理学部出身)はこの話に同意していたから、実際の現場はこれに近いのだろう。
LabBaseがやろうとしているのは、この閉じた世界をオープンにすることだ。加茂氏は、「企業は理系学部にコネクションを持つとはいえ、そこには偏りがある。事業が多角化すれば、電子系の企業が生物系の学生を欲しくなることもある。そのような場合でも、優秀な学生を見つけられる場所を作りたい」と語る。
埋もれてしまっている理系学生にアクセスできる場所を提供する意義は理解できた一方で、加茂氏から理系学生の特徴を聞くうちに「彼らをユーザーとして獲得するのは難しそうだ」とも思った。推薦で就職することも多い理系学生は「就活意識が低い人も多い」(加茂氏)ので、そもそも就職系サービスのLabBaseに登録すること自体が高い壁になる可能性が高いからだ。そのための対策として、POLは主要大学に「アンバサダー」と呼ばれる学生の営業員を設置(現在40人)。彼らを通してプラットフォームの認知度向上を図っているという。
また、現在LabBaseを利用している企業はスタートアップが多い印象を受けるが、大手志向の学生を惹きつけるためには大企業をプラットフォームに巻き込む策も必要になるだろう。
2016年9月設立のPOLは今回初めて外部調達を完了したことになる。今後の展望として、加茂氏は以下のように語る:
「僕たちのミッションは理系学生がもつ課題をすべて解決すること。そのため、今後は研究者向けの支援ツールなどの新プロダクトを次々に開発していきます。海外の研究室にはScience Exchange(研究器具のクラウドソーシングサービス)などが普及しているが、日本の研究室はまだまだアナログ。先日Trelloを買収したAtlassianはプロジェクトの様々な工程に利用されるツールを開発しているが、POLは『研究者向けのAtlassian』を目指す。大げさかもしれないが、研究室をもっと効率的にすることで日本の技術発展のスピードも早くなるはずだと僕は信じています」。