米電子機器持ち込み禁止令の対象はイスラム教国からの直行便―、航空会社9社に影響

昨日の混乱の後、中東や北アフリカからアメリカに向かうフライトでは、スマートフォンよりも大きな電子機器の機内持ち込みが本当に禁止されることになるという情報を、新たに政府高官から入手した。この禁止令が施行されると、乗客はノートパソコン、タブレット、ゲーム機、カメラ、ポータブルDVDプレイヤーといった電子機器を預入荷物の中にいれなければいけなくなる。なお、禁止令がいつ頃解除されるかについては決まっていない。

運輸保安局(TSA)の”緊急修正”と呼ばれるこの禁止令によって、中東と北アフリカにある以下の10ヶ所の空港から運航している航空会社9社に影響が及ぶことになる。

  • クィーンアリア国際空港(ヨルダン)
  • カイロ国際空港(エジプト)
  • アタテュルク国際空港(トルコ)
  • キング・アブドゥルアズィーズ国際空港(サウジアラビア)
  • キング・ハーリド国際空港(サウジアラビア)
  • クウェート国際空港(クウェート)
  • ハマド国際空港(カタール)
  • ムハンマド5世国際空港(モロッコ)
  • ドバイ国際空港(ドバイ首長国・アラブ首長国連邦)
  • アブダビ国際空港(アブダビ首長国・アラブ首長国連邦)

実際に影響を受けることになるのは、ロイヤル・ヨルダン航空、エジプト航空、トルコ航空、サウジアラビア航空、クウェート航空、ロイアル・エア・モロッコ、カタール航空、エミレーツ航空、エティハド航空だ。この9社は、合計で1日あたり50便のアメリカ行きフライトを運航している。

各航空会社には、電子機器の持ち込みに関する禁止令に応じるまで、96時間の猶予期間が与えらえているが、もしも応じなかった場合、連邦航空局(FAA)がその航空会社の権利を剥奪し、アメリカへの渡航を禁じる可能性もある。例えば、昨年トルコのアタテュルク国際空港で起きたテロ事件を受けて、FAAが同空港から運航する全ての航空機のアメリカ入国を一時的に禁止していたことを考えると、アメリカ政府がこのような対応をとること自体は全く予想外というわけではない。

この禁止令が対象にしているのは、前述の空港からアメリカに直行するフライトのみであり、影響を受ける航空会社や空港の所在国はなんの関係もないと、政府関係者は強調していた。その一方で、対象となる空港とアメリカの空港間で直行便を運航しているアメリカの航空会社は一社もないため、国内の航空会社は禁止令の影響を全く受けないということにもすぐ気がつく。

なぜアメリカ政府はこのタイミングで禁止令を施行しようとしているのだろうか?政府関係者は具体的な脅威については触れず、テロ組織が電子機器に爆発物を隠して旅客機に持ち込もうとしていることを示す情報をもとに、政府は禁止令を発布したと語っている。この関係者によれば、2016年2月にモガディシュ(ソマリア)発ジブチ行きのダーロ航空159便で起きた爆発事件でも電子機器が使われていたようだが、1年以上前に起きた事件を理由にこの段階で禁止令を出すのも不自然だ。

突然で対象がランダムな印象を受けるだけでなく、この禁止令には明らかな問題もいくつかある。まず、FAAは火災発生の可能性を理由に、リチウムイオン電池を預入荷物に入れることを明確に禁じている(電池の発火事故で昨年話題になったホバーボードのことを覚えているだろうか?)。客室であれば電池に火がついても簡単に消すことができるが、貨物室ではそうはいかない。

さらにノートパソコンといった高価な電子機器を預入荷物の中に入れると、もちろん盗難のリスクが増える。アメリカで液体の持ち込みに関する3-1-1ルールが導入されるきっかけとなったテロ未遂事件を受けて、イギリスが2006年に似たような電子機器の持ち込み禁止令を施行した際には、荷物の盗難が急増したと報じられていた

FAAは航空会社と協力しながら、貨物室にコンピューターを保管するための最善策を模索しているが、私の知る限り、彼らの最善策とはそもそも貨物室でコンピューターを保管しないということのようだ。そうなると、禁止令の影響を受ける航空会社は、一体どのようにして禁止令に応じながら、乗客のノートパソコンを貨物室で預かればいいのだろうか(もしかしたら電子機器は別のチェックを受けるようになるのかもしれない)?ちなみにパイロットや乗務員に関しては、恐らく空港や航路に関する情報を表示したり、飛行計画を立てたりするためにタブレットを使うことが多いということを理由に、禁止令の対象からは外されている。

今回の禁止令では、主要イスラム教国からのフライトのみが対象となっていることから、先の入国禁止令との関連性を疑わずにはいられない。一方で入国禁止令の対象となっていた国は、電子機器の持ち込み禁止令の対象となっている空港の所在国とは異なる。

長年アメリカの航空会社の多くが、カタール航空やエティハド航空、エミレーツ航空といった競合が各国政府から受け取っている助成金について不満の声を挙げていたことも知っておいた方がよいだろう。なお私たちが話を聞いた政府高官は、先月各航空会社のCEOがトランプ大統領に直接苦情を伝えたことと、今回の禁止令の間には何の関係もないと強く否定していた。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

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TechCrunch Japan

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