離れて暮らす家族の写真をテレビで見られる「まごチャンネル」、運営のチカクが1億円調達

離れて暮らす家族のテレビに写真や動画を届けるIoTデバイス「まごチャンネル」。同プロダクトを提供する日本のチカクは、2016年12月に500 Startups Japanおよび個人投資家から総額1億円の資金調達を行っていたことをTechCrunch Japanによる取材のなかで明らかにした。また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業に同社の事業が採択されたことも同時に明らかとなった。

まごチャンネルはITリテラシーの低いシニア世代でも簡単に使えるように設計されたIoTデバイスで、テレビを使って遠く離れた場所に住む家族と写真や動画を共有することができる。専用アプリによって撮影した家族の写真が離れて暮らす祖父母のテレビに自動で届くため、スマホやPCを持たないシニア世代も家族の存在を間近に感じることができる。祖父母たちのテレビに「まご専用のチャンネル」を追加するイメージだ。

まごチャンネルを構成するのは、端末本体、クラウドストレージ、そして専用のカメラアプリだ。カメラアプリで撮影した写真や動画は自動的にクラウドストレージへとアップロードされる。すると家のかたちをした本体端末の「窓」が光り、新しいコンテンツが追加されたことを知らせてくれる。あとはテレビのチャンネルをHDMIに合わせるだけ。リモコンを操作してコンテンツを楽しめる。また、端末にはソラコムが提供するSIMカードが搭載されているため、設置する場所にWiFi環境がなくても利用可能だ。

2015年9月、まごチャンネルはクラウドファンディング・プラットフォームのMakuake販売開始。目標金額100万円のところ、その5倍以上の約570万円を調達している(記事執筆時点)。販売台数は非公開だが、チカク代表取締役の梶原健司氏によれば、これまでに「47都道府県のすべて、そして世界30都市で利用されている」という。まごチャンネルは現在、直販サイトAmazon.co.jp、伊勢丹などの大手百貨店で購入可能だ。

シニア世代にとっての使いやすさを追求

まごチャンネルの機能面だけを考えると「クラウド同期型のフォトフレームでも良いのでは?」と思うTechCrunch Japan読者もいることだろう。なかには置いておけば自動的に写真が更新されるものもあるので、シニア世代でも操作が難しすぎるということもない。しかし、梶原氏は開発段階に行った事前調査でフォトフレームの問題点を見つけたという。

「これまでに数えきれないほどのシニア世代の方と会ってきましたが、実は多くの人がすでにフォトフレームを持っていることが分かりました。しかし、そのほとんどが使われずに放置されていていたのです。彼らに『なぜ使わないのですか』と尋ねると、『だって、写真が全然更新されないから電気代がもったいない』と言っていました。それで、次はシニア世代に孫の写真を送るはずの親世代の人たちに『なんで更新してあげないんですか』と尋ねると、『更新しても本当に観ているかどうか分からないから』という返事があった」と梶原氏はいう。

だからこそ端末には更新を通知する「光る窓」を用意した。また、シニア世代が「まご専用チャンネル」で写真や動画を観ると、親世代ユーザーのスマホに通知が入る仕組みにもなっている。「通知が来ることで、家族のことを考える機会が自然と増える。家族がチカク(近く)にいるように感じるのです」(梶原氏)。

その他にも、まごチャンネルにはシニア世代にとっての「とっつきやすさ」を高める工夫が随所に散りばめられている。例えば、端末とテレビを接続するのはHDMIケーブルだが、その接続方法が書かれたマニュアルもシンプルで分かりやすい。

それでも「接続が難しい」というシニア世代のためには、配送業者が接続まで行う有料サービス(4200円)も提供している。端末を起動するスイッチも省き、電源と接続するだけで起動する仕組みだ。また、直販サイトから購入すればアカウントの紐付けなどの初期設定も行ってくれる。

ところで、下の写真を見ていただくと分かるように、端末には電源とHDMI端子に加えてUSB端子も搭載されている。これは取材時のプロダクトデモでは使用していなかったようなので、搭載した理由を聞いてみた。それによれば、「将来的に内部ストレージを拡大したり、まごチャンネルの端末をスマートホームのハブとして利用する新プロダクトの構想もある」(梶原氏)のだそう。

確かに、端末にはSIMカードが搭載されているだけあってスマートホーム構想は面白いビジネス展開だと思う。

ただ、ちょっと気になるのがプロダクトの値段だ。最近はタブレットの価格も下がってきて、2万円程度で買えるSIMカード搭載型のものもある。それを考えると、まごチャンネルの価格は3万9800円と少し割高なようにも感じる。

実際、Makuakeでプロジェクトを開始したときの一般販売価格は1万9800円だった。だから、当時の値段から2万円ほど値上げされていることになる。さらに、当初は980円だった通信料も現在は1250円へと変更されている。

その理由を尋ねると、「価格には月額1250円の通信料が1年分含まれている。親世代からシニア世代へのギフトとして贈られることも想定されているため、その方が都合がいいと考えた。ただ、それでも5000円程度は値上げした計算になるが、販売を開始するにつれてもう少しマージンを取る必要があるという判断をしたため」と梶原氏はコメントしている。しかし、今後はプロダクトの増産に応じて価格を下げていく方針のようだ。

日本発の「シニアファースト」を世界へ

前述したように、まごチャンネルの想定ユーザーはシニア世代だ。でも、だからといって若者が使えないわけでもない。例えば、カップルが旅行先でとった写真や動画をテレビで楽しむなどのユースケースも考えられるだろう。実際チカクが目指すのも「シニアと若者の両方が使えるプロダクト」だという。「通常、デジタル製品を開発するスタートアップが想定するユーザーは若者です。それは創業者たちが若く、自分たちを中心にユースケースを考えているからだと思う。チカクでは、お年寄りが簡単に使える『シニアファースト』なプロダクト開発を理念として掲げつつも、同時に若者も使えるようなプロダクトを作っていきたい」と梶原氏は語る。

チカクは2014年3月の創業で、総勢10名のチームのうち梶原氏以外の全員がエンジニア/デザイナーという技術ドリブンなスタートアップだ。創業者の梶原氏は元アップル社員でもある。同社が資金調達を実施するのはこれが2度目で、前回は複数のエンジェル投資家から資金を調達している。梶原氏によれば、今回の調達ラウンドを含めた累計調達金額は約2億円だという。

まごチャンネルの構想が生まれた2013年から数えて4年目となる今年。VCマネーも入り、チカクはスケールを目指すフェーズに突入したといえるだろう。梶原氏は「基本的には調達した資金は既存プロダクトの継続開発に充てます。また、ビジネス・ディベロップメント系の人材を採用することでプロダクトを広めていきたい。さまざまな国で核家族化が進むなか、孫や子どもと会う機会が少なくて困っている人は世界中にいるはずです。そのような人たち全員にまごチャンネルを届けていきます」と今後の展望について話す。

チカク代表取締役の梶原健司氏

投稿者:

TechCrunch Japan

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