国際天文学連合(International Astronomical Union, IAU)がこのほど、StarLinkなどが製造している何千もの人工衛星からなる衛星コンステレーションの影響の可能性に関する初期的調査報告書を発表した。報告書は、地球からの天体観測に深刻な悪影響が及ぶ恐れがあるため、衛星の削減とルール作りが早急に必要だとしている。
同団体は2019年の夏に懸念を表明し、その後、衛星コンステレーションの影響に関する大規模な調査研究を、各地の天文台や組織の協力を求めて実施した。その一般的な感触は「最善を望み最悪に備える」というものだ。
IAUの推計によると、低地球軌道に数万の衛星があれば、地平線上には常時1500ほどの衛星が存在することになる。ただし、通常の天体観測の対象となる30度以上の上空にあるものは、250から300と少ない。
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その圧倒的多数は、まだ空が暗い早朝など、太陽の光が人工衛星の表面から反射する特定の時間帯以外は、肉眼で見えないだろう。しかし、これら膨大な数の人工衛星の可視性と反射性を下げる方策はすでに採られているが、実際の効果は未知数であり、今からでは何をするにも遅すぎる、という状況になることもありえる。
IAUがそれ以上に心配を指摘するのは、ルービン天文台から改名した大型シノプティック・サーベイ望遠鏡(Large Synoptic Survey Telescope、LSST)のような広域的観測に対する影響だ。そのような望遠鏡が行うおよそ30秒の露出のほぼ1/3は、頭上の衛星の影響を受けるだろう。そして高感度の機器が作る像への影響は、肉眼よりも鮮明だろう。
それを避ける方法はあるだろうが、IAUの声明から同団体のフラストレーションが伝わってくる。
理論的には軌道を正確に予測して、その通過時に必要に応じて観測を中断することで、新たな衛星の影響は軽減できるだろう。データ処理によって結果の画像をより鮮明にすることもできる。しかしながら大量の衛星による大量の飛跡は、天体観測のスケジュールと運用を損なう複雑で無視できないオーバヘッドを作り出すだろう。
言い換えると、衛星コンステレーションの事業者たちが何もしなければ、我々に対策をしなければならない。そしてそれには費用と欠陥が伴う、ということだ。
問題はすべて可視光線に関連している。衛星コンステレーションからの電波や、その他の目に見えない放射による観測の妨害は未知数である。
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結局のところ、IAUの声明は中立を装ってはいるものの、明らかにその本音では怒っている。
「暗い場所で見える美しい夜空を保護したい、という人々の意識はとても強い。それは捨ててはならない世界遺産と見なすべきだ。軌道を周回する人工物の輝度について、国際的に合意された規則や指針がない。今日までそれは、優先度の高い話題として取り上げられることすらなかったが、現在、ますます重要になりつつある。したがってIAUは今後、国連の外宇宙平和利用委員会の会議で常時その所見を述べ、世界の政府代表者たちの注意を、新たな宇宙計画が天文学と科学全般にもたらす脅威に向けていきたい」
ひと握りの企業が夜空を散らかすことを、彼らは天文台にじっと座ったまま黙認したくないのだ。
画像クレジット: IAU