豪州がフェイスブックとグーグルにニュース使用料支払いを義務付け

オーストラリアは、アドテク大手のFacebook(フェイスブック)とGoogle(グーグル)に、自社のソーシャルメディアプラットフォームに表示したニュースコンテンツであげた収益をニュースコンテンツを所有するメディア機関に支払わせる、法的拘束力のあるフレームワークを導入する方向だ。

オーストラリア政府は、テック大企業とメディア機関に自主的な協議と合意を働きかけたが進展が見られず、テック大企業の広告売上高をメディア機関に分配することを義務付ける指針を作成すると4月に発表していた。

7月31日、オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)は記事使用料に関する草案を明らかにした(ACCCプレスリリース)。そこには「地元ニュース機関と2大アドテク大手のフェイスブックとグーーグルの間にある「深刻な交渉力の不均衡」を解決するものだ」とある。

「ACCCは幅広いオプションについてのフィードバックを反映させた構想を5月に発表し、協議を重ねて今回の草案に至っている。40件以上の具申があった」とACCCは述べた。

草案では、ACCCはプラットフォームが支払い交渉を長引かせようとするのを回避する方法として、拘束力のある「最終決定」の仲裁プロセスを盛り込んだ。3カ月間「交渉と調停」を行い、それでも結論が出ない場合は独立した仲裁人が、双方が出す支払い提案のどちらが「より合理的か」を45日以内に決める。

「これにより、コンテンツ対価に関する意見の相違が素早く解決される。草案が法制化されれば、仲裁が必要となった場合、支払いに関する交渉は6カ月以内に妥結する」とACCCは書いている。

この規則は、メディア機関(ローカル、地域の出版会社など)が大手プラットフォーム上での自社コンテンツの使用について、良い条件が得られるよう合同で交渉できるようにすることも目的としている。

拘束力に関し、草案では誠実に交渉しない、最小限の関与を実行しないなどの不履行は罰金につながる、としている。罰金は最大1000万ドル(約10億円)、もしくは得た利益の3倍、または過去12カ月の豪州マーケットでの売上高の10%とされている。つまり、フェイスブックとグーグルは、そうした規則を破ったと認められた場合、何百万ドルもの罰金に直面する可能性があることになる。

規則適用の対象は広く、Google Newsなどのニュース専門のプロダクトを単にスイッチオフにすることでプラットフォームが支払いを回避するのを防ぐ意図がある。グーグルは実際、スペインでニューススニペット再使用で対価を支払う代わりにオフにした(まだオフのままだ)。しかしACCCの草案はGoogle検索とDiscoverも対象としていて、グーグルがコンテンツ代の支払いを避けるにはあらゆるオーストラリアのニュースコンテンツの表示を見合わせなければならなくなる。これはオフにするにはかなり大きなスイッチだ。

このほか草案で興味深い点は、ニュースやペイウォール対象のニュースのランキングへの口コミによるアクセスに「実際に影響を及ぼしそう」なアルゴリズムの変更を、1カ月(28日)前にニュース機関に通知することをプラットフォームに義務付けていることだ。ニュースの表示やプレゼンテーション、そしてニュースに直接関連する広告への「相当な」変更も通知義務付けの対象となる。

もう1つ注意をひくのは、プラットフォーム上でのユーザーのニュースコンテンツやり取りを介して集めるデータについて、「明確な情報」をニュース機関に提供することをプラットフォームに求めている点だ。ここでの情報とは、ユーザーが記事にどれくらいの時間を費やしたのか、特定の時間内に何本の記事を閲覧したのか、プラットフォームサービスでのユーザーのニュース閲覧に関するデータなどだ。

主要プラットフォームはインターネットユーザーがいかにコンテンツを扱っているかについての情報にコンテンツ制作者がアクセスするのをブロックすることでデータへのアクセスを独占できるようにしているが、アテンションエコノミーを支配し続けるために主要プラットフォームがマーケット支配力を使うという問題に取り組むためのもののようだ。

フェイスブックのようなプラットフォームは、他社のコンテンツを自社の都合のいいところに集めようとしてきた。インタラクションデータに自社だけがアクセスできるところにコンテンツが投稿されるようマーケット支配力を使っている。これによりニュース制作者とニュース視聴者のつながりは絶たれ、ニュース制作者が記事に関する分析を行ったり、変更や消費者動向のトレンドに対応するのは困難になる。

相当量のユーザーデータから遮断されると、ニュース機関は視聴者との緊密な関係の構築が難しくなる。視聴者との関係構築は、例えば購読などさらなる収入源の確保においてかなり重要だ。

「ニュース機関と主要なデジタルプラットフォームの間には深刻な交渉力の不均衡がある。これは部分的にはニュース機関がプラットフォームと取引せざるを得ないためであり、コンテンツや他の問題に関する支払いでプラットフォームと交渉する力はほとんどない」とACCCの委員長を務めるRod Sims(ロッド・シムズ)氏はコメントした。

「草案を作成する中で、ニュース対価を確保しようと取り組んだ海外の規制当局や議会のアプローチを参考にした。我々は深刻な交渉力の不均衡を解決し、コンテンツに対する正当な支払を実現するモデルを求めていた。非生産的で長々と続く交渉を回避し、グーグルとフェイスブック上でオーストラリアのニュースが引き続き利用できるようにするものだ」

「草案はこうした目的を達成していると確信している」と同氏は付け加えた。

草案には、アドテク大企業2社とメディア機関の間の力の不均衡をなくすことを目的とした提案も含まれている。1つには、サービス上でオリジナルのニュースコンテンツがわかるようにするということだ。これはExclusive(独占)ラベルのようなもので、「ファクトチェック」ラベルとともにプラットフォームは必要に応じて適用できる。

2社はまた、プラットフォームに投稿された個人のコンテンツへのコメントをオフにできるなど、ACCCが言うところの「フレキシブルなユーザーコメントモデレーションツール」をニュース機関に提供する必要がある。

ここでの意図は、ニュース機関と大手プラットフォーム2社がコンテンツをめぐる議論を形成するより良い方法を持てるよう仲介を増やすことだ。

規制の適用についてACCCは、「制作したオンラインニュースコンテンツが『オーストラリア国民にとって公益性がある問題を調査・説明するもの』、あるいは『オーストラリア国民が公に議論していて民主的な政策決定を示すもの、またはコミュニティや地元の出来事に関連する問題』であれば、プラットフォームのコンテンツ再使用に対してニュース機関は支払いを求めることができる」としている。

他にも、専門的な編集基準の最低レベルの維持、「適切な」編集の独立性の維持、主にオーストラリア人に提供するために国内で事業展開していること、年間売上高が15万ドル(約1600万円)以上であることなどが要件となる。

まずはフェイスブックとグーグルにのみ適用されることになる規制は(ACCCは2社と同様のマーケット支配力を持つ他のプラットフォームも対象となり得ると書いている)、ドラマやエンターテイメント、スポーツ放送など非ニュースコンテンツ制作会社を対象とするものではない。

草案についての声明で、グーグルのオーストラリア責任者であるMel Silva(メル・シルバ)氏は深い失望を表明した。

規則が前向きなもので、より良い未来に向けてニュース機関、デジタルプラットフォームの両方が協議することを促すようなプロセスを我々は期待していた。なので、我々はかなり失望していて、規則草案ではより良い未来の構築が達成できないと懸念している。政府の行き過ぎた干渉はオーストラリアのデジタルエコノミーを妨げ、我々がオーストラリア国民に提供できるサービスに影響を及ぼす。

規則は、Googleがニュース機関に提供しているかなりの価値を過小評価している。当社はオーストラリアのニュース機関に毎年何十億ものクリックを無料で提供していて、この価値は2億1800万ドル(約230億円)だ。マーケットを機能させるのではなくオーストラリア政府が干渉するという懸念すべきメッセージを事業者や投資家に送っている。また、2030年までにデジタルエコノミーを主導する存在になるというオーストラリアの野心に悪影響を与える。メディア部門を刷新するために誤った道をとることになり、デジタル時代に合うビジネスモデルを創出するための基本的な問題を何一つ解決しない。

オーストラリアの消費者の益になり、ウェブで生み出される共有の恩恵を守り、小さなニュース機関を犠牲にして大きなニュース機関のに有利とならないよう、最終的な規則が実用的なものになるよう議員に求める。

Facebookは、オーストラリア・ニュージーランドの責任者William Easton(ウィリアム・イーストン)氏が「『業界や我々のサービス、オーストラリアのニュースエコシステムへの投資に与える影響を理解するために』草案をレビューしている」との短いコメントを出した。

次のステップとしては、8月にさらに規制草案の審議が行われる。「その後すぐに」法制化される、とACCCは説明している。

草案の詳細はこちらで閲覧できる。

テック大手に適用する規制は複数の国で検討されている。米国の議員はかなりパワフルな米テック大手のマイナス要素を議論している。

ニュース広告売上を分配するというオーストラリアのアプローチで考えられる問題要素の1つは、FacebookとGoogleの監視資本主義という乱用モデルに取り組むものではないことだ。この問題は欧州当局が調査を続けている。大手プラットフォームは、行動ターゲティング広告のために消費者からプライバシーを奪うことで成り立っているデータマイニングビジネスモデルでメディアをさらに取り込むようだ。

時間潰しのクリックベイトから民主主義を歪める誤情報、ヘイトスピーチに至るまで、批評家は行動ターゲティング広告の多くの害を論じた。その一方で、さほど侵入的でないタイプのターゲット広告も利用可能だ(未訳記事)。

「プラットフォームユーザーのプライバシー」について草案で触れられている部分には次のようにある。「規制草案の最低基準は、デジタルプラットフォームにニュースコンテンツを通じて現在集めているデータについて明確な情報を提供することを求めている。ただし、規制はデジタルプラットフォームがニュース機関とのユーザーデータ共有を増やすことを要件としていない。したがって、規制はデジタルプラットフォームユーザーに適用される現在のプライバシー保護に影響を及ぼさない」。

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(翻訳:Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

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