配車サービスを提供している都市では性的暴行の発生率が低いとの調査結果

著者紹介:

Min-Seok Pang(パン・ミンソク)博士は、テンプル大学フォックスビジネススクールで経営情報システムの准教授、ミルトン・F・シュタウファーの主任研究員を務めている。

Jiyong Park(パク・ジヨン)博士は、ノースカロライナ大学グリーンズボロ校ブライアンスクールオブビジネスアンドエコノミクスの情報システム助教授である。

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2010年のUberのローンチ以来、配車サービスは多くの都市で最も主要な交通手段の1つに成長している。配車サービスのおかげで、旅行者は手を振ってタクシーを拾う労力から解放された。幸運にも都市で車を所有することができていたとしても、飲酒運転をする必要がなく、宝くじを当てるほどの確率ともいえる駐車場を探す必要もない選択肢が用意されている。

しかし、急成長を遂げたUberやLyftのような企業は、数々の批判やスキャンダルにもさらされている。このような危機の要因の1つは、ドライバーによる性的暴行やその他の犯罪事件が数多く発生していることにある。しかし、私たちの研究は驚くべき発見を示している。配車サービスは実際、性的暴行の発生を減少させるというものだ。

The Deterrent Effect of Ride-Sharing on Sexual Assault and Investigation of Situational Contingencies(性的暴行に対する配車サービスの抑止効果と状況的偶発事象の研究)」という論文の中で、私たちは2015年のニューヨーク市のUberの取引記録と犯罪報告に関する分析を行った。調査では、Uberの利用数の増加に応じて性的暴行事件が報告される可能性は低くなることが示されている。Uberの利用が1%増加すると性的暴行の認知件数が年間48件も減少するという結果がニューヨーク市で得られた。

私たちの詳細な分析によると、より興味深い知見が明らかになっている。具体的には、次のような交通手段の供給が需要をほとんど満たさない地域や状況において、配車サービスは性的暴行事件の大幅な減少に寄与することがわかった。

  • タクシーを拾える機会が少ない地域
  • マンハッタン以外のニューヨーク市行政区(ブルックリン、クイーンズ、スタテン島、ブロンクス)
  • 非白人居住者の割合が高い地域
  • 夜の時間帯
  • 平日の夜より金曜日や土曜日の夜の方がアルコールを提供する場所が多い地域
  • より多くの犯罪が発生している地域

それでは、配車サービスが性的暴行事件の報告件数の減少につながる要素は何であろうか。端的に言えば、犯罪被害者になりそうな人々をできるだけ早く安全な場所である自宅に移動させることである。

路上でタクシーを待ったり、地下鉄の駅まで8ブロック歩いたり、地下鉄に一人で乗車するというような、夜遅い時間帯には望ましくない状況から逃れる選択肢を配車サービスは提供する。私たちのデータによると、Uberの待ち時間はタクシーよりもかなり短く、都市郊外ではUberの方がより広く利用されている。2015年にはニューヨーク市の外側の区で乗車の約23%をUberが提供しており、これはマンハッタン(12%)のほぼ倍にあたる。マンハッタンから最も遠い地域であるベンソンハースト、クイーンズビレッジ、カンブリアハイツなどでは91%まで増加した。

Uberのモバイルプラットフォームを通じた需要(乗客)と供給(ドライバー)のリアルタイムマッチングがこうした状況を後押ししている。プラットフォームは乗客と運転手の位置を正確に把握しており、乗客と最寄りの運転手を瞬時に照合し、乗客の正確な位置を指示することができる。また、動的な価格設定により、ドライバーは市場の需要に即座に対応することができ、需要と供給の密接なマッチングに役立つ。

このプラットフォームのリアルタイムマッチングと動的価格設定は、配車サービスの犯罪抑止効果がマンハッタン郊外の方で強くなっている理由も説明している。前述の通り、乗客が路上でタクシーを見つけるのは難しい。同様に、タクシードライバーが通りで乗客を見つけるのも困難である。タクシードライバーは通常、空港、駅、ホテルなど人気のある送迎スポットの周囲を車で回ったり、その場所で待ったりするが、郊外でこれをするのは経済的とは言えない。乗客を見つけることが難しいため、ほとんどが人口密集地でサービスを提供する傾向がある。配車サービスはこうした交通輸送のギャップを埋め、犯罪被害者になりそうな人々が自宅まで簡単に移動できる環境を生み出している。

私たちは2005年から2017年の間にアメリカの他の都市でもこの影響について観察し、Uberがそれらの都市でサービスを開始したときに性的暴行事件の報告数が最大6%減少したことを確認した。

では、私たちの調査結果は政策立案者にとってどのような意味を持つだろうか。この研究で示されているのは、公共の安全と交通は相互に関連しており、市民のための信頼できる便利な交通インフラは犯罪を抑止するメカニズムになり得ることである。

例えば、恵まれない人々が住む多くの地域では犯罪が絶えず、公共交通機関も十分に行き届いていない。すでに述べたように、郊外や経済的に恵まれない地域において配車サービスの犯罪防止の役割が大きくなっている。これらの地域の交通インフラを整備することで、防犯をはじめとする多面的な価値を市民にもたらすことができると考えられる。

一部の地方自治体は、交通輸送ギャップの対策としてオンデマンド輸送サービスを開始している。このサービスでは、あらかじめ決められたスケジュールで路線を走るバスの代わりに、乗客はどこでも乗車をリクエストでき、バスがそれに応じて乗客を輸送する。学内の学生のための安全運転プログラムを運営する大学も多くなっている。この種の柔軟な交通システムは、自治体にとってより費用対効果が高いかたちで犯罪抑止の役割を果たすことができる。

顧客や従業員に信頼できる交通手段を提供することを目的とする企業は、ITを活用した交通プラットフォームの恩恵を受けており、新技術系スタートアップがその役割を担っている。例えば、医療機関と主要な配車業者の提携により患者に信頼性の高い移動手段を提供するUber HealthやLyft Healthなどがあり、患者と医療機関とのつながりに貢献している。

配車サービスのドライバーが危険な人物であることもあり得る。彼らが犯罪を犯すことはないと言っているわけではない。しかし一方では、UberやLyftで働く善良な人々によって、罪のない人々から危険な人物を遠ざける機運がもたらされることだろう。

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カテゴリー:シェアリングエコノミー
タグ:配車サービス Uber Lyft

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(翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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