フード産業向けに食品のセントラルキッチン機能などを提供するスパイスコードは2月8日、STRIVE、Coral Capital、食の未来ファンド、ほか未公開の個人投資家を引受先として2億円を調達したと発表した。これまでの累計調達金額は2億7500万円。
新型コロナウイルスによる影響で、飲食店は打撃を受けている。売上の減少によりコスト削減の圧力が高まり、イートイン店舗の省略化やデリバリー対応に頭を悩ませる店舗も多い。そんななか、スパイスコードが提供する「ロカルメオーダー」は、このフード産業のDXを推進することでサプライチェーンの最適化を進め、飲食店が抱える問題を解決しようとしている。
同サービスは、飲食店のオリジナルメニューの仕込みや加工をネットで外注できるというサービスだ。飲食店は、仕込み調理やEコマース商品の製造などを外注することで、本来プロの料理人が最も注力すべき「提供前調理(客に提供する前の仕上げの調理)」など、クリエイティビティの高いタスクに集中することができる。こうすることで、慢性的な人手不足にも対応できるほか、飲食店で働く人々の労働時間の改善にもつながる。
使い方もとても簡単で、飲食店はラインを使ってロカルメオーダーの申し込みができ、後日送られてくるキットにレシピと試食用のサンプルを送るだけだ。あとは、チームにプロのシェフも抱えるスパイスコードがそのレシピの味を忠実に再現し、工場生産用の手順書に落としこむ。そして、スパイスコードがオンラインでネットワーク化する食品工場と協力して料理を作り出す。僕のような料理初心者からすると、料理の世界は一種のアートのようで本当にレシピの再現ができるのか疑問だったが、スパイスコード代表の中河宏文氏によれば、「料理長くらいの経験を持つシェフであれば、レシピの再現は十分に可能だ」と話す。
食のOEM自体はこれまでも行われてきたが、これまでは飲食チェーンが直接食品工場に発注しており、手作りにおける手順とは違う工場製造の手順づくりや味の再現などに時間がかかっていた。また、最低発注ロットも通常200キログラムからと発注までのハードルが高かった。それと比較して、ロカルメオーダーではレシピの再現から外注でき、また複数の発注を同社が取りまとめていることから、発注も120キログラムからと比較的少ないロットでも発注可能というメリットがある。現在、高級フレンチ料理店のひらまつや居酒屋チェーンのジリオンなど数十社がロカルメオーダーを利用しているという。
地道なDX
CEOの中河氏は、mixiでクライアントアプリチームのリードエンジニアを務めたあと、運転者用スマホアプリなどを提供するDrivemodeを米国で共同創業(のちに本田技術研究所に売却)した経験を持つ人物。帰国後はメルカリのAIチームをTech Leadも務めている。フード産業から離れた業界をフィールドにしてきた彼だが、シェフである妻の話を聞き、この産業でのDXを実現することが重要だと感じ、スパイスコードに参画したという(CTOとして参画し、のちにCEOに就任)。
しかし、慣れない業界で新しいビジネスを起こすには、商慣習に合わせてツールを調整するなどの苦労があったとも中河氏は話す。申し込みにLINEを利用しているのもその理由の1つだ。当初はネイティブアプリを作ることも考えていたが、飲食店側にまったく受け入れられず、彼らが普段から使用しているLINEを利用する作戦に変更した。飲食店は日ごろから、近くの八百屋さんにLINEでトマトを発注するなど日常業務でLINEを使うことに慣れていたのだ。また、食品工場をオンラインでネットワーク化する部分にも苦労があった。ある工場にはWi-Fiすらなく、スパイスコード側でSIMカードを入れ込んだChromebookを用意するなんてこともあったそうだ。
今後はAI技術によるレシピ再現の自動化へ
スパイスコードは今後、さまざまな面で食のサプライチェーンの最適化を進めるとともに、テクノロジーの活用を進める。サプライチェーンの最適化という点では、配送の集約や工場生産であまった部位を利用したオリジナル商品を開発する。また、エンジニアである中河氏をはじめ、元メルカリの機械学習エンジニアが揃うチームによってレシピ再現の自動化などを進めていきたい考えだ。
「飲食店から送られてきたレシピには、欠損している情報が多々ある。そこをAIの技術で埋めて、自動的に工場生産の手順書まで落とし込むことに今後挑戦したい」(中河氏)
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