Bitcoinのブロックサイズ問題、新星とマイニングを巡る攻防


Bitcoinは今重要な分岐点にいる。世界規模で重要な存在として持ち上がろうとしているのと同時に、存在の継続が危ぶまれる問題に直面している。どの問題を指しているかって?愚問だ。いつも通り、全ての問題が一気に噴出しようとしている。私もこれが冗談であって欲しいと思っている。

Bitcoinを為替相場だけで判断する者は、2015年内の相場は225USドル前後を行き来し、非常に安定した期間に入ったと騙されていることだろう。しかし、ここ数ヶ月で多くのことが起きた。それらを、項目ごとに分けると以下のようになる。

Bitcoinのプロトコル変更に関する協議が大きな波紋を呼んでいる。この分野に関わっている人の中には、変更が行われなければ、近い将来、とんでもない被害を引き起こすと予見している。

Bitcoinのブロックサイズを増量するという議論だ。簡単に復習しておこう。Bitcoinは、ブロックチェーンと呼ばれる分散したデータで構成されている。「ブロック」とは、数百の承認された取引履歴の集まりだ。それぞれのブロックは、前のブロックとつながっていることから、ブロックチェーンと呼ばれている。現在、一つのブロックには1メガバイトの上限がある。これにより世界中で行われるBitcoinの取引は、 毎秒、7取引程度に限定する効果を発揮している。しかし、ネットワーク容量の上限を超えた場合、仮想通貨のメルトダウンが起きるのではないかと懸念されている。

ブロックサイズの問題は、Bitcoinのコミュニティーにとって根深い問題だ。なぜなら「マイナー(採掘者)」と呼ばれるBitcoinの取引を認証し、それによりBitcoinの支払いを受ける人は、この変更で利益が減ることになるかもしれないからだ。Bitcoinは、マイナーの統治、あるいは統治の欠如と言える問題に直面している。Michael CaseyがWall Street JournalのBitBeatのコラムに掲載している記事に詳細がまとめられている。

それまで姿を隠していた(潤沢な資金を持つ)Bitcoinスタートアップの21が、世界を制覇するための計画を公表した。

Andreessen HorowitzのパートナーBalaji Srinivasanが、1億1600万ドルのスタートアップで大胆な計画を立てているとは思っていたが、その通りだったようだ。彼の目標は「全ての手をBitcoinのマイナーに」ということだ。21は、独自のBitcoin採掘チップを開発していて、直に次世代型のサーバーやモバイル端末に導入することを目論んでいる。「採掘機能を埋め込むことで、最終的にBitcoinは、CPU、帯域幅、ハードドライブの容量、RAMといった基本的なシステムリソースと同列のものとして確立することになる」と記している。これが大胆でないと言うのなら、他に何があるのだろうか?とても感嘆した。

しかし、この大胆な計画に懐疑的な人も少なくないようだ。

 (訳:21チップの導入による経済への影響。スケールと中央への集約による負の経済は大きな問題だ

もちろん、それには理由がある。まずBitcoinの採掘には相当なエネルギーが必要のため、モバイル端末への搭載が適当かどうかは疑わしい。Srinivasanは「採掘機能が埋め込まれるということは、どの端末でも、1Satoshiを特定のアドレスに送信するだけで、ネットワークの承認ができるようになる」と伝えている。しかし、今はまだ通常のBitcoinのプロトコルの性質上、そのような取引が処理されることはないだろう。また、21.coは当初のビジネスモデルからピボットして、このモデルに行き着いたことも考慮に入れておくべきだろう。「この企業は、熾烈なBitcoinの採掘ビジネスで、利益を得る困難さに直面し、ピボットせざる負えなかった」。

しかし彼らの登場は、喜ばしいことでもある。Bitcoinの熱烈な信者は、未だに定義が曖昧な「機械と機械間のマイクロ取引」に無限の可能性を感じている。(これは悪いことではないと思う。私自身もこの可能性に期待している部分もある。)21の発表があるまで、何百万というデバイスがBitcoinを利用して、取引を行う世界がどのように実現するのか、誰も明確にイメージすることができなかったのだ。

(ハードウェアの採掘チップではなく、安い電力が利用できる場所をハブとしてBitcoinを採掘し、Bitcoinウォレットのソフトウェアを介して仮想通貨を端末に送付すれば良いと思う人もいるだろう。それも一理ある。ただ変動する数のデバイスに通貨を絶え間なく送るという採掘プロセスは、想像以上に柔軟で分散できるものなのだ。中央となるハブを必要としない独立した採掘プールでは特にそれが顕著である。)

世界中の多くの人が魅力的に思う、初めてのBitcoinが使えるアプリがようやくローンチされた。

Bitcoinの熱狂的なファンでなくてもBitcoinが便利だと分かるアプリの誕生を多くの人が待ち望んでいた。そして遂に、一つのサービスが誕生した。何千というBitcoinの開発者が額に手を当て「なんで今まで思いつかなかったんだ?」と思うような、驚くほどシンプルなアプリだ。

MeerkatやPeriscopeと同じような流れでStreamiumが誕生した。「ライブ配信でお金を得よう」というコピーが付いている。Bitcoinウォレットのアドレスを掲載するだけで、世界中のどこにいる視聴者からでも代金を受け取ることができる。PayPalや銀行口座、クレジットカードの認証といった仲介サービスは何ひとつ必要ない。

多くの人が使うようになるかと聞かれたら、そうではないかもしれない。しかし、Bitcoinの魅力が何であるかを伝えるには充分だ。Bitcoinを使うことで便利になる状況を想像することができるだろう。例えば、リモートで何かを学んだり、重大な出来事が行われている現場の中継を見たりする時の取引が簡単になる。難しい技術的な知識は必要ない。

(Streamiumがアルゼンチンで誕生したのは、偶然ではないだろう。今のところアルゼンチンでは世界中のどの地域よりも、Bitcoinが主要な決済手段として受け入れられている。

ウォール街がBitcoinを試し始めた。

ニューヨーク証券取引所は、Bitcoinの指標をローンチした。NASDAQは、「ブロックチェーン技術を活用」する計画を発表した。Goldman Sachsは、BitcoinのスタートアップCircleの 5000万ドルが集まった資金調達ラウンドに参加した。勝算があるのだろう。しかし、同時に懸念もしている。

Bitcoinの採掘は、Bitcoinの重荷であり、頭痛の要因でもある。

私は、仮想通貨に楽観的な見方はしていない。Bitcoinの未来は不確実なもので、大惨事を引き起こす可能性もある。そして、それはBitcoinの採掘が要因だ。

(訳:同感。ビットコインのファンとしては、インセンティブに依存しないことに本来の意味がある。でなければ、名が知られていないCitiBankだ。)

採掘というのは、考えてみると、理解しがたいものだ。Wikipediaによると「理論上は成立しないが、実践することで成立する」と書いてある。データセンターは世界中に分散していて、そこには誰かが制作した無数のチップの大群が、毎秒何千兆ものHashcashの計算を猛烈な勢いで行っている。新しく発掘した仮想通貨と引き換えに、Bitcoinのネットワークを支えているのだ。

結果的にBitcoinは、極端に採掘を集約したい流れとマイナーによる重要なプロトコルの進化を妨げる流れの中で上手く舵を取らなければならない。このように聞くと、採掘はBitcoinのアキレス腱のようだ。正確には、Bitcoin自体が致命的な弱点のあるヒーロー、アキレスなのだ。採掘はBitcoinを動かすエンジンで、このコンピューター主導のネットワークを強力なものとしている。そして採掘のインセンティブが、一つのコンピューターで始まった奇妙なソフトウェア実験を世界規模の仮想通貨のネットワークに成長させた。そして遂にBitcoinのネットワークは何十億ドルの価値を持つまでになった。

(Bitcoinとそれに類似するネットワークの魅力は、完全に分散されたシステムが持つ確固たる力にあると思う。 電子通貨に限ったことではない。他にもこのようなシステムが成功している事例が出てきている。)

(訳:Satoshiの法則:全ての一点集中型のシステムは崩れ去り、分散型のシステムに置き換えられる。)

しかし、やはり同時に「採掘の問題が気になって眠れない」とBitcoinの中核となる開発者Gregory Maxwell も、昨年私が参加したカンファレンスで認めていた。彼と仲間の中核となる開発者は、Bitcoinの日に日に大きくなる傷口を修復して、革新を続けようと 、ある程度は動いているようだ。だがBitcoinのマイナーは彼らの足を引っ張っている。マイナーが全体のネットワークの前進を妨げないことを期待しよう。実に興味深い時期に私たちはいる。

[原文へ]

(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。