クラウド会計のfreee、家計簿アプリのマネーフォワード、名刺管理のSansan、ビジネスSNSのWantedly、コミュニケーションツールのChatWorkなどに代表されるクラウドサービス。もはや、これらのサービス名を一度も聞いたことがない人など皆無だろう。TechCrunch Japan読者には、これらのサービスのヘビーユーザーだという人も多くいるはずだ。
また、2016年1月にChatWorkが15億円、2016年10月にマネーフォワードが11億円、2016年12月にはfreeeが33.5億円を調達するなど、近年クラウドサービスを提供するスタートアップの大型資金調達ニュースをよく耳にするようになり、業界内での存在感も年々増している。
そんな中、クラウドサービスの比較サイト「ボクシル」を運営するスマートキャンプは、SaaS業界の全体像やトレンドをまとめた「SaaS業界レポート 2016-2017」を公開した。
SaaS市場は年平均成長率10%のスピードで成長
本レポートによれば、クラウドサービスの普及率は毎年増加しており、2015年末には40%を超える企業がクラウドサービスを利用しているという。なかでも、SaaS市場は年平均成長率10%を超える勢いで成長。2015年はおよそ1兆円だった市場規模が、2020年には1.3兆円になる見通しだ。
特に、デジタルマーケティング、ビッグデータ、人工知能、働き方をテーマとしたサービスは今後大きく成長すると見られている。
導入の決め手はイニシャルコストの低さと運用の容易さ
企業がクラウドサービスを利用する理由を聞いたアンケート結果を見てみると、「保守体制を社内に持つ必要がない」、「どこでもサービスを利用できる」、「初期導入コストが安価」などの意見が多いことが分かる。クラウドサービスならではの、低いイニシャルコストや運用の容易さが導入の決め手となっているようだ。
ただ、逆にクラウドサービスを利用していない理由を見てみると、セキュリティへの不安の声をおさえて「必要がない」という意見が42.9%で一番多い。企業はすでに導入しているオンプレミス型のシステムで十分だと思っているか、もしくはクラウドサービスの魅力や必要性が伝わっていない可能性がある。
クラウドサービスの普及率は、業務の種類や領域によっても異なるようだ。ファイル保管や給与計算などの汎用業務ではクラウドサービスの普及が進んでいる。その一方で、生産管理や決済システムなど、カスタマイズ性が求められる業務では普及が進んでいない。このような領域では、高度なカスタマイズが可能なオンプレミス型に軍配が上がる。
SaaS業界を取り巻くトレンド
本レポートを公開したスマートキャンプは、いまのSaaS業界には6つのトレンドがあると主張する:
- エコシステムの構築
- プラットフォーム化
- Vertical SaaSの台頭
- UI/UXの最適化
- 人工知能の活用
- 新たな脅威・無駄対策(セキュリティなど)
本レポートではSaaSを2つの種類に分けて説明している。業界を問わず特定の部門や機能に特化した”Horizontal SaaS”と、特定の業界に特化した”Vertical SaaS”だ。
マネーフォワードやSansanなどのサービスはHorizontal SaaSに当てはまる。現在はこちらのタイプが業界の主流となっていて、数も多い。もう一方のVertical SaaSの例としては、飲食分野のユビレジや教育のCAMPUS4などがある。スマートキャンプが作成した以下のカオスマップを参考にしてほしい。
Horizontal SaaS業界はベンダー同士が連携してエコシステムを構築することで付加価値を高める”SaaS 3.0”の時代に突入したとスマートキャンプは主張する。その一方で、スマートキャンプが「台頭し始めている」と表現するVeritical SaaSは、ベンダーが1つのサービスをポイントソリューションとして提供する”SaaS 1.0”から、ベンダーが自社のサービス同士を連携させることで付加価値を高める”SaaS 2.0”へ移行する途中の段階だとしている。
実際、Horizontal SaaSに属するマネーフォワードは、他のHRサービスと連携できるようにAPIを公開しているし、メガバンクが公開する「更新系API」を活用した機能を実装している。
これが本レポートが言うところの「エコシステムの構築」と呼ばれるトレンドだ。つい先日の5月26日、更新APIの利用を促す内容が盛り込まれた改正銀行法(概要PDF)が成立したばかりということもあり、このトレンドが現在進行中でかつ一番大きなトレンドではないだろうか。
他の5つのトレンドの説明を含む本レポートの全文は、こちらのWebページからダウンロードできる(レポートの購読には無料の会員登録が必要だ)。