海は無数のさまざまな産業にとって重要だ。しかし、海全体がどのような状態にあるのかを常に把握することは、依然として難しい。Sofar Ocean Technologies(ソーファー・オーシャン・テクノロジーズ)とDARPA(米国防衛高等研究計画局)は、新世代の海洋観測フロートなどの機器の開発を促すために「Bristlemouth(ブリストルマウス)」呼ばれる海洋ハードウェアのオープン標準を策定している。これによって研究者は、貴重な助成金を無駄にして同じ工学的問題を一から解決するのではなく、既製の選択肢を利用することができるようになる。
Sofarは自らを「リアルタイム海洋情報プラットフォーム」と呼んでいる。これは7つの海に関する天気予報のようなものだと考えればいいだろう。しかし大気とは違って、海洋は衛星やレーダーによる遠隔観測が容易ではない。海の運動、塩分、汚染物質の濃度、温度などを把握するには、実際に波に揺られている何百あるいは何千もの機器を必要とする。
同社はフロートセンサーによる独自のネットワークを維持し、価値あるデータを作成して、さまざまな関係者に販売することを事業としている一方で、それだけに留まらず、海洋センシング業界全体を発展させたいとも考えている。同社CTOのEvan Shapiro(エヴァン・シャピーロ)氏は、そのための最良の方法の1つとして、ハードウェアとソフトウェアのオープンな規格を作ることを提案している。
現在、ハードウェアの接続規格が存在しないことは、開発やイノベーションの大きな妨げになっている。「今日では、新しい海洋技術の開発に割り当てられている予算の大部分が、実際の海洋イノベーションではなく、電力、データ、通信の接続性といった基本的な技術的ボトルネックの解決に向けて費やされているのです」と、シャピーロ氏はTechCrunchに語った。
これは、宇宙関連企業がいくつかの標準的なバスや宇宙船を利用するという考え方にまとまり始めた状況と、よく似ている。宇宙塵の観測や大気圏外における放射線量の測定といったことが研究目標であるならば、宇宙船の製造ではなく、それらの機器に時間と資金を費やしたいものだ。人々は「車輪の再発明」をするよりも、標準的な宇宙船を購入してカスタマイズした方がいいと思うに違いないと、Rocket Lab(ロケット・ラボ)のような企業が考えているのとちょうど同じように、海洋関連の研究者は重要な技術に集中したいと思っているはずだと、Sofarは考えた。
「電力システム、衛星テレメトリ、GPS、イルカ探知用ハイドロフォンを搭載したフロートを作りたいと思う人はまずいません。まずイルカ探知用ハイドロフォンを作りたいと思っても、現在のような(ハードウェアの標準化が進んでいない)環境では、残りの部分も結局は一から作らなければなりません。SofarによるBristlemouthの商業的採用とサポートは、このエコシステムの価値に弾みを付けるために不可欠です」と、シャピーロ氏は言いながらも、このような試みは過去にも行われたことがあると指摘した。「我々が初めて、標準化の必要性を認識したわけでも、初めてこの問題に本格的に取り組んだわけでもありません。しかし、大規模な商用プラットフォームを提供したのは当社が初めてです。例えば、USBがバークレーの報告書ではなく、Intel(インテル)、IBM、Microsoft(マイクロソフト)から登場したのには理由があります。我々はこの分野で最も影響力のある企業や団体とパートナーシップを組んでそれを行っています」。
その中には、DARPAやOffice of Naval Research(米国海軍研究局)、自然保護団体のOceankind(オーシャンカインド)も含まれている。海洋観測から得られるデータが増えることは、科学や産業にとって良いことに違いないというのが、全関係者の共通認識である。
この標準規格そのものについては、民生用技術の観点から見て特にエキサイティングなものではない。これはキットやリファレンスモデルではなく(上の画像はSofarのスマートブイの1つだが、いくつかの共通点がある)、主にモジュール性と相互運用性に焦点を当てたハードウェアとソフトウェアのパッケージだ。「Bristlemouth Basic(ブリストルマウス・ベーシック)」のような製品を購入してアップグレードするというものではなく、この業界の多くの人達が、電源管理や通信など、基本的なステップをカバーする共有規格を設計し、それによって作られた機器が簡単に連携できるようにするという考え方である。詳細な情報は、Bristlemouthの公式サイトに掲載されている。
海洋インテリジェンスは、海藻の養殖から自動操縦船や気候変動監視まで、海に関わるあらゆる産業で重要な役割を果たす。Bristlemouthのようなものが、これらの領域を制限しているデータ不足を緩和することができれば「ブルーエコノミー」はより早く、より安全にもたらされることだろう。
画像クレジット:Sofar Ocean Technologies
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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)