SPACはVCがクリーンテックに資金を提供するために必要なツール

【著者紹介】本稿著者のBrian Walsh(ブライアン・ウォルシュ)氏は、中南米の大手エネルギー企業であるCOPECのベンチャーキャピタル部門WIND Venturesの責任者だ。U.S. WIND Venturesは、モビリティ、エネルギー、小売分野のスタートアップやスケールアップに中南米へのアクセスを提供している。

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気候変動や世界的なエネルギー需要の増大を背景に、再生可能エネルギーやエネルギー貯蔵から原子力発電に至るまで、新たなクリーンテクノロジーに注目が集まっている。こうした技術には大きな可能性があるが、多くのイノベーションが必要であり、イノベーションには豊富な資本が必要だ。

しかし問題は、アーリーステージのクリーンテックへの資金供給が十分に行われず、新エネルギー企業の成長を阻害しているのはなぜかということだ。一般に、クリーンテック企業は敏捷性と柔軟性というスタートアップの利点を欠いている。

「迅速に動く」ことは消費者向けモバイルアプリやSaaSソリューションなどの製品では機能する。一方、クリーンテックセクターは高度に規制され、資本集約的で、ミッションクリティカルなインフラに関わる傾向がある。

それがリターンと善意に基づく影響力の両方を傷つけた。Cambridge Associatesによると、ベンチャーキャピタルが投資した企業の2000年以降の内部収益率(IRR)は平均してマイナス15%だった。これをベンチャーキャピタルが投資したヘルスケア企業と比べてほしい。同じ期間のIRRは24%だった。

クリーンテックに資金が不足している理由

テクノロジーを通じて世界をより良く、よりクリーンで、より安全で、より健康的な場所にするというその目的は高貴なものだ。しかし、クリーンテックベンチャーキャピタルは苦しんできた。理由は、単にクリーンテックが従来のベンチャーキャピタルモデルに合わないということだ。ベンチャーキャピタルモデルの中心となるのは、新しいアイデアのリスクを軽減し、最も有望なアイデアを大幅に活用して、M&Aまたは新規株式公開(IPO)により流動性をもたらす機能だ。

アーリーステージのクリーンテックへの資金供給は十分に行われず、新エネルギー企業の成長を阻害している。

ベンチャーキャピタルという仕組みがVC自身に投資リターンをもたらすだけでなく、ベンチャーキャピタルの投資評価額の上昇を通じてさらなる資金調達を可能にする。こうした資本化イベントにより、ベンチャーキャピタルから投資を受ける企業は成長を加速し、市場への影響を最大化することもできる。

これがどのように機能するかは、ヘルスケアとクリーンテックを比較すると明らかになる。ヘルスケアでは、VCが新しいイノベーションのリスクを軽減する。そして毎年、より成熟したイノベーションが得られたり、IPOを達成したりしている。その結果、2012年以降、VCの投資金額に対するイグジット時の調達金額の平均年率は1.8となっている。この比率は、クリーンテックではわずか0.2であり、反対方向に800%以上の差がある。このため、クリーンテック企業のリターンは低く、時価総額も抑えられている。

「SPAC」で(もう一度)検索してほしい

世界の環境の状況と新興国に豊富なエネルギーがないことを踏まえ、私たちはこうした問題をまとめて解決する必要がある。特別買収目的会社(SPAC)はクリーンテックが必要とするベンチャーキャピタル機能を大幅に改善している。Investopediaによると、

SPACは、既存の会社を買収するために新規株式公開(IPO)を通じて資金を調達する目的で設立される、商業活動を行わない会社である。

「ブランクチェック(白紙小切手)会社」としても知られるSPACは、何十年も前から存在している。近年人気が出ており、アンダーライターや投資家のビッグネームを引きつけ、2019年に記録的な金額のIPO資金を調達した。

2020年には110社を超えるSPACが米国で取引を完了し、290億ドル(約3兆450億円)以上の資本がもたらされた。

2020年、SPACからFisker、Lordstown Motors、QuantumScape、Hyliion、XL Fleetなどのクリーンテック企業に合計約40億ドル(約4200億円)の資本が投入された。これにより、同年にベンチャーキャピタルの投資金額に対するイグジット時の調達金額の比率は、以前の平均0.2からはるかに健全な0.6に押し上げられ、200%向上した。

2021年にはさらに改善すると思われる。なぜか。クリーンテックに携わる合併対象会社を探したり決めたりしようとするアクティブなSPACが43社存在するためだ。これらのSPACが合計120億ドル(約1兆2600億円)の成長資本を提供する可能性がある。2021年にこれ以上新しいSPACが現れず、M&AとIPOが歴史的低水準になっても、2021年はクリーンテックへの投資の継続的な改善が約束されている。

Nikolaを悪しき前例にするな

最も注目を集めたクリーンテックSPACの1つはNikola Corporationだ。バッテリー式で水素を動力源とするトラックを製造する同社は、2020年6月に特別買収会社VectoIQとの逆さ合併により公開して以来、注目の的となってきた。時価総額は急上昇し、事態は順調に進んでいるように見えたが、2020年末に同社の技術などについて虚偽の発言をしたとして非難され、物議を醸した。

Nikolaのような例は、クリーンテックへの投資促進手段としてのSPACの台頭を阻む汚点となる可能性があるが、そうなってはならない。品質と誠実さを主張するスタートアップの例はたくさんある。たとえばエネルギー貯蔵最適化分野のリーダーであるStem(Wind Venturesのポートフォリオカンパニー)は、Star Peak SPACを介して公開する予定であり、現在SECの承認待ちだ。

公開市場は熱意を持ってSPACを迎えている。Stemの合併が起こると仮定すると、成長を加速し、影響を促進するために4億5000万ドル(約470億円)を超える現金を保有することになる。クリーンテックを機能させ、繁栄するセクターとするために必要かつ前向きなベンチャーキャピタル機能としてのSPACの例だ。

私自身、長年のクリーンテックベンチャーキャピタリストとして、SPACを介した公開市場での投資がクリーンテックにとってVC機能に代わる可能性があることは興味深い。何年もの間、企業がこの問題を解決するためにプレミアムを乗せたバリュエーションでM&A活動を強化すると思っていた。だが私は、長い間待ち続けることとなった。

活動から判断すると、企業は「所有」の役割ではなく、依然として非常に重要な投資家や育成者の役割を果たし続けることに満足しているようだ。とにかく、有望なクリーンテック企業に資金を提供するということが意味するのはたった1つ。これらの企業は資本を必要とし、また規模を拡大するためにそれを使用する中で、クリーンテック関連のインパクトがかつてないほど大きくなっているということだ。

新しい優れたクリーンテクノロジー企業を見つけて資金を提供するための、新しくより多様なアプローチが切実に必要とされている。SPACは、クリーンテックをヘルスケアなどのセクターと同等にするために必要なツールになると思われる。それは私たち全員にメリットがある発展だ。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:SPAC

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(文:Brian Walsh、翻訳:Nariko Mizoguchi)

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TechCrunch Japan

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