VCを真に21世紀らしい姿へと導く方法

TechCrunchは過去の記事で、真に多様性のあるベンチャー業界を築くためには、VCに投資資本を出資するリミテッドパートナー(大学や病院などの機関)自体に多様性の義務を徹底する必要があるということに言及した。あるベンチャーファームがテキサス大学からの投資を確保したいとする。この場合、資本の一定割合を、女性や人種的マイノリティなどの過小評価グループによって設立されたスタートアップに投入するということに、あらかじめ書面にて同意を得ることが求められる。

機関投資の世界がいかに細分化されているかを考えると、この考えは非現実的に聞こえるかもしれない。しかし、シリコンバレーで少数派ながら増え続けている黒人VCの1人であるLo Toney(ロー・トニー)氏は、これが必然となる可能性は十分にあると提唱している。例えば、カリフォルニア州職員退職年金基金は160万人の職員の資産を管理しているが、この160万人の多くが「私のような見た目の人々」だとトニー氏は言う。こうした職員たちが、彼らの資産を誰が管理しているのか知ろうとするとどうなるだろうか。

トニー氏はこの進展をただ待っているわけではない。その必要がないのだ。Comcast Ventures、GVでパートナーを歴任したトニー氏は、ベンチャーチームへの資金提供とスタートアップへの直接投資を実施してきた自身の投資会社であるPlexo Capitalのアンカー投資家として、Alphabetを確保している。

そして、スタートアップ業界全体において有色人種が少ないという事実が新たに関心を集めている今、LPらは再びPlexoに関心を寄せ始めている。Plexoの2つ目のファンドでは、ファンドマネージャーをサポートするだけでなく、彼ら自身のベンチャーファームを形成する有色人種の投資家を支援することも計画に含まれている。

これはすでに行っている事業の延長線上にある。Ford Foundation、Intel、Cisco Systems、Royal Bank of Canada、HamptonUniversityなどから2018年に4250万ドル(約46億円)のデビューファンドを調達してクローズしたPlexoは、Precursor VenturesIngressive CapitalKindred VenturesEqual VenturesBoldstart VenturesWork-Benchなどすでに20のファンドに出資している。

出資先のほとんどが、完全または部分的に有色人種によって運営されているものだ。「ハーバードやマッキンゼーによる研究でも、すべてのレベルで多様性がいかに重要であるかが証明されています。多様な取締役会を持つ企業や多様な経営チームを持つ上場企業など、マネジメント層が多様な組織の方が優れたパフォーマンスを発揮しているのです」とトニー氏は説明する。

2つ目のファンドでは、さらに多様性を重視した方向へ進みたいと同氏は考えている。具体的に言うと、Plexoは「優れた投資家」を「優れたファンドマネージャー」に変える、「ある種のYコンビネーターの開発」を目指していると言う。

そのアイデアの一環は、マネージャーがマーケティング資料の準備をするのを手伝い、富裕層や機関などに戦略を売り込み、投資家の基盤が整った後にLPとのコミュニケーションを管理するという、Plexoがすでに臨時的に行っている作業を制度化することだ。そしてこの3点はPlexoが手助けすることのできるほんの一部であると同氏は言う。

Plexoはまた「ファンドを開始するためには平均して100万ドル(約1億7000万円)かかるという事実を前提に、若いGPの多くを運転資金の面で支援し、必要な費用を負担できるようするための戦略を検討している」という。これは、資金調達プロセス中の無給期間、旅費、サービスプロバイダー、GPが通常資金に投入しなければならない金額など、すべてを考慮した上でのことだ。

これは個々の企業に投資するよりも、この方法の方が物事を迅速に進めることができるだろうと考えるPlexoのビジネスモデルである。しかしこれはPlexo単体で実現できるものではない。Bessemer Venture PartnersのElliott Robinson(エリオット・ロビンソン)氏、Storm VenturesのFrederik Groce(フレデリック・グロース)氏、小売スタートアップであるDolls KillのSydney Sykes(シドニー・サイクス)氏など、黒人ベンチャー投資家を結び付け、前進させることを目的としたBLCK VCと呼ばれる若い組織を率いるPlexoの友人や協力者においても同様のことが言える。

トニー氏は特に大規模で後期ステージにあるベンチャーファームにいる少数の有色人種に関して懸念し続けている。スタートアップが成熟するにつれ、黒人の起業家をサポートするためのネットワークとノウハウを保有しているであろう投資家たちである。

これは当然の懸念である。デジタルメディアThe Informationの2018年の報告によると、運用資産2億5000万ドル(約270億円)以上のベンチャーファーム102社において、黒人の意思決定者はわずか7名しか存在せず、この数字は現在もほぼ変わっていない。女性の黒人投資家にとってはより深刻なものである。

この業界も時間の経過とともに徐々に、過小評価グループをより受け入れて行くことになるだろう。しかし、連邦政府の資金を得ている機関や公務員の資産を管理している機関がこの問題により注力することを決めれば、はるかに早く解決へと向かうはずだ。実際に、こういった機関の構成要素(年金基金拠出を通じての援助資金供与者や職員を含む)が最終的にはそれを主張するはずである。

「団体として資産クラス内で実際に変化をもたらすような力と影響力を実現している例はあまり見られません。私自身はいかなる取り組みにも参加していませんし、想像でしかありませんが、今後より多くの年金基金が明確な姿勢を示し、職員から発生するボトムアップによるシフトが訪れると思います」とトニー氏は言う。

ことが進むまでにはそれほど時間がかからないかもしれない。「例えば『黒人のパートナーは何人いますか?』『女性は何人?』『ポートフォリオの構成はどういったものですか?』など、単に質問するだけでも私たちの業界に圧力をかけることができるでしょう。」

「最初のステップとして、こういった質問をするだけでも状況を変えるよう影響を与えることができます。なぜなら、このような質問に答えるときには誰も悪者になりたくないからです」とトニー氏は語る。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ

タグ:差別 インタビュー

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(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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