【編集部注】執筆者のChris Quinteroは、Boltでアソシエイトを務めている。同社はシードステージの企業を支援するファンドで、資本のほかにも、スタッフやプロトタイピング施設、専門知識などを、ハードウェアとソフトウェアどちらの開発も行っているスタートアップに対して提供している。
私たちは、まだハードウェアルネサンスの初期段階にいる。開発コストの低下や、製品を市場に届けるまでの期間の短縮、また、ハードウェアビジネスの性質が、コモディティ化した家電製品から定期収益型のソフトウェアサービスへと移行したことなどを背景に、VCはハードウェアスタートアップへの投資を加速させてきた。
昨年TechCrunchでは、ハードウェアスタートアップへの投資資金の爆発的な増加に関する記事を公開し、投資額が4年前と比べて30倍以上になっていることがわかった。その後何が起きているのだろうか?ハードウェア業界は、盛り上がりに見合った成長を遂げているのだろうか?以下が私たちの調査結果だ。
増加を続ける投資額
全体で見たときには、VCによる投資額の伸びが鈍化している一方、ハードウェア企業は引き続き資金調達に成功している。2016年の上半期には、120もの案件に17億ドルの資金が投入されており、この数字は過去10年間のどの期間と比べても1番多い。しかし、投資額が伸びている一方で、案件数は横ばいとなっている(2015年上半期:123件、2016年上半期:120件)。これらの数字から、ハードウェア業界が成熟しつつあり、投資家は初回投資に自信を持ち、どの企業がうまく事業を運営しているかを消費者が理解していく中で、同業界は踊り場に差し掛かろうとしていると考えられる。
つまずくGoProとFitbit
昨年のハードウェア業界の寵児であるGoProとFitbitは、成長を維持するのに苦労しており、現在の両社の時価総額は、ピーク時の約4分の1にまで落ち込んだ。興味深いことに、この2社が苦労している理由は、競合の登場による製品のコモディティ化ではなく、それぞれの市場が飽和状態にあることなのだ。既にGoProやFitbitを持っていれば、最新の良いモデルを購入するインセンティブが働きづらくなる。両社が、来年新たな製品ラインで成功を掴むことができるか見るのが楽しみだ。
昨年は、Square、Misfit、Withings、Whistle、Jaybirdなどを含む、たくさんの企業がイグジットに成功した。2014年に比べると、数十億ドルの規模に達するサクセスストーリーの数は少ないものの、この分野でイグジットしている企業がいるというのは喜ばしいことだ。
サンフランシスコが依然ハードウェア企業への投資を支配
ボストンとニューヨークのコミュニティが大きな成長を遂げた一方で、両都市の数字を合わせても、サンフランシスコの半分程にしかならない。ベイエリアの(100万ドル以上の資金調達を公に行った)ハードウェアスタートアップの数は、私の計算だと現時点で161社で、昨年の110社から増加している。ニューヨークは、調達総額と資金調達に成功したハードウェアスタートアップの数どちらに関しても、最近ボストンを追い抜いた。
ハードウェアに特化したベンチャーファンドの増加
昨年、Eclipseは、初となる1億2500万ドルのファンドを組成し、すでに新たなファンドの設立に向けて動いていると言われている。パリに拠点をおくHardware Clubも、自社ファンドの募集を終えようとしている。しかし、どのVCがハードウェアの分野で1番良い成績をおさめているか、というのを判断するにはまだ早い。これまでで最大のイグジットを行った企業(Fitbit、Square、Nest)は全て、ハードウェア業界への投資が盛り上がり出した2011年以前に設立された。誤解しないでほしいのが、VCは既に多額のリターンを受け取っている(SoftTech とTrueはFitbitから、KleinerとShastaはNestから、KhoslaはSquareから)ものの、VCからの投資を受けたハードウェアスタートアップのほとんどが、設立からまだ2〜4年しか経っていないのだ。
過去数年間がハードウェアスタートアップへの期待の時代だったとすれば、今後数年間は、彼らの実行力の時代になるだろう。
VCによるハードウェアスタートアップへの投資件数の増加は、必ずしも彼らがこの分野に注力していることを意味しているわけではない。例えば、a16zはLux Capitalと比較して、これまでに50%も多くのハードウェア関連の投資案件に参加してきた。しかし、a16zのポートフォリオの中で、私たちが”ハードウェア”と分類するものの割合は8%以下しかない一方、Lux Capitalのポートフォリオにおけるハードウェア企業の割合は25%以上だった。
考察
ハードウェア業界への投資は、過去1年半の間に盛り上がってきたが、市場が成熟するにつれて投資額の伸びは踊り場に達しようとしている。そして、2013年、2014年に市場を騒がせた製品の数々が、ようやく出荷されはじめたところだ。大半の企業に関してはまだ判断が難しいものの、突出した勝ち組(Eero)と負け組(Skully)も現れはじめた。
過去数年間がハードウェアスタートアップへの期待の時代だったとすれば、今後数年間は、彼らの実行力の時代になるだろう。新たなファンドやアクセラレーターが次々と誕生する中、アーリーステージのハードウェア企業が資金調達を行うのは、これまでにないほど簡単になっているかもしれないが、スケールのためのその後の資金調達段階はデスバレーのままだ。
ハードウェアの定義は人によってそれぞれだが、この記事内の”ハードウェア企業”とは、インターネットに接続されたデバイスのハード・ソフトウェアの開発を行っているスタートアップを指している。ロボットやウェアラブルデバイス、IoTデバイスなどを開発する企業が、このカテゴリーに含まれる一方で、ほとんどの消費財企業は含まれていない。Casper、Warby Parker、Bonobosといった消費財企業は、ハードウェア企業と言うよりも、流通面にイノベーションをもたらすECブランドと考えている。
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)