ロシアが米国向けロケットエンジン販売禁止、「自分たちのほうき」で宇宙へ飛ぶことを提案

ロシアと米国の間で(他の国はいうに及ばず)緊張が高まる中、ロシアの国営宇宙機関Roscosmos(ロスコスモス)は米国へのロケットエンジンの出荷を停止すると発表した。Roscosmoを率いるDmitry Rogozin(ドミトリー・ロゴージン)氏は、国営放送でこう述べた。「何か他のもの、自分たちのほうきにでも乗せて飛ばせばいい、何になるかは知らないがね」。幸いなことに、我々にはほうきよりも良い方法がある。

今回影響を受ける2つのロシア製エンジンは、ULA(United Launch Alliance)のAtlas V(アトラスV)やAntares(アンタレス)ロケットの主推力として20年間使われてきた信頼性の高い強力なエンジンだ。しかし、ここ数年、AtlasとAntaresの打ち上げ、特に90年代に開発されたエンジンを使った打ち上げは、打ち上げ量と能力において非常に少数派になっていることは、ご存じのとおりだ。

長い時間軸を持つ産業に属するということは、このような事態に前もって備えるということであり、米国はかなり以前からロシアのハードウェアへの依存度を下げる努力をしてきた。具体的には、ULAは2018年に、次世代ロケットVulcan(ヴァルカン)のために、ロシアのRD-180エンジンの代替品を開発するようBlue Origin(ブルーオリジン)に依頼した。

このBE-4エンジンはまだ準備が整っていないが(Blue Originが実証した宇宙旅行フライトは、打ち上げプロファイルがまったく異なる)、ULAのトップであるTory Bruno(トリー・ブルーノ)氏は、The VergeのLoren Grush(ローレン・グラッシュ)氏に対し、ULAはその方向に向かっており、何にしろ移行期間を乗り切るのに必要なRD-180を十分に持っていると語った(同組織にコメントを求めたので、返答が得られたら更新する)。Northrop Grumman(ノースロップ・グラマン)は、今後数年間、RD-181(同じく禁輸となった)を使用するCygnus(シグナス)の飛行を計画していたため、より大きな影響を受けるかもしれない。

しかし、米国のレガシーロケットプロバイダーの備えよりも重要なのは、新しいロケットプロバイダーの急増だ。もちろんSpaceX(スペースX)は誰もが知っているし、Rocket Lab(ロケット・ラブ)も急速にお馴染みの社名になりつつある(あなたの家庭が軌道サービス産業に隣接している場合)。しかし2022年は、Relativityの「Terran 1」3Dプリントロケットの初飛行も見られるだろうし、Astra(アストラ)などの新興企業は、迅速、頻繁かつシンプルな打ち上げを行うことでコストを最低限に抑えようとしている。

さらに、米国政府はハイプロファイルで機密性の高いミッションに、こうしたより新しい商業打ち上げ業者を利用することに急速に抵抗がなくなってきている。国家偵察局(NRO)や国防総省が最新のスパイ衛星を民間のロケットでは軌道に乗せない、あるいは乗せられないという時代は終わりを告げようとしているのだ。

また、広く捉えると、打ち上げの世界は、ロシアとの新たな冷戦が始まらなかったとしても、RD-180が持続可能な選択肢であった時代からすでに脱却しているということだ。Ford(フォード)に辻馬車を売らないぞと脅している馬車メーカーと言ったら言い過ぎかもしれないが、ロケット、カプセル、発射台、インフラに至るまで、ロシアの最新鋭の宇宙技術はすでに市場から見放されていた感がある。

米国が設計し、米国が打ち上げる新世代ロケットや宇宙船に民間や政府の資金が大量に投入されたことは、政治情勢が悪化しなかったとしても、さまざまな面で現実的な判断であったといえるだろう。その投資の成果は今、明らかになりつつある。10年後、ロシアは米国のほうきに乗りたがっているかもしれない。

画像クレジット:Official U.S. Navy Page / Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Den Nakano)

ロケットエンジン分野における「インテル」的企業を目指すUrsa Major

ロケット打ち上げの分野には、ますます多くの参入が続いている。大手企業の多くは自社でロケットエンジンを製造しているが、宇宙関連スタートアップ企業のUrsa Major(ウルサ・メジャー)は、多くの新規打ち上げ事業者が自社でエンジンを製造するよりも外注したいと考えていることに賭けている。

SpaceX(スペースX)やBlue Origin(ブルー・オリジン)で推進機関エンジニアを務めてきたJoe Laurienti(ジョー・ラウリエンティ)氏が設立してから6年が経過したUrsa Majorは、事業規模を拡大する準備が整っている。そのために過去最大の資金調達をクローズしたばかりだ。8500万ドル(約96億5000万円)を集めたこのシリーズCラウンドは、主導したBlackRock(ブラックロック)が運用するファンドやアカウントに加え、XN、Alsop Louie(アルソップ・ルーイ)、Alpha Edison(アルファ・エジソン)、Dolby Family Ventures(ドルビー・ファミリー・ベンチャーズ)、KCK、Space Capital(スペース・キャピタル)、Explorer 1(エクスプローラー・ワン)、Harpoon Ventures(ハープーン・ベンチャーズ)などが参加した。

「私たちが市場に投入しようとしているものの多くは、その次のステップです」とラウリエンティ氏は説明する。「私たちは、この産業をより速いライフサイクルへと進化させたいと考えています」。

そのためにUrsa Majorは、迅速にエンジンを製造したいと考えており、2022年には週に1基、さらにその後は週に2基のペースでエンジンを製造することを目指している(現在は1人の従業員が1基のエンジンを組み立てるのに約5日、顧客への出荷準備には最大で数週間を要する)。同社はPhantom Space(ファントム・スペース)やStratolaunch(ストラトローンチ)など、いくつか民間企業の顧客を獲得し、政府と研究開発契約を結んでいるが、まだそのエンジンは宇宙に出ていない。

「宇宙には非常に多くのアクセスビリティが必要になるため、打ち上げにはかなり複雑なエコシステムが必要になるだろうということは、6年前からわかってました」と、ラウリエンティ氏はいう。

打ち上げコストが下がっていく一方で、宇宙への打ち上げサービスに対する需要は、この10年の間に増える一方であることが予想される。Fortune Business Insights(フォーチュン・ビジネス・インサイト)では、打ち上げ事業の世界市場規模が、2019年の126億7000万ドル(約1兆4400億円)から、2027年には最大261億6000万ドル(約2兆9700億円)に拡大すると予測している。

しかし、ロケットエンジンは最も開発が困難な装置の1つだ。Blue OriginがUnited Launch Alliance(ユナイテッド・ローンチ・アライアンス)のためにBE-4エンジンを開発した際の労苦や、Elon Musk(イーロン・マスク)氏が従業員に宛てた「ラプター生産の危機」に関する手紙を見るだけでも、エンジン開発が簡単な仕事ではないことがわかる。

Ursa Majorは2つの製品を持っている。現在生産に入っている推力5000ポンドの液体酸素/ケロシンエンジン「Hadley(ハドレー)」と、その10倍の推力5万ポンドを発生する次世代エンジン「Ripley(リプリー)」だ。2022年には50基以上のHadleyエンジンを納入する予約を受けており、Ripleyエンジンは今後2、3年のうちに生産を開始すると、ラウリエンティ氏は語っている。

同氏はUrsa Majorを、常によりパワフルなプロセッサーを開発し、その専門知識をDell(デル)やLenovo(レノボ)などのブランドに供給しているIntel(インテル)のような企業に例えている。「私たちは、自分たちが技術開発の会社であるという考え方を好んでいます。現在ロケットを飛ばしている企業は、自分たちが10年前に設計したロケットと同じエンジンを飛ばすべきではなかったはずです。それが垂直統合のパラダイムなのです」。

同社はコロラド州にエンジンを製造する施設を持っているが、そのエンジンの大部分は3Dプリントで作られている。施設には3つのテストスタンドが併設されており、各々のエンジンは顧客に納品する前にそこでテストされる。

Ursa Majorは新たに調達した資金を使って、製造規模の拡大とさらなるエンジン開発に取りかかることを計画している。

画像クレジット:Ursa Major

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)