ハリウッドの大物や音楽界のセレブの支援を受けるショート動画アプリTriller(トリラー)は、ユーザー数も評価額も急上昇している。現在は2億5000万ドル(約260億円)の新規投資ラウンドを募っているが、これが成功すれば評価額は10億ドル(約1060億円)以上にまで押し上げられると、この件に詳しい情報筋は話していた。
昨年10月にウォールストリート・ジャーナルが報じた同社の評価額1億3000万ドル(約137億円)から、一足飛びの大幅増となる。Trillerの創設者でCEOのMike Lu(マイク・ルー)氏はコメントを控えたが、別の企業幹部は、dot.LAの記事でこの資金調達について認めている。
このアプリはTikTok(ティックトック)に取って代わるものとして注目されるようになったが、じつはTikTokが登場する2年前の2015年から存在していた。しかもTrillerには「独自性とエコシステム」があると、創設者は主張している。
ルー氏によればTrillerは、トランプ政権がTikTokの禁止や強制処分を検討し始めるより前に、すでに「目覚ましい成長」を遂げていたという。ただ、TikTokへの反発が起きてからアプリの人気が跳ね上がったのも事実だと彼は認めている。このわずか2日間足らずで、3500万人のユーザーがTrillerに加わった。このアプリは現在までに、世界で2億5000万回ダウンロード(PR Newswire)されている。
ロサンゼルスを拠点とするこのスタートアップが、4月だけで20億回以上ダウンロード(Sensor Tower)されたTikTokに追いつくには、まだ長い道のりがある。両社とも、ユーザーが動画と音楽をマッチさせられる機能を売りにしており、それは双方の成功の決め手となった。しかしこれに関してTrillerは、最近になって、「オーディオトラックと同期する音楽動画の制作」に関する特許を侵害したとして、この中国のライバル企業を起訴(日本語版TechCrunch)している。
今のTrillerがあるのは、一部にはRyan Kavanaugh(ライアン・カバノー)氏(フォーブス)が創設したハリウッドのスタジオProxima Media(プロクシマ・メディア)がマジョリティ投資家に(PR Newswire)なったお陰だと言える。ルー氏によれば、Trillerはこの規模に到達するまでマーケティングには一銭も使っておらず、「テクノロジーの歴史上、例のないこと」だと話している。『ワイルド・スピード』や『ソーシャル・ネットワーク』などのヒット映画のプロデューサーであり投資家でもあるライアン氏が、メディアへの大々的な露出やセレブの人脈を活かし、自然の成り行きとしてファンたちをTrillerユーザーに転向させたことは間違いない。
Made with @triller #triller do you have what it takes?Finding the worlds next #superstar. @migos @starrah the new #americanidol @boostmobile pic.twitter.com/x0DlNttoaA
— Ryan Kavanaugh (@RyanKavanaugh) May 10, 2020
ライアン・カバノー「Trillerで作った。みんなにはできるかな? 次なる世界的スーパースターを探すんだ。ミーゴス、スタラー、Boost Mobileで新しいアメリカンアイドルだ」
Trillerは、メジャーなレコードレーベルとの契約(PR Newswire)も固めている。それによりユーザーには、音楽を主体とした動画制作の道が開かれる。同社を支援しているエンジェル投資家のリストには、スヌープ・ドッグ、ザ・ウィークエンド、マシュメロ、リル・ウェインといったビッグネームが名を連ねている(PR Newswire)。
「ライアンは、ハリウッドでも、娯楽とメディアの業界でも右に出るものがない」とルーは言う。Proxima Mediaには「このステージに、この大躍進に導いてくれた大きな恩があります。彼らなくして、ここまで来ることはなかった」
有名タレント品質のコンテンツは、TrillerがTikTokに差を付けている要素のひとつだと、Trillerに戦略的ラウンドで投資しているPegasus Tech Ventures(ペガサス・テック・ベンチャーズ)のジェネラルパートナーAnis Uzzaman(アニース・ウザマン)氏は言う。
「TikTokは自前のセレブを育てようとしています。Trillerにはすでに、ビッグなセレブが揃っています」と同氏は、今や新曲発表の場としても人気を高めているTrillerで、アリシア・キーズ、カーティ・B、マシュメロ、エミネムなどがシェアした動画を引き合いに出して話している。TikTokもまた、アーティストが新曲を試す実験場(Rollingstone)になっている。
だが同時に、TikTokが得意としている一般ユーザーのエンゲージメント維持にも苦心している。たとえばTrillerは、プロの作品のように音楽動画を仕上げられるAIを使った編集機能を自慢している。また、Trillerで人気の歌をランク付けするビルボード・チャート(Billboard)も開始した。新進のクリエイターとセレブとが平等に活躍できる土俵だ。
「若い人たちに、セレブに近づけた感覚が与えられます」とウザマン氏は言う。
またウザマン氏は、このショート動画の分野には、複数のプレイヤーが活躍できる余裕があると信じている。Uber(ウーバー)とLyft(リフト)が共存している状態と近い。事実、近年の中国では、中国版TikTokである抖音(ドウイン)は、快手(クアイショウ)と肩を並べている。
ルー氏は、当初のTrillerの独自性は音楽、とくにヒップポップに根ざしており、対象年齢層は18歳から15歳と考えている。
それに対してTikTokは、軽いノリのダンスからお馬鹿なネタまで、なんでもありだ。その違いは、App Storeのそれぞれのスクリーンショットを見比べるとわかる。
TikTokに代わるもの
TikTokの運命は、今のところMicrosoft(マイクロソフト)がこの中国所有のアプリを買い上げる(日本語版TechCrunch)可能性が高まっているものの、これからの数週間で激変する可能性がまだ残されている。アメリカ生まれという身元でTikTokのユーザーを奪い取れると見込むスタートアップも数社あるが、カリフォルニアの広告代理店Creative Digital Agency(クリエイティブ・デジタル・エージェンシー)の調査は、そうはならないと示唆している。
調査に応じた数百人のTikTokユーザーのうちの65パーセントが、TikTokがアメリカの会社になったとしても、そのデータの取り扱い方針に安心感が高まるとは思えないと回答している。さらに84.6パーセントが、禁止法案は政治的思惑によって持ち出されたものだと信じている。
「アメリカのどのソーシャルメディア・プラットフォームも、重大なプライバシー問題である個人情報のデータマイニングにおいては、まったく同じことを行っていると、大多数の人が信じています」と、同広告代理店の業務執行取締役Kevin Almeida(ケビン・アルメイダ)氏は指摘する。
とは言うものの、一部のクリエイターが、TikTokが禁止された場合にフォロワーを失うリスクに備えて対策していることもあり、このところTikTokの伸びは鈍化している。調査会社Sensor Tower(センサー・タワー)が分析したデータによれば、先週、アメリカでのTikTokのダウンロード回数は、4週間の平均に比べて7パーセント減少した。アメリカでの総ダウンロード回数は1億9000万回弱だ。
TikTokの将来不安に乗じて業績を伸ばしているアメリカのスタートアップは、Trillerだけではない。Sensor Towerによれば、これらの他に少なくとも3つのショート動画アプリが、先週、数十万の新規ダウンロード回数を記録している。そのうち2つは中国発祥だ。
この3つとは、Dom Hofmann(ドム・ホフマン)氏がTwitter(ツイッター)によって閉鎖(日本語版TechCrunch)されたVine(バイン)の後に新たに立ち上げた(日本語版TechCrunch)アプリByte(バイト)、中国で育ったTikTokのライバル快手が運営するZynn(ジン)、そして中国のYY(歓聚時代)に買収された(英語版TechCrunch)シンガポールの会社Bigo(ビゴ)が運営するLikee(ライキー)だ。総ダウンロード回数はそれぞれ、290万回、640万回、1630万回となっている。
TikTokのかつてのライバルDubsmash(ダブスマッシュ)(日本語版TechCrunch)の成長はそれほどでもないが、これらの競合アプリの中では、アメリカでインストールされた回数がもっとも多く、最近では416万回に達している。
これに対して、Trillerは、アメリカでのダウンロード回数が2380万回に達した。このアプリは、TikTokが禁止されたインドでダウンロード回数が急増(PR Newswire)しているが、TikTokがまだ利用できるヨーロッパやアフリカの国々でも、人気上位の写真および動画アプリの仲間に入っている。
Trillerは、世界に350名の従業員を擁しているが、そのほとんどはアメリカで、コンテンツの運用とエンジニアリングに携わっている。
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(翻訳:金井哲夫)