ヘルスケアテックの仏Doctolibが暗号化スタートアップTankerを買収

フランスのスタートアップDoctolib(ドクトリブ)は、米国時間1月11日にTanker(タンカー)の買収手続きを完了する見込みだ(当局への提出書類による)。Doctolibはフランスのユニコーンで、医者や医療従事者の管理業務を支援する「サービスとしてのソフトウェア」を開発している。具体的には、医者と患者を引き合わせる予約プラットフォームとして機能し、ヨーロッパで30万の医療専門家が有償で利用し、6000万人の患者がDocolibを利用している。

Tankerは、医療テック企業がユーザーデータを安全に管理するのを支援するスタートアップだ。同社はプロトコルを開発するとともに、ウェブアプリやモバイルアプリ、デスクトップアプリに統合するためのクライアントサイド開発キットを提供している。

アプリにTankerを統合すると、患者と医療従事者の間で共有されるメッセージやファイルがエンド・ツー・エンドで暗号化される。Tankerも、Tankerの顧客もファイルやメッセージを解読することは不可能で、それはプライベート暗号キーをアクセスできないからだ。つまり、送り主か受け手でない限り、データを解読することはできない。

医療業界に焦点を当てているTankerは、Doctolibの他に、医療保険スタートアップのAlan(アラン)や遠隔医療のスタートアップQare(ケア)の名前が同社ウェブサイトの顧客リストに載っている。2020年6月にDoctolibは、Tankerとの提携によって、エンド・ツー・エンド暗号化を導入したことを発表した。

ある情報源が、DoctolibとTankerとの取引の詳細がかかれた2022年1月3日の当局提出資料を送ってきた。2021年12月22日に提出された前回の資料も買収に言及している。いずれの書類もPappers(パッパー)で見ることができる。

「DoctolibはTankerという会社の株式を買い取る計画です」と弁護士が書簡に書いている。「この取引は2021年12月9日に署名された合意書に基づいて実行され、Tankerの株式資本の100%がDoctolibに移管されます」。

直近の提出書類では2022年1月11日が取引完了日となっていて、それは本日にあたる。別の情報源は、買収が現在進行中だと私に伝えた。TechCrunchはDoctolibに連絡を取ったが、本件については「ノーコメント」という返答だった。

法定書類によると、DoctolibはTankerを現金および株取引によって買収し、Tankerの価値を2800万〜3400万ドル(約32億3000万~39億2000万円)としている。

企業価値の謎

昨日私は、Doctolibの最近の指標と今後の製品リリースに関する記者会見について書いた。興味深いのは、Doctolibの共同ファウンダー・CEOであるStanislas Niox-Chateau(スタニスラス・ニオックス=シャトー)氏が、同社は「過去数年、調達ラウンドについて発表していません。毎年、毎四半期、投資家のみなさんは、当社の長期計画に基づいて、追加あるいは初めて投資しています」と語ったことだ。

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遡って2019年、同社は企業価値が11億3000万ドル(約1302億9000億円)に達したと発表した。Doctolibが調達ラウンドについて話したのはそれが最後だった。

しかしそれは最新の調達ラウンドではない。例えばCharlie Perreau(シャーリー・ペロー)氏は、General Atlantic(ゼネラル・アトランティック)が2020年2月に6900万ドル(約79億5000万円)を同社に投資したことを指摘している。

同社の企業価値に関していうと、Tankerの買収に基づくとDoctolibの1株の価値は170.91ユーロだ。Doctolibの株数は約1800万株なので、Doctolibの企業価値は約30億ユーロ(約3932億2000万円)ということになる。

この評価額はDoctolibのユーザー基盤(30万人)とDoctolibの最低料金(月額129ユーロ[約1万6900円])を考えると低く感じる。おそらくDoctolibの株価は、Tankerの投資家への好意から、やや低くつけられているのだろう。おそらくDoctolibは、しばらく資金調達をせず、近々高い企業価値で調達しようとしているのだろう。今のところは謎のままだ。

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画像クレジット:Doctolib

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(文:Romain Dillet、翻訳:Nob Takahashi / facebook

フランス、ドイツ、イタリアの30万人もの医師や医療従事者に使用されている仏Doctolibのツール群

フランスのスタートアップ企業であるDoctolib(ドクトリブ)が、(仮想)記者会見を開き、いくつかの指標を発表して最近の製品ローンチを振り返り、今後の投資についてヒントを示した。Doctolibは、医師のための予約プラットフォームとして始まり、医師や医療従事者一般のための他のサービスにも拡大している。

医療従事者は、SaaSとして提供されるDoctolibのツールを月額利用料を支払って利用し、それを患者に使用する。その事業は順調で、現在、開業医、歯科医、薬局、心理士など、30万人の医療従事者が毎月Doctolibへの支払いを行っている。サブスクリプションは月額129ユーロ(約1万7000円)から開始するが、このことによりスタートアップは毎月数千万ユーロ(数十億円)の収益を上げている。

プラットフォームがフランス国内で臨界点に達したことによって、2021年は同社にとって極めて重要な年となった。例えばフランスで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防接種を受けようと思ったときには、多くの人がDoctolibのサイトを訪れて、最寄りの予防接種センターや薬局、空き枠のある医師を探している。ワクチン接種施設は他のプラットフォームを使って情報を提供することも可能だが、実際にはほとんどの施設がDoctolibを使って予約を処理している。

Doctolibは現在、フランス、ドイツ、イタリアで展開している。現在もフランスは同社の主要市場だ。これまでに6000万人がDoctolibを利用していて、その多くが予約のためにサービスを利用している。2022年には、さらに10万人の医療従事者と協働することになると、同社は予測している。

製品群の開発

非常に多くの医師と商業的な関係を築いたことで、Doctolibは新しい製品をリリースしたり、一連のサービスを構築することができる。多くの点で、DoctolibはSalesforce(セールスフォース)の戦略を踏襲している。他の商品の踏み台として機能する、非常に集客性の高いメイン商品を持っているという点だ。

数年前には、遠隔医療機能を付加したリモートアポイントメント機能をローンチした。もう少し利用料金を支払うことを選択した医師は、ビデオ通話を行ったり、Doctolibの支払いシステムをリモートアポイントメントに使ったりすることができるようになる。

2021年、DoctolibはDoctolib Médecin(ドクトリブ・メディサン)を発表した。これは管理業務を行うバックオフィスツールだ。例えば患者ごとに書類を一元管理したり、患者の履歴を見たり、メモを取ったり、請求書を発行したりすることが可能になる。

Doctolibのフランス担当責任者のArthur Thirion(アーサー・ティリオン)氏はこう語る「私たちはこれに3年前から取り組んでいます。既存のものと比較して、ゼロから始めようと考えました。現在は、2000人強の医師に使われています」。

もちろん、医師としての仕事を管理してくれる製品はこれが初めてではない。しかし、これはDoctolibの他のエコシステムとうまく統合されている。

同様に、Doctolibは、Doctolib Team(ドクトリブ・チーム)という新しいサービスで、プラットフォームのネットワーク効果を高めたいと考えている。今回同社は、新たな収益源を作るのではなく、Doctolibを必須のものにしたいと考えている。

Doctolib Teamは、専門家を見つけてチャットができるインスタントメッセージングサービスだ。また、患者に関する書類を安全に送ることもできる。

すでにDoctolibを使用している医療関係者にとって、ありがたい機能と言えるだろう。まだDoctolibを使用していない医療従事者の場合は、無料のDoctolib Teamアカウントを作成して使い始めることができる、おそらく将来的にはDoctolibの他の製品をサブスクライブすることもあるだろう。

画像クレジット:Doctolib

高レベル監視下での運用

Doctolibは、機密性の高い医療データを扱うため、一般的なスタートアップ企業とは異なる。これまで、同社のデータ管理やデザインの決定について多くの報道がなされてきた。

そして同社は、他のスタートアップ企業と同じようには行動できないことをよく理解している。例えばこのスタートアップはユニコーンの状態になったものの、それ以降は資金調達の詳細を公開しなくなった。みんなの健康を増進しようとするときには、あまりお金の話はしたくないものだ。

共同創業者でCEOのStanislas Niox-Chateau(スタニスラス・ニオックス=シャトー)氏はいう「過去数年間、資金調達に関する発信をやめていました。毎四半期、毎年度、投資家のみなさまは我々の長期プロジェクトに基づいて、投資したり、再投資したりなさいます」。

現在Doctolibは、ミッション駆動の会社になりたいと考えている。ミッション駆動とは、一定のルールを遵守した場合に得られる特別なステータスだ。そして、スタニスラス・ニオックス=シャトー氏は、自らの会社を社会を改善する会社として位置づけるために、複数の論点を見出している。

例えばDoctolibのビジネスモデルは非常に明確で、医療従事者からのサブスクリプションのみで成り立っているという。同社は患者データを収益化していない。

同氏によれば、このプラットフォームは広く利用されていて、デジタルデバイドも引き起こしていないという。例えば多くのユーザーは大都市に住んでいないし、高齢者でも簡単に使えるようになっているという。

しかし、だからといって、同社は立ち止まるつもりはない。2022年には野心的な拡張計画が控えている。Doctolibは、2300人の従業員から3000人の従業員へとチームを拡大する予定だ。そして、フランス時間1月10日以降、全従業員がDoctolibの株主になる。全員が少なくとも2万ユーロ(約261万3000円)相当の株式交付を受ける。

2022年には、フランス、ドイツ、イタリアにおける製品の改良とプラットフォームの拡大のために、3億ユーロ(約392億円)の投資を計画しているが、これは主に新規雇用と新オフィスに使われる。2022年には新しい市場の立ち上げは予定されていないが、それはもっと先になるのだろう。

画像クレジット:Doctolib

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(文:Romain Dillet、翻訳:sako)