オフィス電力や配送センターの人の流れを最適化、Enlightedのセンサーネットとは

2009年に創業したEnlightedは、オフィスの空調設備や省エネ対策、空間の最適利用など、ビルの管理にまつわるソリューションを提供するスタートアップ企業だ。ハード面ではセンサーデバイスを、ソフト面ではセンサーから得たデータを分析するためのツールを開発している。こうして得たデータにより、オフィス内の照明や空調を最適化するという、IoTを駆使したソリューションを提供しているのだ。

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米Enlighted エグゼクティブバイスプレジデント Christian Rodatus氏

TechCrunch Tokyo 2015に登場したEnlightedエグゼクティブバイスプレジデントのChristian Rodatus氏によると、同社はネットワークエンジニアが中心となって創設した企業で、創業当時にはビル管理や省エネなどの知識はなかったのだという。それが、「さまざまなセンサーをネットワークに埋め込み情報を分析することで、オフィスビルの管理に変革を与えることができる」という思いから、現在のソリューションの開発に至ったという。

「オフィスビルは、企業にとって最も価値のある資産であるはずなのに、その施設内で何が起こっているのかしっかり管理できている企業は少ない。HVAC(冷暖房空調設備)は、ビルのエネルギー消費の約50〜70%を占めているとされる。アナリティクス技術などを活用すれば、エネルギー効率はより改善できるはずだ。Enlightedはこの分野で企業を支援したい」とRodatus氏は言う。

人の流れの分析や最適化も

例えば、小売店舗では1平方メートルあたりの収益をいかにして引き上げるかが重要となるが、「POSデータを分析しても、実際に顧客が商品を購入するまでその顧客のことは分からない。われわれのソリューションでは、顧客が実際にどの空間をどう歩き、どの製品をどう選んでいるかまでを捉えている」とRodatus氏。また、労働力の生産性を向上させるため、1人1日約20キロも歩き回っている大手オンラインリテール会社の配送センターにて、人の動きや流れを分析して最適化した事例もあるという。

こうしたソリューションを実現するためにEnlightedが開発したのが、照明に取りつけることでその場の人の動きや温度・湿度といった環境を感知したり消費電力を把握したりするセンサーだ。また、これらセンサーから安全にデータを収集する無線ネットワークと、収集したデータを分析する管理ソフトも用意した。

TC-1608「照明というものは、どんな建物にもついているものだ。これにセンサーを取り付けることで、人の動きやその場の環境などさまざまな状況が感知できるようになる。センサーが発するデータは5分ごとに収集され、そこから分析をかけている」(Rodatus氏)

また、同センサーは照明に取り付けるタイプのため、センサーの電力を照明から補給できると同時に、照明器具の管理もできることが利点だという。「例えば、センサーがある特定のイベントを検知した場合、照明に何らかの操作をさせるといったことも可能だ。センサーをエネルギー管理の仕組みとして活用することで、照明のエネルギー消費は60〜90%程度削減することが可能となる。そこで削減したコストを、このセンサーネットワークの資金源として使えるのだ」とRodatus氏。また同社では、初期費用の課題を支援するため、Global Energy Optimization(GEO)というファイナンスプログラムも用意している。

Enlightedがこれらのソリューションを販売開始したのは3年前。同社の顧客には、GoogleやIntel、Cisco、AT&Tなど、テクノロジー系企業も数多く名を連ねている。Oracleも早期にEnlightedの製品を導入した1社で、「Oracleは2016年末までに社員1人あたりのエネルギー消費を10%削減するという目標を掲げており、その目標を達成するためにEnlightedのソリューションを採用した」とRodatus氏は述べている。

「Enlightedは、最先端のセンサーテクノロジーを活用した完全なIoTスタックを用意しており、そこから環境や人の行動データなどが取得できるようになっている。われわれは、今後10年で商用不動産におけるインテリジェントセンサーネットワークの市場が100億ドルになると見ている。これは非常に大きなチャンスだ。その後も、アナリティクスアプリケーションの市場はさらに毎年100億ドルずつ成長するだろう。つまり、施設のデータを分析し、それをさまざまな分野に適用していくことによってもたらされる価値は、非常に大きなものになるのだ」(Rodatus氏)

TechCrunch Tokyoにメッシュセンサーでビルの省エネを実現する「Enlighted」が来る

Christian-Rodatus1約2週間後の11月17日、18日に迫ったTechCrunch Tokyo 2015の海外ゲストスピーカーについて、またもう1人紹介したい。日本ではほとんど知られていないだろうけど、広い意味でIoT系スタートアップ企業といえる「Enlighted」から、グローバル・ビジネス部門を統括するChristian Rodatus氏にご登壇いただけることとなった。

フロアのヒトの位置、流れを把握してオフィスの電力消費を最適化

IoTというと最近出てきたバズワードだけど、Enlightedが生まれたのは2009年と、もう少し歴史は古い。Enlightedは過去5回の投資ラウンドで5560万ドル(67億円)の資金を調達している。何をしているかをヒトコトで言うと、センサーネットワークを使ったオフィスビルの省エネだ。以下のようなセンサーデバイスを主に天井に取り付け、オフィス内の光と温度、動きの分布を検知して、電灯や空調をコントロールする。

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Enlightedのセンサー。天井に貼り付けるもの、屋外利用できるもの、小型タイプなどがある

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ヒートマップでヒトの動きを把握

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実際にヒトがいるところだけ電気をオンに

Englightedの1つのポイントは、光を検知するといっても光の強度のことであり、映像を撮影するというわけではないということ。

Enlightedのセンサーデバイスのもう1つのポイントは、ZigBeeを使った無線ネットワークを独自に構築していること。つまり既存のWiFiに依存することはない。Enlightedは、もともと無線技術のプロが集まって「メッシュネットワークが何に使えるか?」という議論から始まった会社なのだそうだ。メッシュネットワークなので、WiFiのアクセスポイントのように複雑なネットワーク設計が不要でインストールが容易というメリットがある。ゲートウェイを介してクラウド側に送った各種メトリックスは、ブラウザ経由で見ることができて、各種設定も利用者がブラウザから直接行える。

オフィスといっても全フロアに常に人がいるわけではない。例えば、夜になって一部の残業組のためにオフィスの電灯が煌々と全フロアを照らしているという光景は、多くの人が見覚えがあるだろう。最近だと「こまめに電気を消しましょう (総務部)」と書いてあるのかもしれないが、もう人間が電気のオン・オフをやる時代は終わるのだ。「まだ人間が消灯してるの?」ということだよね。

オフィス環境の空調も同じだ。ヒトの分布を調べ、空調を最適化することができれば、エネルギー効率は高まる。曜日や時間帯でパターンを学習していくことができれば、人間がやるよりも、はるかにきめ細かなコントロールができて、しかも快適ということになる。

将来的には家賃や人件費の最適化にも

Enlightedは、すでにOracleやGoogle、AT&Tのコールセンターといった大企業など約60社でも採用されていて、6万5000平米のオフィスをカバーしているという。もしこれが日本の話で島型レイアウトオフィスで執務室25平米あたり8人の席があるとすると、だいたい2万人分だ。

Englighted導入による省エネ効果は、学校やオフィスで50%程度の照明用電気代の削減、ビルの通路だと78%の電力カットという事例があるそうだ。エアコンのほうは20〜30%程度の電力削減効果という。

電気代は固定費だから定常的に削ることができれば大きなメリットになるが、実は多くの企業は初期導入コストが大きくなると簡単にEnlightedのようなシステムを導入できない。特にEnlighted立ち上げの初期には、コスト削減効果を証明しづらいために企業は導入をためらった。この問題に直面したEnlightedは「GEO」(Global Energy Optimization)というファイナンス面でのスキームも考案。導入企業に代わって借入を行い、効果を保証した上で初期導入費用の問題を解決しているという。Enlightedはスタートアップ企業だが、テックのイノベーションだけでなく、こうしたビジネス面で工夫も注目だと思う。TechCrunch Tokyoに登壇してくれるChristianはSAPから引き抜かれてCEOの右腕となっている人物だから、この辺の苦労話も聞かせてくれることと思う。

さて、EnlightedをIoT企業と紹介したが、それはセンサーネットワークとして電灯のオン・オフ以上の価値を生み出す可能性が高いからだ。例えば、会議室が10個ぐらいあって、その稼働率を正確に把握できれば、8個に減らして最適化することができるかもしれない。ヒートマップでヒトの流れが分かれば、コピー機をわざとフロアに1つだけに限定して人的交流を生み出すという施策が効果を発揮しているかといった洞察に繋がるかもしれない。小売業者なら、ヒートマップによって売場レイアウト見直しの重要な気付きが得られるだろうから、これは電気代じゃなくて家賃や人件費の話になってくる。

リストバンドのようなヘルスケアアイテムで認知が広がった感のあるIoTだが、企業活動にインパクトのあるプロダクトを生み出しているエンタープライズ系IoTの最先端の話を、ぜひTechCrunch Tokyoに聞きに来てもらえればと思う。あ、ちなみにEnlightedは日本でのビジネス展開を、今まさに始めたところだそうで、パートナー企業になりたいような関係者も注目だ。

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